浜田 宏幸氏

サービス版が主役の時代に
終わりを告げる転換期
写真づくりの楽しさを
「photo+(フォトプラス)」で訴える
株式会社キタムラ
代表取締役社長(COO)
浜田 宏幸氏
Hiroyuki Hamada

カメラのキタムラが、写真づくりの時間を快適に楽しめる「photo+(フォトプラス)」コーナーを中心に、全国900店舗のうち858店をリニューアル。売り場をガラリと一新した。“撮る”だけで終わらない、“写真づくり”の楽しみを提案する大きな転機を捉えた今回の取り組みを浜田宏幸社長に聞く。

丹精込めた野菜を
美味しく料理するように
撮った写真を仕上げる楽しみがあります

今こそ伝えなければならない
写真づくりを楽しむ場

── デジタル化、さらにスマートフォンの台頭と写真を取り巻く環境が大きく変化する中で、この度「photo+(フォトプラス)」のコーナーを中心とした店舗の大胆なリフォームを行われました。

浜田カメラのキタムラの特徴は、カメラの販売にも、またDPEチェーンとしてプリントの販売にも力を入れていること。いまでは両方にしっかりと取り組まれている店も大変少なくなりました。今回のリニューアルは、後者の写真販売を強化するもので、2年かけて準備を進めてきました。

店内の写真注文コーナーを「photo+(フォトプラス)」コーナーとして一新し、写真注文機のソフトは富士フイルムさんの「WPS(ワンダープリントステーション)」へ入れ替わりました。これまでプリントと言えばサービス版が中心でしたが、WPSは、デジカメで撮った写真を材料に、フォトブックやシャッフルプリントをはじめとする多彩な商品を、スマートフォンを操作する感覚で、楽しく簡単につくれるようになっているのが大きな特長です。

5年前、私が社長に就任した時、デジタル時代の新しい写真サービスの提供をテーマのひとつとして掲げました。フィルムの時代にはカウンターでお客様をお待ちしていて、受け付けに要する時間はほんの数分でした。ところが今は、お客様がご自分で写真注文機にメディアを挿し、画像を見て、選んで注文します。すると、20分30分、長い場合は1時間掛かることもあります。効率重視だったこれまでの注文コーナーを見直す必要があります。そこで、WPSという画期的なソフトを導入するタイミングに合わせて、写真づくりを楽しめる場所を提供していきたいと考えました。それがこの「フォトプラス」のコーナーです。

これまであった仕切りは取り払われ、ゆったりと作業ができる低いテーブルや椅子を採り入れています。モニター画面も大きくなり、皆で楽しく写真づくりを楽しむことができます。カメラのキタムラに来店されたお客様が、いま、どんなプリントのサービスがあるのかを知り、販売員と会話を交わしながら楽しく覚えていっていただける場にしたい。手際良く効率よく写真を注文できる店から、写真を撮るときに楽しみ、そして、最後にプリントにしてもっと楽しんでいただける店へと進化しました。

── 全国900店のうち実に858店をリニューアルされます。

浜田最初の店の改装を昨年10月に行いました。続いて11月には、新規店舗を独特の雰囲気を持つモール「湘南T-SITE」へ出店し、行き過ぎたくらいに攻めた売り場を設けました。隣にはスターバックスさんがあり、タブレットの注文機を持っていって、コーヒーで寛ぎながら注文することもできます。そして今年4月に、ショッピングセンターとロードサイドの各2店の改装を行いました。858店を3ヵ月半で全て改装を行うため、走りはじめたら途中で修正することはできません。そこでこれら先行して行った各店舗で積み上げたノウハウで修正を行い、「これならいける」というカタチを完成させました。

写真を注文する「photo+」の両サイドには、写真を収納するアルバム、台紙、額などを配して作品作りをより楽しみやすく、また、部屋に飾ったり、収納したりした際のイメージが湧くよう展示には工夫が凝らされています。什器を全体に低くしたことで、店全体の見通しが開け、広々とした開放感も感じていただけます。

思い出を喜びに変える
写真が持つ大きな力

浜田 豊氏── フォトブックひとつとっても、まだまだ知らない人が圧倒的に多いですね。

浜田新しい商品も続々と出てきています。そうした写真の楽しみ方をまず知っていただくことが大事。友達と旅行に行くと、これまでは一緒に写った写真を1枚ずつプリントして渡していましたが、それをシャッフルプリントにして、フレームに入れてお渡ししたら、きっと何倍も喜んでもらえるはずです。そうすると今度はプレゼントされた方が、私も作ってみたいと思う。その時に「カメラのキタムラに行ったらできるよ」と、新しい写真を楽しむ輪をどんどん広げていきたい。

フィルム時代には写真にする必要がありましたが、今は撮ったその場で見られますから、写真にしたくなるような商品やサービスがないとお客様にプリントしていただけません。この課題に対し、約10年もの間、試行錯誤を重ねてきましたが、写真づくりを楽しめる環境が急速に充実してきています。

よく、「思い出を写真に残そう」と言いますが、写真で残したものだけが思い出になります。もちろん、頭の中にはすべての体験が記憶として残っていますが、1枚の写真が「ああ、こんなこともあったね」と記憶を呼び起こすきっかけになる。撮る機会はデジタル化で何倍にも増えました。そこから素敵な作品に仕上げるための環境を提供するのが、今回の「photo+」に込めた私たちの思いです。

── 写真の入口であるカメラの売上げは低空飛行が続いています。

浜田撮らないことには始まりませんから、カメラは常に1台でも多く売ろうと必死に取り組んでいます。スマートフォンが広がり、低価格帯のコンパクトの需要が食われ、台数はかなり減りましたが、スマートフォンで日常的に写真が撮られ、デジタルカメラ入門機の代わりをしてくれています。

スマートフォンで撮影してSNSにアップされた写真の中には凄く上手く撮れているものがある。そういう人はやはり使っているカメラが違うからと、カメラを買いに来るお客様が増える新しい流れが生まれています。カメラメーカーからも、価格的には少し高価ですが、特徴あるカメラのラインナップが拡充され、販売しやすい環境になりました。

── 御社ではもう一方の入口であるスマートフォンの販売にも力を入れていらっしゃいます。

浜田取り扱い店舗は430店まで広がりました。家電量販店さんの売り方とは全く異なり、スマホはデジカメであり、写真の注文機であると捉え、カメラ同様に取り組んでいるのが特徴です。カメラをご購入いただいたお客様には、使い方を説明して、その場で初期設定を行ってお渡しするのが私どもの基本スタイルですが、スマホも同様です。

車を利用して来店する郊外型の店舗が多いため、中高校生には行きづらいですが、カメラのキタムラをよく利用される写真好きのシニア層のお客様にとっては、キャリアショップは敷居が高いからスマートフォンは諦めていたけれど、カメラのキタムラなら安心できると購入に結びつくケースが増えています。困った時にも番号札をとって並んだりする必要はありません。わからなければ、販売員に何でもすぐ尋ねることができる。「カメラのキタムラで買うと後々も面倒見がいいから」と誰かが友達に見せて自慢すると、「○○さんが使えるのなら私も」と、周囲の友達にもスマートフォンを購入いただくなど新規顧客の開拓にもつながっています。

販売員の士気も高まる
写真作りの新提案

浜田 豊氏── ショールーミングという言葉もよく耳にしますが、人と人との接点が生まれるリアル店舗の強みは健在です。

浜田ネットは便利ですが、皆さんがラクラクと買い物をできるわけではありません。例えば、生まれて初めてデジタルカメラを買われる人は、どれを買っていいのかわからない。何を撮りたいのか、どんな機能が必要なのか。うまく説明できない人もたくさんいらっしゃいます。しかし、欲しいと思ったきっかけはあるはずです。「今度旅行に行くから」「お子さんが生まれるから」「運動会があるから」。販売員がいるお店なら「それならばこの機種がお薦めです」とご相談にも乗ることができます。

さらに、実際にカメラを持ち、構えてみてもらうことで、直しにくいお客様の自然な癖も分かります。それを考慮したストロボやシャッター、ボタンの位置などについてもご指摘できます。ネットだけだと疑問、迷いが増えて楽しい買い物にはなりにくいですが、販売員がお客様のお手伝いをすることで、納得できる楽しい買い物になります。

カメラのキタムラが小さいお店を全国に構えているのは、こうした多くのお客様の悩みに対峙し、長いお付き合いをしていきたいと考えるからです。お客様に繰り返しご利用いただける店づくりを常に考えています。

── photo+の改装は7月上旬に完了されたのですね。

浜田はい、完了しました。ここまでは準備、これからが本番です。サービス版のプリントが主役の時代は終わりを告げ、フォトブックやシャッフルプリントなど新しい商品がこれからの主役になります。この主役交代のために売り場をつくり替えたといっても過言ではありません。新しい写真を楽しんでいただき、写真の利用をもっともっと増やしていきたいですね。

── 漸減傾向にあったプリントが、photo+の導入に足並みを揃えるように、御社では今年度に入り前年超えで推移しているとお聞きします。

浜田喜ぶのはまだまだ早いですが、非常にいい感触を得ており、従業員の士気も高まっています。カメラのキタムラではフィルム時代からフォトコンテストをずっと続けているのですが、年間で10万枚以上の出品があります。「撮りたい」「学びたい」「見せたい」など写真には色々な可能性がありますが、写真業界そのものがシュリンクしたことで、そうしたサービスも縮小してしまった面は否めません。今回の改装を、もう一度、新しい楽しみ方を広げていくきっかけにしていきたい。

ショット数はそれこそ膨大になり、かつての100倍ではきかないくらいに増えています。これだけ撮っているのですから、もっともっと楽しめるはずです。スマホやSNSなど、デバイスやネットの中だけで完結するのもひとつの楽しみ方ですが、それだけではありません。

撮影して、それでお終いでは、一番楽しめるところを楽しんでいません。最後の作品づくりを、カメラのキタムラの「photo+」のコーナーで是非、楽しんでほしい。丹精込めてつくった野菜を、愛情を込めて美味しく料理して食べるのと同じように、カメラを買う楽しみ、写真を撮る楽しみだけでなく、そうして撮った写真を最後にどう仕上げるかという楽しみがあります。一人でも多くの人に写真づくりを楽しんでいただける環境をご提供できるよう、さらに力を入れて取り組んで参ります。

快適な写真づくりの場を提供した今回の大規模リニューアル。その核となるのがWPSを導入した「photo+(フォトプラス)」のコーナー。写真はカメラのキタムラ藤沢・湘南台店

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◆PROFILE◆

浜田 宏幸氏 Hiroyuki Hamada
1957年8月31日生まれ、愛媛県出身。81年3月 大阪芸術大学芸術学部卒業、82年10月(株)キタムラ入社。98年6月 取締役、00年7月 常務取締役、09年7月 専務取締役を経て、10年1月に社長に就任。現在に至る。趣味は読書。好きな言葉は「即断!即決!即行」。

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