粂川滋氏

オーディオブランドソニー≠フ面目躍如
高付加価値商品群で
ビジネスをもっとはつらつにする
ソニーマーケティング株式会社
執行役員
マーケティング担当
粂川滋氏
Shigeru Kumekawa

ソニーから発表されたウォークマンからコンポに至る「ハイレゾリューションオーディオ」の取り組みは、コンテンツメーカーや配信業者も巻き込み、ネットオーディオによるいい音≠フ高付加価値展開に挑むもの。オーディオ市場活性化に向け、発表と同時に各方面からの大きな期待が寄せられている。ソニーマーケティングの粂川氏に意気込みを聞く。

 

体感の場をつくってお客様に積極アピール
ハイレゾ専用の試聴コーナーを整備していく

「いい音」を手軽に
オーディオ市場に新提案

── このたびのハイレゾリューションオーディオの取り組みについて、あらためてお聞かせいただけますでしょうか。

粂川 現在のオーディオ市場は年間1500億円〜1600億円ほどで推移し、以前に比べると規模は縮小しているのが現実です。しかし、お客さまの良い音を聴きたい、良い商品が欲しいという需要は顕在化しており、1万円以上のヘッドホンで年間の売上構成比が弊社では10%ほど伸びて30%になりました。業界全体を見ても構成比が4分の1を占めるほどの伸びを示しています。

ソニーはさまざまな付加価値商品を流通の皆様と一緒に展開させていただいています。4Kテレビやデジタル一眼カメラ“α”シリーズのような、決して安くはない高付加価値の製品が高い支持をいただいていることでも、日本のお客さまは良い製品の価値をしっかり感じてくださると実感しています。

そこで今回はオーディオ領域で高付加価値展開に取り組みます。切り口はハイレゾの「いい音」。ソニーはオーディオのメーカーだという自負が我々にはあります。お客さまも年齢を問わずソニーに対するイメージはやはり「音」であり、オーディオのブランドという強いイメージももってくださっています。ここで高付加価値の製品をご提供することにより、オーディオのビジネス全体をさらに拡大したいというのが我々の思いです。

ソニーミュージックの関連会社には音楽配信会社のレーベルゲート様もあり、コンテンツ側の環境整備にも積極的に着手したいと思います。コンテンツの幅を広げていくことで、オーディオ市場も広がっていくと考えています。プレス発表会の際にも、各レーベルとも協力しながら業界をあげてもう一度、オーディオ業界を活性化したいという話をさせていただきました。

── また今回、オーディオコンポーネントの新商品も発表されて大変話題になっています。ピュアオーディオのソニーをあらためてアピールする重要な商品と感じます。

粂川 今回発表致しました製品は、20万円を超える単品コンポから、システムでお楽しみいただけるDACのシステムまでバリエーションを揃えて、幅広いお客さまに楽しんでいただけるご提案をします。

より手軽に簡単に楽しんでいただけるようにハードディスクのプレーヤーをご用意しています。PCのフォルダから自動的に楽曲がハードディスクにコピーされ、PCを立ち上げなくとも従来のオーディオコンポと同じ操作感で音楽を楽しんでいただける新たなご提案だと考えています。さらにネットワークで使用いただく利便性も加味して、スマートフォンやタブレットでお好みの楽曲の情報を見る、音量の調節をするといったことも可能です。

音の部分では、ソニー独自の技術である「DSEE HX」や「S-master HX」、スピーカーの天面に搭載したスーパートゥイーターといった技術で総合的な音質の追求を図っています。高音質のオーディオを簡単に楽しめる新たな製品として、大変ご期待いただいています。

幅広い商品群で
裾野の拡大を狙う

── ハイレゾはすでにオーディオファンの間で話題になり親しまれていますが、ここでは一般のお客様にもアピールしていくことが大きなテーマですね。

粂川 今回まさにさまざまなお客さまにハイレゾ製品群を楽しんでいただけるよう、モバイルからホームまで幅広くハイレゾ製品を展開します。ハイレゾのロゴマークを掲げてプロモーションにも注力しながらしっかりハイレゾの世界を広げていきたいと思っています。

── フォーカスするターゲット層は。

粂川 楽曲のメニューでも、ハードのオーディオ市場でも、オーディオファンのお客さまが多くいらっしゃることから、まずはそのお客さまに届くようなマーケティング活動に取り組んでいくことが重要だと思います。さらにそこからどう広げていくか。我々が幅広い製品を展開させていただいている中で、ウォークマンも含めてさまざまな製品をハイレゾとして市場に投入する意味はそこにあると思っています。

今のオーディオ市場をみると、中高年の方々が時間的にも金銭的にも余裕ができたところで、昔好きだった音楽を再び楽しんでいらっしゃるようです。一方で学生を中心とした若年層ではモバイル機器でヘッドホンを通じて音楽を聴くスタイルが定着していますが、最近ではライブコンサートで生の音楽を聴く機会を楽しまれるお客様も増え、生でなければ感じられない臨場感や音の迫力が求められる傾向が高まっているように思います。今回の新製品ではウォークマンでもハイレゾを投入しましたが、モバイル機器で音楽を楽しまれているお客さまに対するご提案は市場拡大のためにも大変重要だと思っています。

── オーディオの市場のパイを広げるということでも、大きな市場を持つウォークマンやヘッドホン、イヤホンの役割は非常に重要だと思われます。こうした商品でのいい音の訴求を、特に店頭などお客様との接点でどう行うかが課題ですね。

粂川 モバイル機器のカテゴリーは既に、特約店様の店頭でヘッドホンを繋いで聴いていただける売り場の体制ができつつあります。ご提案をさらにアップグレードし、ハイレゾ専用の試聴コーナーを特約店の皆さんと作っていきたいと思います。

大型の店舗様、オーディオ専門店様を中心に体感コーナーを作らせていただき、11月の上旬からは銀座のショールームと大阪・名古屋のソニーストアで試聴会を実施し、ハイレゾを聴いていただく環境を整えていきたいと思っています。

── イヤホン、ヘッドホンで音楽を楽しんでいる方にも、ぜひスピーカーの音を聴いて頂きたいところですね。

粂川 その通りですね。今のオーディオ売り場は、カテゴリーごとのセグメントに分かれた状態になっているのが通常ですが、お店によってはカテゴリーを超えてハイレゾ製品群を集合展示させていただき、お客さまには一連の製品群をひとつのコーナーで楽しんでいただくといったご提案を、ぜひ特約店の皆様と一緒にチャレンジしていきたいと考えています。

ハイレゾコーナーを
重要拠点で店頭展開

粂川滋氏── そこが本当に販売店対策の肝になってくると思います。今は売り場が離れているウォークマンとコンポーネントも、今回のハイレゾ商品群の流れの中で全容が見られて、コーナーの中でどちらも体験できるといったかたちが望ましいですね。

粂川 ご賛同いただける特約店様の店頭では、集合での展示に是非チャレンジしたいと思います。それが結果として市場を広げ、ご協力いただいた特約店様の売り上げ拡大にも貢献できる、ポジティブなサイクルが動き始めることを期待しています。

核となるお店様から発売と同時に一気に手掛けさせていただき、年末に向けてはしっかり整備したいと思います。ハイレゾの集合コーナーについては、各特約店様のビジネススタンスなどに対応しつつ、丁寧に進めていきます。結果としてしっかりとお客さまに音を聴いていただける環境が作れるかどうかが大事なポイントだと思います。

既に商談も行っていますが、多くの特約店様から前向きな反応をいただいています。我々としても市場をもう一度元気にする活動を一緒にやらせていただくわけですから、精一杯やって参りたいと思います。

── オーディオで良い音の追求というとマニア指向にいきがちですが、音楽を楽しむ誰もが、ハイレゾ云々ということを意識せず自然にいい音、いい音楽を受け止められるものにしていきたいですね。

粂川 我々としても今回は、 「音楽を『聴く』から『感じる』楽しみをお届けします」というキーワードでプロモーションを展開します。耳には聴こえていない周波数の音も、やはり身体には感じられて、心地よいものとなる。そういう意味でも、本当にそこを体感してもらいたいですね。そこは本当に肝になりますので。特約店様と一緒にしっかりやっていきたいと思います。そういう活動は本当に最重要だと思います。

レーベル、配信業者と
一体になった市場拡大

── コンテンツのハイレゾに対する取り組みは、それぞれのレコード会社さんのご意志で行われるということですか。

粂川 各レーベル様ごとに持っている楽曲が違い、ジャンルのバランスも違います。その中で楽曲が選ばれるということだと思います。我々もレーベルゲート様と一緒に、どういう楽曲を対象にするかというようなお話はさせていただく機会を持っていきます。

裾野を広げることは楽曲の幅を広げることとイコールになります。ジャンルを含めて幅広い楽曲を揃えて、どのようにお客さまにお届けできるかの環境整備も一緒にやらせていただく、それも今回のビジネスを拡大する上で欠かせない重要なことだと思います。

各レーベル様側も、ハードの普及の数と楽曲が一緒に伸びていける環境ができるかどうか、本当にこの市場が立ち上げられるかどうかは大切なこととお考えだと思います。そしてお客さまにはいい音をとにかく体感していただく。その中でハードと楽曲のビジネスが両輪となって拡大していくことができるかどうかが、本当に今回のチャレンジの成功を分けると思いますね。特にそこを一生懸命に行っていきたいと思っています。

ソニーの事業としても、今回のオーディオ製品群はひとつの事業部にまとまっています。オーディオの技術が、“ビデオ&サウンド”という形で追求されており、先日の発表会でご挨拶した高木の指揮下で、技術の展開やポートフォリオの揃え方も含めてワンマネージメントの下で展開できている状態です。

もう少し話を広げると、そこはテレビのグループとも一緒にやっていますので、新提案のブラビアの磁性流体のスピーカーも、オーディオのそのチームの技術を横展開しています。社内ででも、そうしたシナジーを非常に意識しながら物作りをやり始めているのです。

── 発表会ではハイレゾ商品群でオーディオの売り上げの20%をこの下期に獲得すると宣言もされて、早期に30%を目指すとおっしゃっていました。

粂川 ソニーのビジネスの進め方は、良いものを支持していただくお客さまを増やすことです。今回のハイレゾ製品群でもその層を拡げていきたいと思っています。できるだけ早いうちに目標を達成し、市場の活性化に貢献したいと思います。

◆PROFILE◆

粂川滋氏 Shigeru Kumekawa
1986年4月ソニー(株)入社。92年3月ソニーマレーシア、96年10月ソニーシーアイエス(モスクワ)。98年10月ソニーマーケティング(株)営業企画部、02年7月ソニーヨーロッパ(AIWA Europe)、04年4月ソニーガルフ。06年4月ソニーマーケティング(株)ホームAVマーケティング部 統括部長、07年4月ディスプレイマーケティング部 統括部長、10年4月執行役員。

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