加藤修一氏

「頑張らない経営」で
何事にも左右されない成長を続けていく
(株)ケーズホールディングス
代表取締役社長
加藤 修一氏
Shuichi Kato

無理や無駄を省いてお客様ときちんと向き合う、やるべきことをしっかりとやっていく。「頑張らない経営」という独自の哲学を標榜し成長し続けているケーズホールディングスの姿勢は、どんな経済環境下にあっても変わることはない。着実な歩みを進める同社の哲学を、加藤社長にあらためて問う。その言葉から、100年に1度の不況下でやるべきことが見えてくる。

不況の時代こそ活きる
「頑張らない経営」哲学

── 昨年のサブプライムローンに端を発する経済不況が深刻な様相を呈しています。こういうときこそ御社の「がんばらない経営」という考え方が活きてくるかとお話を伺いに参りました。

加藤加藤氏景気の影響は極端に受けるものではなく、最大でも1割ほどと見ています。2011年のアナログ放送停波を控え、テレビの買い替えはかなりの勢いで進まないと間に合いません。しかし日本人は、真夏に暑くなってからエアコンを買いに来て取り付け工事の間に秋になってしまうというように、直前にならないと動きません。テレビはこれから尻上がりに売れるだろうと、私はいつも楽観的に考えています。

不景気になると、いつでもみな騒ぎます。景気がいいときにマスコミが訪ねて来ることはありませんね。しかし不況とか業界再編というようなことは、今に始まったことではないのです。1993年に遡りますと当時もAV不況でしたが、私は需要など増えなくとも上手くいかなくてはいけない、景気が悪い方が会社にとっていい体質ができると当時のインタビューでも言っておりました。景気がよくないと困るというのは、いろいろなことを人のせいにする傾向にあるということだと思います。私は、上手くいかないのは自分のせいだと思っています。

当社は61年間ずっと成長し続けてきましたが、それはいつでもなだらかであるということです。その間に世の中はバブルがあったりそれが崩壊したりして、グラフは急激に上がったり下がったりしました。ケーズデンキがそこにとらわれずなだらかに成長し続けた間に、周りの企業がいつの間にか減ってきたのです。

ケーズデンキでは、昔からこれを「頑張らない経営」と言っています。父である先代の社長が言っていたことであり、それを私は守っているだけですが、当社にとってはこれが普通のことなのです。

── 「頑張らない経営」について、あらためてご披露いただきたいと思います。

加藤私も若い頃、コンサルタントの方に教えていただいたり、同業他社のやり方を真似するということもやってみましたが、要するに経営のテクニックというのはどうやってお客様を騙すかということであり、長くは続かずにまた違うことをやらなくてはならないのです。

ケーズデンキではこれをやめました。そうすると、ポイントをやらない、お客様が望んでいるものから目をそらさない、という傾向になるのです。いい商品を安く買える、商品説明もちゃんとしてもらう、アフターサービスや保証がしっかりしているということをお客様は望んでおり、これは基本でもありますから、そこをしっかりやるということです。

基本以外のことはどうでもいい。他のことをしなければ、変なコストがかからない。だから安く買っていただいても利益は出るのであり、お客様の望んでいることをミスらずにすみます。

家電業界の人は昔からずっと、どうやってお客様に売りつけるか、安いという印象をもたせるかと考えていて、本当に安いこととは違うことをしています。たとえばポイント制を、当社では全部否定しています。ポイントのために設備をつくって、その費用だけはマージンをもらわなくてはいけません。ポイントがある分売れるという効果を狙っているでしょうが、そうでない場合と同じ売れ方だとしたら、ポイントをやっている方が負けになりますね。そしてポイントをやっていない店の方が早く流れますから、レジの台数も少なくすむかもしれません。すると社員数も少なくてすみ、その分安く売れるということになります。

他の会社では、社員に粗利予算を設定したりしています。すると儲からない商品にお客様が来たら、ここでつかまるとそれまで稼いだ分をもっていかれてしまうと社員が逃げてしまい、お客様に親切でなくなってしまうのです。またクレームやトラブルなどがあった場合にも逃げる。そういう体質の店が、お客様にサービスよくできるわけがありません。お客様はこの店で二度と買いたくないと思われるかもしれません。

また商品部が、メーカーが安くするからと言って大量に仕入れたとしても、その商品は計画より売れ行きが悪くて人気の薄いものということです。そういうものを仕入れておいてどうやって売るかと考えることも、お客様のためではありません。そんな風に、お客様のためでないことにばかり力が入ってしまっているのが、家電業界ではないかと思います。

当社はちょっと違います。ここにあるのは、社員を褒めてくださっているお客様からの手紙です。こういう手紙を毎週のようにいただいているのです。では当社がどんな社員教育をしているのかというと、何もしていないのです。ただお客様に十分応えられるだけの時間がある、お客様の言い分をしっかり聞いて仕事をしていいという環境になっているということなのです。
ケーズデンキのスローガンは「きびきびと、お客様に伝わる本当の親切を実行しよう」というもので、これはここ5〜6年変えていません。以前は毎年正月に考えて少しずつ変わっていたのですが、こういうものはある程度完成していたら、それ以上のことは蛇足となってしまうのですね。うまくいっているものなら変える必要はない。こういうところでも無駄を省くということですね。

── 御社はメーカーからの評判も大変いいですね。商品をきちんとみてくれる、メーカーの立場を理解してくれるということをよく聞きます。

加藤氏

できもしないことに挑戦せず
やるべきことをちゃんとやる
それが頑張らないということ

加藤それは会社の方針で決まっているからです。従業員と取引先、そしてお客様。その三つを大切にするということです。取引先とはメーカーもそうですが、銀行などの金融機関や、その他さまざまなケーズデンキと関わる人々です。

中でも一番大事にしているのは従業員ですが、それはお客様に接するからです。彼らをノルマ漬けにしてきりきり舞いさせてしまったら、いくらお客様を大切にしろと言っても、人間は自分が可愛いですからどうしても自分だけ怒られないようにしようとし、ゆったりとお客様に対応できません。また待遇などもできるだけよくしないと、和やかにお客様に接することができなくなります。

取引先ともいい関係を保てば、メーカーさんも商品を優先的にケーズデンキにまわそうとしてくださいます。余った商品しかまわって来ないような店になってしまったら、結局はお客様のためにはならないのです。すべてはお客様に対してつながっていることです。

お客様第一という会社はたくさんありますが、つまりは口だけで、どうやって儲けようかと思っている場合が多い。本当にお客様第一と思うなら、従業員と取引先を大事にしていかないと、結果的にはお客様のためにはなりません。外に向けては当社もお客様が一番と表現していますが、一番大事にしているのは社員です。こう説明すると、従業員も安心して仕事ができるのです。

世の中ではどうしても、監視していないと社員はさぼるという発想がありますが、当社は逆にのびのびとさせて、社員自らすすんで働いてもらうという環境です。そういう環境をつくるのが私の仕事なのです。ほとんどの会社では上司が偉いようですが、当社では私がピラミッドの一番下にいるというわけです。社長というものは、だいたい仕事をしないものです。私もそうです。仕事をするのは社員なのですから、働きやすい環境を提供する、邪魔するものがあったらそれを排除する、それが社長の仕事です。

無駄なことを省いて
お客様に向き合う

── ポジションが上がると、人は管理型になりがちですね。

加藤いろいろな会社でよくあることだと思いますが、上司が立場を利用して強く出ますと、当社ではそれをおさえます。下から評判のよくない上司には、一度頭を冷やして店に出てこいというような対処をして、部下の言い分を表に出しやすい環境にしています。私の経験では、組織の中で抜擢され、役職について急に威張り出すという人間は力がありません。力のない人は自分でわかっていますから、そうしなければいけないものだと思って、急に威張ったり強く言うようになったりするのです。そんな時私は、すぐに違う人間と替えるようにします。

つまりはお客様に聞けということです。文字通り直接お客様に聞きに行ってもいいのですが、それがなかなかできなければ部下に聞けということなのです。現場の社員がお客様を一番よく知っていて、そのことを店長が知っていたら、本部は店長に話を聞かなくてはいけない。さらに本部は、店長に対して命令してはだめです。

営業本部の人間には、机の上で考えたことを命令してはいけないという禁止令を出しています。どこの店の誰がどういうことで困っている、というような具体的なことにしか命令を出してはいけない、そこに会社全体としてこう解決するという形で全社に流しなさい、と。店が何も言ってこなければ、営業本部は仕事がなくなるはずなのに、仕事をつくってうるさく言い出すと、店でお客様が放ったらかしにされてしまいます。

── 加藤さんのそのお考えは、昔から全く不変です。そんな中で会社は大変な規模になりました。

加藤私が当社で仕事を始めてからここまで40年間、売り上げが下がったことがなく、その結果として現在があるわけです。私が働いてきた間、当初は高度成長期だったこともありましたが、3年間で倍になればそれ以上伸ばさなくていいという姿勢でやってきました。そして10年で10倍、20年で100倍、30年で1000倍という結果になったのです。売り上げが1億から1000億になるまでちょうど30年、ここからは少しペースが落ちて、年間15%程度というところでやっております。今年はちょうど40年目に当たりますが、少し目標を下げて5800億円程度。この10年間では、5.8倍というところで勘弁してもらうつもりです。

── それだけ会社が大きくなりますと、社長の考え方を徹底しにくくなるのではと思いますが。

加藤そんなことはないと思います。ケーズデンキの幹部にとっては、私などいなくとも同じなのです。他の会社さんでは、難しいことをやろうとなさっていて、思想が浸透しないのではないでしょうか。当社は楽なことをしようとしているので、すぐ浸透してしまいます。頑張らなくていいのですからね。

しかし、M&Aを行った会社にこれを浸透させるのには時間がかかります。新しく一緒になった会社にはなかなかすぐにはわかってもらえませんし、特に幹部は現場から遠ざかっていて浸透しにくいです。しかし現場の社員はすぐわかってくれます。まず労働環境が違いますから。

今の家電業界の労働環境は悪すぎます。サービス残業があり、店長はほとんど休めない。しかし当社では店長はほぼ週に2日休んでいますし、社員に対しては、残業を押しつけておりません。ほかの会社では根性論が先にたって、仕事をやり残して帰るなということになる。しつけのためとして、シャッターを閉めた後でも入荷した商品を片付けさせるでしょう。それでは残業が減りませんし、残業手当もかかります。当社では、明日来てできる仕事を今日やらない。翌日の昼間、暇な時間帯に品出しすれば社員の負担が増えなくてすむのです。

当社の社員は、無理な状態では働いていません。他の会社さんは、無理をされて今の数字をつくっているか、無理をされているのに儲かっていないという可能性もあり、当社との労働環境はもしかしたら倍ほども違うかもしれません。

── 皆が頑張らなくていいというシステムをつくられ、会社全体で実践なさっているのですね。

加藤氏

楽でなければ大きくできない
把握できない経営は危ない
つまりは簡単にすること

加藤 英語に「頑張る」という言葉はないそうですね。頑張るのは日本人だけのようです。私にとって頑張るというのは、出来もしないことに挑戦するということです。それは趣味ならばいいですが、仕事なのですから、まずやるべきことをちゃんとやる。できもしないことはやらなくていいが、できることはきちんとやる。頑張るという形でできもしない負荷をかけると、整理整頓がつかなくなり、できないと思いながらもやってしまい、やっぱりできなかった、で終わってしまいます。

しかしできることが明確に提示されていれば、社員はそれを実行してうまく行きます。頑張らせると、やるべきことが明確でなくなってしまうのです。余計なことはしなくていい、でもやるべきことはやる。それが頑張らないということなのです。さぼってもいいというわけではありません。

── システムについてお聞きしましたが、事業計画についてはどうお考えですか。

加藤計画といいますが、それはどれだけやりたい、ではなく、どれだけ行くだろう、という予測なのです。今年はこのような経済状況の中で売り上げが全体に悪く、予測どおりには行っていませんが、それはそれでしょうがないことです。

計画どおりでないからといって、社員に発破をかけるということはありません。同業他社と比べればいい方ですから、それでよしということです。他社が少しも売れていないのに、当社だけが売れるというのは無理をした結果だと思いますが、他社も当社もよくない中にあって、少しはましだということですから、社員はよくやったというところです。

── 御社は郊外型店舗で伸ばしていらっしゃいますが、駅前出店などでコストが上がってしまうと、売り上げが変動したときに頑張らなくてはならなくなるということですね。

加藤当社が都市型店舗をやらないのは、郊外型とはやり方が違うからです。デパート的商売とスーパー的商売という違いですから、両方をやるためには会社がふたつなければなりません。ひとつの商品部、ひとつの営業部が両方をみるということは有り得ないのです。そのためにわざわざ別会社をつくるより、今やっているスーパー部門を拡げればいいと当社は考えています。

スーパーが大きくなってくると、事業の幅を広げてデパートをやりたいという思いに駆られがちですが、そんな夢を追いかけてはいけません。そして当社では商材を電器に絞り込んで、電器屋に徹するという気持ちでおります。他の会社さんを見ると、今、皆さんいろいろな商材を手がけており、電器しかやっていないのは当社だけかもしれません。

当社の商品部にいるのは、電器を扱う者だけです。他の商材を扱えば、その商材の数だけ競争する相手が増えますから、商品部を1人や2人増やしても内容を充実させることはできません。それぞれの業種とがっぷり四つで戦おうとしたら、電器と同じくらいの人員を配置しなくてはなりませんから。かといって、それで売り上げが倍になるわけではなく、コストだけが上がります。お客様から見れば、何屋さんかわからない店になってしまうでしょう。だから当社では、商材を増やさないという考えです。

商圏を重ねて自店競合し
販促コストを削減する

── この経済環境下で株価も下がり、資金調達が思うようにいかないという状態が起こっています。そんな中でも出店計画をどんどん進めている会社もあり、自店競合も含め、ますます競争は熾烈になってきています。

加藤加藤氏同じ会社同士での自店競合についてだめだというのは、言い訳に過ぎないと私は思っています。当社では、店同士の商圏がわざとかぶるような店の出し方をしています。重なった商圏ができるのが、儲かる理由なのです。店をつくった分だけの売り上げは増えないかもしれませんが、その商圏にいるお客様にとっては、近くに必ずケーズデンキがあるという状況ができ、密度が濃くなっていますから、販促コストが下がります。

店をポツンポツンとつくってしまうと、1店の売り上げは大きくとも販促コストの効率は出てこないし、お客様もケーズデンキは遠いから行かないということになります。私は、自店競合になるような店の出し方こそ、ローコストにつながると考えています。

ケーズデンキでは、昨年の3月末のチラシの配布率が世帯数に対して34.8%、今年は38%以上になる見込みであり、まだ今の倍くらい店を出すべきエリアがあるということです。しかし全国を急いでカバーするのではなく、私はなるべく地続きで行きたいと考えています。お客様がどこに住んでいてもケーズデンキに行けるよう、自店競合したいという思いです。

── デジタル家電は厳しい環境にあると言っても、実際にはモノは売れています。それは価格だけで勝負しようということではなく、もっとお客様としっかりと向き合い、きめ細かに対応できる、地域店のようなお店の頑張りが表れているようです。

加藤当社では、お客様に店のファンになってもらいなさいと言っています。そのとき買わなくとも、店を気に入っていただければ、いずれ来てくださるうちに買っていただけるだろうと。そういう方が増えると楽になりますから、どんどん楽になろうと言っています。我々はお客様をとってくるのではなく、農耕民族のごとく畑を耕しているのです。お店をつくり、商圏のお客様に対応する密度を増していくということです。

私の言うことは公にしていますし、これまで何度も記事になっていますが、他の会社さんが真似しようとしてもなかなかできないと思います。それは、私どもが30年間耕してきた歴史があるからです。他社が私の言うことを今真似しようとしても、それが実になるのは30年後、そこまで待てないから違うことをやらざるを得ないのでしょう。

たとえばケーズデンキは、健康な物を食べ運動をし、長生きをしましょうというような経営です。ほかの人はたばこを吸う、私にとっては麻薬のようなポイントをやる。それで他社がケーズデンキの話をきいて真似をしようとしても、売り上げが2〜3割落ちるだけです。それでもいいと覚悟を決められれば、将来上がってくることができるのでしょうが、その覚悟はなかなか決められないと思います。だから私は、絶対真似をされないだろうと思って何でも言っているのです。

ポイントで売っている会社では、10ポイントならば10ポイント分くらい多い売上高が計上されているのです。ポイントを止め現金値引きにしたら、売り上げが1割下がってしまう。前年比を考えたらそれはできません。特に今のような時にポイントを止め、売り上げが1割下がるような決定はできないでしょう。しかしそれをしない限り、当社のような出発点には立てないのです。かえって売り上げの伸びが悪く、ポイントを増やそうという会社があるくらいです。売り上げが悪ければポイントを強化する、天ぷらの衣を大きくするわけです。

長期保証についてもそうです。当社では、3万円以上の商品は3年間といったところから無料で長期保証をつけています。これが保険で保証をすると言ったら、保険をかける人とかけない人が出る。かけずに買った物が壊れてしまったら、お客様はがっかりされます。そうではなく、購入していただいた方全員に保証をつけようという考え方です。買った方すべてが対象ですので、それに対して壊れる確率も下がり、費用はそうかからないのです。

保証は他のお店が始められたことですが、粗利がとれるからとアメリカで行われていた手法を真似されたのですね。利益が足りないから利益を出そうとして、3%や5%という保険をお客様に売っているわけです。修理費用はその半分もかからないのに。これもお客様のためではなく、自分のためなのだという話です。

ケーズデンキの3年保証は30年くらい前からやっていますが、当初は保険でした。しかし保険会社が、故障が増えてきたら料率を上げると言っていたのです。保険会社は、保険料を半分修理代で返して半分で儲けようと考えています。もし故障で出費が多くなったら料率を上げていくわけです。我々にしたら、細かく手間をかけさせられて保険会社が半分もっていくのだったら、まるで保険会社のためにやっているようなことになってしまいます。

そういうことに対して、根本的にどうなのだという目でみる癖が当社にはあります。そうすると、ほとんどが余計なことで必要ないということになります。

会議が多いというのもだめですね。会議をやっている時間があるならば、店でお客様に対応したほうがいい。会議といえば、どうやって売り上げを上げるかということ。どうやって上げるかではなくて、来てくださったお客様に説明して買っていただくということを、売れるためにちょうどいい人数でやっていこうということであって、売り上げをつくろうということではないですから。

稀少製品がみつかるメリット
活かしてこそのネット販売

── ネット販売のような、リアルな店舗をもたない販売形態についてどうお考えですか。

加藤これはなかなか難しいことですが、ケーズデンキでこれから変えていこうとしているのは、受注方法のひとつとしてインターネットもあります、という形にしていこうということです。せっかく店舗網も在庫も持って商売しているのに、なぜネット通販で売っているのだということになってしまいますから。

ネット販売では、売価がわからなくてはなりません。しかし家電業界が、売価を素直に表現できる業界ではなくなっているのも問題です。

ネット販売は店舗がないからローコストということですが、バイイングパワーがない人がインターネットで店をつくって、どうして低価格を設定できるのか。本来は大型量販店がインターネットでも一番売れて当たり前のはずですが、それが今のところ可能ではないのです。たとえば詐欺的に手に入れたものとか、どこかのお店のタイムサービスで手に入れたものを買ってきて売るというようなこともまかり通ってしまっているようです。昔秋葉原では二重卸、横流しということがありメーカーで問題になりましたが、今のメーカーもそれに対して異を唱えるべきではないでしょうか。

インターネット販売では店舗を持たなくていいという理屈がありますが、私はそうではないと思います。ネットでも品揃えを豊富にしたら、それらの商品を置いておく倉庫も必要になります。しかし売れないからといって、置いたままでは不良在庫になってしまう。結局インターネットだけという形態で、本当に儲けるというのは難しいと思います。

将来業界に淘汰が進んで、なおかつ店で売っているものとは違うものをネットで売る、売価が堂々と表に出せるという時代になったら、インターネット販売は成立するでしょう。しかしそのときには、全国流通網がある大きな会社が、一番ローコストでできると思います。

── 私どもでもインターネットの「ファイル・ウェブ」を運営しており、毎月多くの方が訪れています。そういう立場からみても、ネットでの電器製品の扱いは難しいと感じます。ネット上では、店に1品だけ残った商品に破格値をつけて出してくる店があると、ほかもそれに合わせてきます。そんな価格がいつのまにか業界水準になってしまい、お客様がそこを基準にものを見るようになってしまうのです。

加藤そういうものは、気にしないというのが一番です。そういう品物は、どうせ大量にはありません。本来インターネットというのは、産地直送品とか、少量しかない商品を全国に知らせて売るようなツールです。家電品などは、全国にお店があるのですから、そこで買っていただいたほうがいいはずなのです。ただお客様にとって店にいくのが面倒だということがあれば、それはインターネットで注文していただく、そこの部分は確立するべきですし、うちではそうしようと思っています。

本当ならば、ネットで価格を問い合わせて、そこで注文ができていいはずなのです。しかし現実に、どこの店でも他店より安くしますというようなことをうたっている今、ネットで価格をオープンにしてしまっていいのかどうか。オープンにされた価格に対して、他の店がすべてそれより安くするということを始めたら、大変なことになってしまいます。

── ネット販売にもっとも適しているのは、音楽データや金融商品といった物流を必要としないものです。次に物流は必要だがアフターフォローのいらない産地直送品や書籍など。もっともネット通販に向いていないのは家電品でしょう。

加藤ネットで買うメリットは値段ではなく、探しているものがあるかどうかということですね。また、家電品は実際に見たり触ったりしたときの印象も重要です。当社は昔、他社のテレビショッピングで茨城県地域の配達を請け負っていました。私どもが届けに行きますと、テレビで見た印象と違うといってお客様ががっかりすることがあり、そういうときに通販の限界を感じました。

家電品にはすべて配送コストがかかります。結局、店が大量に仕入れて店頭に山積みしているものを、お客様が自分でレジにもってきてくださるということが一番ローコストなのです。

大きくなるということは
楽になるということ

── 昨今の景気の影響をどうご覧になっていますか。国内では、5月か6月に在庫調整が終わり、また生産が始まってくると見られています。モノも実際に売れてはいるというのに、売り上げが減ったということにばかり目が向けられています。

加藤企業のリストラも社員全体から見れば低い水準でも、人数にすると万単位になり大きく見えますね。また、グラフを上げるから下がるということもあります。たとえば消費税アップの際の駆け込み需要に対して、翌月は反動が出るなどです。世界的には、サブプライムローンに象徴される米国不動産をはじめ、証券・金融資産も極端な上がり方をした分に対して今のようなことになっているわけです。それを通り過ぎれば、またもとの状態になるということです。ただし、その段階でふるい落とされる企業が出ます。当社のようにそういう動向に関係のないところで動いていますと、影響を受けないということになります。

店の規模について話をしますと、自分の町の量販店で家電を買おうとされているお客様は店を比べる際、5つも6つもの店を比べたりはしません。エリア毎に3つくらいの数に落ち着くだろうというのが私の解釈です。かつて家電店は全国に100社ほどもあり、必ず各県に1つや2つ代表的な店があったのです。ところが会社の規模が大きくなって他県に出て行く店が増えると、どこに行っても同じ店がいくつかある状態となり、そうなると3つくらいになるということです。

それはバイイングパワーでなるわけではなくエリアのおさえ方の結果で、一部地域しかない会社は残りにくい、というのが私の見方ですね。

バイイングパワーという考え方で会社を買収してしまうと、タイプの違う会社ですから売り上げは足し算で増えていきますが、コストの割り算はききません。儲かるようにするのは難しいのです。ケーズデンキの場合は、一緒になった会社がたまたま同じ名前にしてくれましたから、テレビ宣伝もチラシも水戸で誰か一人が作っていれば済みます。売り上げが増えれば仕入れも増えますが、水戸の本社の人数はほとんど増えませんから、売り上げが増えた分本社の売り上げに対するコスト比は減少するということになります。すると店が従来と同じ数字しか上げなくとも、店が負担する本社コストは少なくなるので、働いた結果が多く出るようになりました、ということになるわけです。お店が楽になるのです。

又、普通の人は、他の会社と組むと、バイイングパワーが増えて仕入れが安くなって何とかなるという風に思われているようです。しかし、それができるのなら駄目になる会社は無いはずですが、実際は仕入れが大きく安いところが落ちています。これはつまり、オペレーションコストが上がった会社からだめになっていったということなのです。ですから、当社は仕入れが安くなくとも成り立つようにしようという考え方です。単にメーカーに対するバイイングパワーのためだけに合体していくと、規模の大きいハイコストな体制になっていくのです。

自分は自分、人は人です。お互い自分のできることをやって、お客様に選んでいただく立場です。もし他の会社にちょっかいを出そうとしても、それで自分の痛手が大きかったら危ないのです。

私はだんだん楽になろうと思っていますし、仕事をしなくていいようになっています。たとえば売り上げが悪いからと社長が店を回り出したら、もっと業績が悪くなってしまいます。私は、自分より社員の方が仕事ができると信頼して店を任せます。もし店に行っていろいろと指図しようと思っても、一日店にいてお客様に接していなければわかりませんし、売り場に行ったとしてもそこで指示はしません。もしお客様の立場として不都合だと思うことがあれば、それは本部に持ち帰り、会社の指令として全店に伝えます。その店だけを直しても、根本的な解決にはなりませんから。

楽でなければ会社を大きくはできない、と私は考えています。そして経営ですから、把握できていなければ危ないと考えています。大きくするということは、どれだけ簡単にするかということ。普通の人はいろいろやって複雑にして、競争力をつけて大きくなろうとしますが、当社の場合はどれだけ簡単にしたか、どれだけ絞り込んだかによって、把握できるから大きくなれるのです。

私は昔から小さな電器屋さんとも勉強会をやってきて、そこで言ってきたのは、日本ではメーカーが強いことで流通が助かるということです。国内メーカーが弱くなってしまったら、商品を海外から仕入れなければならなくなり、小さな店までまわらなくなります。国内のメーカーが強くて流通に関わってくれているからこそ、電器屋は幸せなのだと思います。

◆PROFILE◆

加藤 修一氏 Shuichi Kato
1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。01年4月からは日本電気大型店協会(NEBA)の副会長を4年間務めた。“人”を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「頑張らない経営」で安定的な成長を続ける。