栗田伸樹氏

11年のアナログ放送停波後を見据え
3Dを核にさまざまな展開を図る
ソニーマーケティング(株)
代表取締役社長
栗田伸樹氏
Nobuki Kurita

急成長したデジタルフォトフレームやウォークマン、大きな話題となっている3Dテレビなど、国内展開で大きな実を結んでいるソニー。昨今の展開から、2011年のアナログ放送停波やその先を見据え大きく変わっていくAV市場についての戦略を、ソニーマーケティングの社長である栗田氏に聞いた。

 

高速ネット環境の最先端は日本
国内をしっかりとみて商品戦略を進める

日本市場を見据えた商品で
次々に生まれた成功事例

── 栗田さんがソニーマーケティングを担当されて間もなく2年、社長に就任されてから半年以上が経過しましたが、商品や戦略に栗田イズムが本格的に発揮されてきたと感じます。特に今年はマーケティングや戦略に、ソニーの強さが出ていますね。

栗田氏栗田 ありがとうございます。ソニーのポジティブなイメージが、市場に広がるよう取り組んできたつもりです。日本に戻ってソニーマーケティングを担当することになったとき、残念だったのは日本市場に対する事業部の関心の低さでした。日本でどのような製品を出すか、日本市場でソニーはどうあるべきかといった話題が、日本に本社があり製品開発をしているにも関わらず希薄だったことは事実です。

それを2年間かけて、日本の市場にもっと目を向け、お客様の声に耳をかたむけよう、魅力ある製品を出せば売れるはずだ、何よりも日本での活動を充実させることがソニーブランドの向上にもつながるということを私は主張し続けたわけです。

そのような環境下で、まずは店頭展示で「ソニー」ブランドを前面に出し、お客様と接する場所の充実を図ろうと徹底的に取り組んできました。そして日本のお客様のニーズに合った製品を出せば成功するという事例を、デジタルフォトフレームやウォークマン、ナブ・ユーなどでつくってきました。色々な意味でお客様の声を事業部に届けることができたと思います。

そして改めて日本市場に向けた製品を出していこうとの機運が、事業部でも高まったように思います。その結果として、例年ではテレビの発売時期ではない2月にLEDテレビを発売することとなったのです。これまで4月5月に新製品を出す定石を、LEDテレビをご希望されるお客様のニーズに応えて早めたということです。年末商戦で大きく売って、2月に一気に新製品に変えていこうという戦略も実りつつあります。

そしてもうひとつ、デジタルカメラのサイバーショットではSDメモリーカード対応が実現しました。メモリースティックでもSDメモリーカードでも、お客様の使い勝手が良いものを選んでいただけるようユニバーサルスロットを搭載しました。これは、日本市場で必要な仕様なのだと長い間事業部にお願いしていたテーマです。SDメモリーカード対応のデジタルカメラからの買い替えに対応できないという事実を認識し、メモリースティックでもSDメモリーカードでも選んでいただけるラインアップを用意することが、日本市場のお客様に対するベストの回答だと思っています。おかげさまで非常に好評ですが、さらに広く知らしめていけるよう取り組んでいきたいと思います。

2月に発売となったブラビアの新シリーズでは、ブロードバンドに接続することで「ユーチューブ」や「アクトビラ ビデオ・フル」などの動画を楽しめる機能「ブラビアネットチャンネル」に対応しています。高速のネットにつながるのが当たり前の時代になり、さらには家庭内でネットワークを構築し配線の煩わしさにとらわれない無線での接続も増えてきています。ブラビアも別売のUSB無線LANアダプターと接続するだけで、Wi─Fi接続が可能になります。

テレビの役割は、もう今迄のように番組を見るだけではないということです。家庭内でのネットワークに組み込み、自分の所有するコンテンツをBDレコーダーやPCに貯め、ネットワークを介してテレビで見るといったような、これまでのテレビの概念を飛び越えた新しい可能性が広がっています。2011年7月にアナログ放送が停波した後、テレビ市場が大きな前年割れとなるのは予測できていますので、その対応策もしっかりやっていかなくてはなりません。

そういう意味でもうひとつ大きな付加価値は、やはり3Dです。3月に入り3D対応のブラビアを発表しました。3Dと言えば若い方やゲーム好きの方がまず興味を示されるかと思いましたが、意外にもご年配の方の関心も高いことが分かりました。我々が想像する以上にポジティブな反応があります。メガネをかけて見ることも懸念されましたが、これも映像の楽しさによって克服できます。まさにテレビが白黒からカラーになったときに匹敵するほどの驚きがあり、大きなフィーチャーになっていくだろうという思いがあります。

私は2010年が3D元年だと認識しています。もちろんそこでシェアもいただきたいですが、まずは業界をあげて3Dという新しいフォーマットを立ち上げ、市場を創っていきたいと考えています。

話題の3Dがいよいよ離陸
ソニーストアで店頭の指針を

── 3Dは2010年最大の商材となりそうですね。流通対策、戦略についてお聞かせください。

栗田3D戦略は、2011年のアナログ停波以後の新しい事業の核となるものです。ソニーは「フロム・レンズ・トゥ・ホーム」、撮影カメラからスイッチャーやモニター、そして家庭のテレビ、ブルーレイ、ゲームなど、入口から出口までを自社で担えるアドバンテージをもったメーカーであると思っています。

カメラをもっていることは大きな強みです。3Dの撮影はこれまで前例がないわけです。テレビ用の映像は、何十年という長い時間をかけて培った経験の中で撮り方などのノウハウが構築されていますが、3Dについてはまったくゼロからのスタートです。バレンタインデーに渋谷で行われた音楽ライブの模様を3Dで撮影し、銀座ソニービルのオーパスに中継しました。3Dでのコンサートの撮り方に挑戦したものです。どうやら客席の後ろ側からズームインしていく映像が会場の雰囲気を醸し出すようで、これも実際に撮影してみないとわからないことでした。お客様のニーズに合ったソフトをつくるための技術や機材を持っていることは、ソニーの強みだと思います。

そして、ソニーは今年開催されるFIFAワールドカップのオフィシャルスポンサーとなっていますが、これに関連した3Dの展開も進めていきます。お客様に「3D=ソニー」とイメージしていただけるように取り組んでいきたいと思います。

具体的には、6月19日の日本対オランダ戦のパブリックビューイングをスカパーHD!主催(アディダス ジャパン株式会社、日本コカ・コーラ株式会社、ビザ・ワールドワイド、ソニーマーケティングの4社が協賛)し、さいたまスーパーアリーナで行う計画があります。会場に大型LEDスクリーンを用意して、試合開始前に3Dのコンサート映像や3Dで撮影した試合映像を流します。このような3Dの周知活動の場を増やしていきます。

 

── こうなると流通も、ただ商品を扱っているだけではだめですね。戦略を読んで仕掛けを作り、しっかりとお客様に訴求できなくては。

栗田氏栗田私どもでは、3月13日に「ソニーストア 名古屋」をオープンしました。これで銀座、大阪、そして名古屋と東阪名の3つの地域のソニーブランド発信拠点が整いました。発表したばかりの新製品をいち早く体験いただくことはもちろん、購入前や購入時のコンサルティングに加え、購入後のサポートまでソニー製品に関するトータルサポートを提供します。一連のサイクルの中でお客様にソニーの製品がどう受け取られているか、またアフターサービスをどう展開していくかという経験値を積んでいきたいと考えています。

販売店様で、ただ製品を置いていただくだけではお客様に伝わりにくい。3Dもそうですし、ネット接続による可能性の拡大などもそうです。そういうものは私どもが自ら展示や販売方法の提案をして、まずお見せするという場がどうしても必要だと思います。

銀座、大阪、名古屋のストアにはこのような役割があり、お客様にソニー製品を使うとどのようなメリットがあるかをお見せする場ということです。私どもは「コト軸」と言っていますが、ソニー製品を使うことで楽しみが生まれて、どのような問題が解決するかということです。それを積極的に伝えていかなければ、ただテレビを置いて楽しめるという時代ではなくなると思っています。

名古屋ではオープンに合わせて、近隣にある約50店のソニーショップ様や量販店様とともに「ソニーフェアinNAGOYA」を開催し、エリア全体での盛り上がりを仕掛けました。そしてソニーの製品やそれでできることについての情報発信は、「ソニーストア 名古屋」がどんどん行っていきます。そこで評価してくださったお客様の声を拾い、満足度を見ながら次の製品につなげていきます。また、必要なアフターサービスの充実や販売に必要なセミナーはどのように実施すればいいのかなど、実際に進めながら改善していきたいと思います。

ソニーストアは、そういう意味での直営店であり、現実的にはお客様がソニーストアを訪れても商品を購入する場はソニーショップ様であり量販店様であるということなのです。ソニーストアは集客と送客のポジティブサイクルをつくって、「ソニーストア 名古屋」ができたおかげでブランドの評価が名古屋地区全体で高まり、ソニーのシェアが上がったということになれば成功だと思っています。

 

── 当社のビジュアルグランプリ2010において、AVアンプTA─DA5500ESが権威ある批評家大賞を獲得しました。コンポーネント、そしてプロジェクターを使ったホームシアターを、お客様は待っていると思います。

栗田ホームシアターの提案は3Dによってまた広がりをみせると思います。「ソニーストア 名古屋」でも、ソファなどを使い家庭の雰囲気に近い、3Dを組み込んだシアター提案のコーナーを設けています。ぜひご覧いただき、ご意見をちょうだいできればと思います。

劇場で3Dの映画をご覧になった方は、そのままのイメージで家庭でもご覧になりたいと思います。「3Dシアター」という新しい流れを考慮しながら訴求していきたいと思います。テレビは今や単品で販売しても付加価値をつけにくい状況です。“群”で売っていくにはどうしたらいいかを考える時、「3Dシアター」の考え方は大きいと認識し、再構築してみたいと思います。

ソニーストアにおけるシアターの展開は、このままコピーすれば店頭でも上手く展示展開できるというものをつくっていかなくてはと再認識しています。

新しい機能を持ったテレビが
「リビングルーム復権」の主役

── テレビコマーシャルなどでも、たとえば「4倍速」のプロモーションは非常にわかりやすく浸透しました。3Dもそういう方向性を望みたいですね。

栗田 わかりやすいテレビコマーシャルでお客様の心をつかんで、店頭に行ってしっかりデモを見て体感いただくとことがポイントです。

3Dにおいても「4倍速」がポイントになります。3Dにおいても残像感の少ない、なめらかな映像を再現する上で4倍速の技術が生かされます。そういった意味で4倍速は、3Dをプロモーションしていく上で非常に貴重なアドバンテージです。店頭をウェブで補完しながら取り組んでいきたいと思います。

 

── 3Dのブラビアでは、“3D内蔵”と“3D対応”という形での販売となりますが、この分け方の意図は。

栗田 導入期においては、最初から3Dが絶対に欲しいという人と、まだ様子見ではあるが準備は整えておきたいという人がいると思います。前者には“3D内蔵”をお薦めし、来年以降普及期に入ったときに今年買ったテレビで3Dを楽しむお客様には3D対応機種をお薦めします。“3D対応”テレビであれば、あとはメガネとトランスミッターを買い足していただければ3Dをご覧いただけます。

テレビはもはや、従来の番組を見るだけのものではなくなっています。「リビングルームの復権」ということを以前申し上げましたが、家庭内にあるBDレコーダーやPCに散らばっていたコンテンツが、ネットワークを介してリビングのテレビに映し出される。家族の思い出など皆で見たいコンテンツの存在が、家族を再びリビングに集めると思うのです。「リビングルームの復権」で中心となるのは、新しい機能をもったテレビです。すでにネットにもつながります。近い将来には、正月にテレビをつければ年賀状をテレビで受け取って見るのが当たり前になっているはずです。

2015年までの間、AV機器の世界はどんどん変わっていくでしょう。その時、日本は世界最先端のネット環境にあると思います。

ソニーに悲壮感は似合わないと思います。これからどんどん強さを発揮していきます。

 

◆PROFILE◆

栗田伸樹氏 Nobuki Kurita
1979年4月 ソニー(株)入社。99年 Sony de Mexico プレジデント。2003年ソニー(株)IT&モバイルソリューションネットワークカンパニー・e─ビークルカンパニープレジデント。05年オーディオ事業本部・車載機器事業部 事業部長。06年 Sony Electronics Inc.(米国)Consumer Product Marketing, EVP。08年4月 ソニーマーケティング(株)代表取締役 副社長。09年7月1日代表取締役 社長に就任。

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