編集長インタビュー

小島正彦 氏

富士フイルムイメージング
営業本部ファインピックス事業部
次長 兼 販売グループ部長

小島正彦 氏
Masahiko Kojima

独自の技術で
デジタルカメラの
新たな需要を創造

ISO1600の超高感度で、「撮りたい時に、撮れるカメラ」をコンセプトにしたF10が市場で快走している。綿密なユーザー調査に基づいて、デジタルカメラユーザーの不満を解消。デジタルカメラの普及をインフラに、買替層を中心とした新たな市場創造に意欲的に取り組む富士フイルム。本年3月にファインピックス事業部次長兼販売グループ部長に着任、ファインピックスシリーズの市場戦略を牽引する小島正彦氏に同社の近況と今後の戦略を聞いた。


市場で快走を続ける
FinePix F10

―― 市場で「FinePixF10」が非常に好調ですね。

小島正彦小島 3月12日に市場投入させていただいた当社のF10は、どの量販店さんでもベスト3に入っているほどの大変好調な動きです。
CIPAの見通しでは今年のデジタルカメラの市場規模は、対前年比101・8%となっていますが、昨年の10月から今年の2月までの5カ月間の総需要は、台数ベースで92%、金額ベースではさらに下回っています。そのような中で、3万円前後の店頭価格のコンパクトタイプのデジタルカメラが多い中で、5万円弱と比較的高価でありながら人気の高いF10は販売店さんからは非常に喜ばれています。

―― 人気のF10を開発された経緯を聞かせてください。

小島 この商品の開発テーマは、富士フイルムらしさをお客様にアピールできるような商品を作ろうということでした。そこで、具体的な商品の開発に先立って、既にデジタルカメラを実際にお使いになっているお客様が、どのような点に不満を持たれているかを徹底的に調べました。
その結果わかったことは、お客様は撮りたい写真が上手く撮れていないということでした。時代や記録方式が変わっても、カメラに対してお客様が求められているものは同じです。

―― F10ではそれをひとつひとつ解決したということですね。

小島 ユーザー調査の結果、お客様はデジタルカメラに対して「暗いところでもきれいに撮れる」、「ブレない写真が撮れる」製品を求めているということがわかりました。
そこで、今回のF10では当社が写真分野で培ってきたノウハウと最先端のデジタル画像技術を集結させました。その結果、暗いところでも目で見たままの雰囲気を美しく撮影ができ、しかもブレを大幅に低減しました。


超高感度技術の開発で
お客様の不満を解決

―― それを実現した手法がISO1600という超高感度化だったわけですね。

小島 私どもには長年にわたるカメラ開発の経験と蓄積してきた技術があります。どうすれば暗い場所でもきれいな写真を撮れるか、また、いかにすればブレのない写真を撮れるかという問題を解決する上で一番有効な手法は、感度をできるだけ高めてシャッタースピードを上げることだという結論に達しました。
暗い場所でもフラッシュを使えば、写真を撮ることはできます。ただ、フラッシュをたいてもその光が届く人物は綺麗に写っても背景まではしっかりと撮れません。たとえば、夜間のレインボーブリッジを背景に写真を撮りたいと思っても、フラッシュの光が届く人物はよく写りますが、その背景に写って欲しいレインボーブリッジをきれいに写すことはできません。これでは本来撮りたかったものが撮れなかったということになります。

―― 感度を高めればその問題が解決できるということですね。

小島 そのとおりです。感度を高めることによって少ない光でもきれいに写せますので、暗い場所でも人物だけでなく背景もしっかりと写すことができるようになります。
当社のヒット商品のひとつに「写るんです」という商品があります。これは今でも当社にとって相当大きな構成比を持っている商品ですが、このシリーズのひとつにISO1600という高感度を実現した「写ルンです Night&Day」という商品があります。これは花火やイルミネーションなどを綺麗に撮れるということで、お客様から大好評をいただいています。これと同じような考え方をデジタルカメラで実現したのが、今回のF10です。
感度を高めることによって得られるメリットは暗い場所でもきれいに撮れるだけではありません。これまでのデジタルカメラのユーザーが不満を持たれていた「ブレ」の問題も解決してくれます。

―― 今までも手ブレを解決したデジタルカメラはありましたが、御社はシャッタースピードを上げるという新たな解決手法をとられました。その理由は何でしょうか。

小島 ブレが起きる原因には、写真を撮る人の手ブレと動いているものを撮る時の被写体ブレという二つの原因があります。このうち手ブレだけを補正するものであれば、これまでも他社さんからも商品が出ています。しかし、動いているものをきちんと止めて撮るのは非常に難しいということで、今までこれを実現できたデジタルカメラはありませんでした。
例えば、遊園地で乗り物にのっている子供の写真を撮ろうとすると、今までは被写体ブレで写真になりませんでした。これを解決する上で最も有効な手法がシャッター速度を上げることです。
シャッター速度を上げることができれば、動きのある被写体でもブレずに撮ることができます。ただそのためには短い露光時間でしっかり写せるだけの感度の高さが必要になります。そこでF10ではISO1600という超高感度にすることによって、シャッター速度の高速化を実現しました。
ですから、「手ブレ」だけでなく「被写体ブレ」についても大幅に軽減することができるようになりましたので、撮りたいと思ったその瞬間を撮れるようになりました。この点がこれまでの他社さんの製品と最も大きく違うところです。


独自のキーデバイス技術で
「高感度+高画質」を実現

―― まさに写真のことを知り尽くした富士フイルムだから実現できた解決手法だということですね。しかし「高感度」と「高画質」を両立させることは、技術面で大変難しいように思われます。

小島 そこがF10の開発で非常に苦労した点です。デジタルカメラではレンズから取り込んだ光学的な情報を電気的に信号処理しますが、電気的な信号処理では感度を上げようとするとノイズが目立ちやすくなってしまいます。これは例えばオーディオでは雑音となって現れますし、映像では映像ノイズとして現れます。
最近のデジタルカメラは画素競争が繰り広げられています。単純に画素を上げるだけであればそれほど難しいことではありません。しかし、画素を上げるとノイズが出やすくなってしまいます。これを避けるために、高画素化が進む一方で、実は感度が下がってきています。
この「高感度+高画質」という難しい問題を両立させるために新たに開発したのが、F10に搭載した「リアルフォトエンジン」という画像処理技術です。これによってF10では、630万画素という高画素でありながら、ISO1600の高感度で、しかもノイズが抑制された高画質を実現しています。
当社の強みはグループの中に、デジタルカメラのキーデバイス技術が揃っていることです。今回の製品でもレンズやCCD、フォトエンジンなど、様々な高度な独自技術があったからこそ、「高感度+高画質」の両立という非常に難しいテーマを実現することができました。

―― 感度が上がるとフラッシュを使わなくてすむケースが増えることも魅力ですね。

小島 たとえば室内で赤ちゃんの写真を撮る時に、従来はフラッシュをたかれることが多かったと思います。ところがフラッシュをたくと子供は驚きますので、なかなか自然な表情の写真を撮れません。これに対して感度が上がればノーフラッシュでも綺麗な写真が撮れますので、自然で生き生きとした表情の写真を撮ることができるようになります。
最近はペットを撮る人が増えていますが、フラッシュをたくと犬や猫は目が赤くなってしまいがちです。そればかりか、動物はフラッシュをたかれるとびっくりした顔になります。これがフラッシュをたく必要がなくなると、様々な場面で自然な表情での被写体作品を撮れるようになります。今までのデジタルカメラでの失敗写真があったからこそ、F10の登場があったといえます。

―― バッテリーが長持ちすることもF10の大きな特長のひとつですね。

小島 旅行や外出先でバッテリーが切れたためにせっかくのシャッターチャンスを逃してしまうということがありました。この不満を解決するために今回のF10では省電力設計の徹底で、一回のフル充電で約500枚の連続撮影ができるようにしました。これによって今までのようにバッテリー切れを気にせずに安心して撮影することができるようになりました。


店頭のプリントサンプルで
お客様の購入決断を促進

―― F10を購入されたお客様からの反響はいかがですか。

小島正彦 氏小島 今回のF10では、東京ディズニーランドを使った二つのパターンのテレビコマーシャルを作りました。ひとつはドナルドダックが乗り物に乗ってお客様が楽しまれている風景で、速い動きもブレずに撮れることを訴求しています。もうひとつはディズニーランドの象徴であるシンデレラ城をバックにした人物撮影で、暗いところでも遠くの背景まできれいに撮れるということを訴求しています。
このテレビ宣伝を見てF10を買ったお客様が、東京ディズニーランドでテレビコマーシャルと同じ写真が撮れたということで大変驚かれたという話をいただいています。

―― 量販店などの店頭へのプリントサンプルを置くという、従来あまり見られなかった販促策をとられています。

小島 今まで家電量販店のデジタルカメラ売り場では、なかなかプリントサンプルを置いていただけませんでした。ところが今回、お店の方にプリントサンプルを見せると、ぜひこれを置いてみようということになりました。
このプリントサンプルは今までのデジタルカメラで写した写真と、F10で写した写真を比較できるようにしたもので、売り場で非常に高い効果を上げています。これを使って説明していただくとクロージングが非常に早いということで、販売店様から大変喜ばれています。


高感度路線の追求で
フジフイルムらしさを訴求

―― デジタルカメラの普及率が高まってきています。今後の市場の見通しを聞かせてください。 

小島 最近行った調査の結果では、買い替え需要が約半分ほどを占めています。この春から夏にかけてはそれが半分以上になると見込まれます。お客様はいい写真を撮りたがられています。その気持ちにジャストミートした商品を供給することができれば、買い替え需要をもっと拡げていくことができます。
カメラでは写真を撮るという本来の用途だけでなく、持つことの喜びもあります。本格的にいい写真を撮りたいという方もいらっしゃいますし、持ち運びの便利さや持った時のかっこよさや、自分の好みの色などといったこともあります。様々なニーズを持ったお客様にどうお答えできるかということが、これからの課題になっていくと思います。

―― 提案次第でデジタルカメラに対する新たな需要を創造していけるということですね。

小島 コンパクトカメラは最盛期で年間500万台強、平均でも年間440〜450万台ほど売れていました。一眼レフも毎年80〜100万台位は出ていました。ここから考えるとデジカメでも最低でも500〜600万台程度の出荷はずっと続いていくと見ています。
ここ数年間、デジタルカメラは年間700〜800万台という非常に大きな台数が国内で販売されてきました。お客様の側から見ると、デジタルカメラの普及によって、写真を撮る、楽しまれる機会が増えてきたということになります。この写真を撮って楽しむという写真文化の拡がりを大事にしていきたいですね。

―― その市場見通しをベースとして御社ではどのような商品戦略を持たれていますか。

小島 今までのデジタルカメラに対するお客様からの不満は、撮りたいものがあっても撮れないということがあったことでした。それが高感度型のデジタルカメラを実現できたことで、撮りたいものが撮れるようになりました。これはものすごく意義のあることだと思います。
デジタルカメラでは撮ったその場ですぐ写り具合を確認できます。その時に非常にきれいな写真が撮れていれば、もっと違う場所でも撮ってみようという気になります。写真文化を拡げていく上で、これは非常に大切なことです。これからもこの高感度路線を富士フイルムらしさとして続けていきたいと思っています。


写真を撮る文化とともに
プリント文化も拡げたい

―― 先日発表されたZ1も大変注目されています。

小島正彦 氏小島 F10に続いて、5月にスリムタイプのZ1を投入します。これは薄さ18・6mmのボディーに、ISO800の高感度を実現したコンパクトカメラです。デジタルカメラでは多分初めてではないかと思いますが、モノコックボディーで非常にスタイリッシュなデザインにしています。ボディーカラーもシルバー以外に、黒・赤・ブルーのカラーバリエーションを用意しました。液晶画面はF10と同じ2・5インチサイズですので、簡単に画像を確認することができます。
Z1の大きな特長のひとつが、カメラの起動時間の速さです。デジタルカメラではコンピューターの演算処理が入りますので、撮ろうと思ってから実際に撮れるまでの間にタイムラグがありました。そのために今ペットを撮ろうと思っても、カメラが起動するまでの間にペットが移動してしまって写せなかったというケースもありました。Z1では0・6秒という高速起動を実現していますので、撮りたい時にすぐ撮ることができるようになりました。

―― 携帯プリンターPiviとの連携が図られていることもZ1の大きな特長のひとつですね。

小島 当社では昨年10月に「Pivi」という名称で、カメラ付き携帯から赤外線送信でプリントアウトできるコンパクトなモバイルプリンターを発売しました。今回のZ1はデジタルカメラでは初めて赤外線で送信できる機能を搭載していますので、撮ったその場で画像を見ながらPiviに送ってプリントすることができます。プリントは名刺サイズでアルバム化も簡単です。Z1とPiviをセットでアピールすることで、プリントしていただく楽しさもアピールしていきます。
当社では写真を撮る文化とともに、写真をプリントする文化も広げていきたいと思っています。デジタルカメラで撮った写真をプリントしておけばその写真をずっと残しておくことができます。一度プリントしておけば、それをもとに新たにプリントすることもできますし、もっと大きなサイズのプリントに拡大することもできます。いい写真が撮れたら、インクジェットのホームプリンターでも結構ですのでぜひプリントしていただきたいと思います。

―― 最後に販売店さんへのメッセージをどうぞ。

小島 3月から投入させていただいたF10、それから5月に投入するZ1では、徹底的にお客様の声を聞いて商品化しました。その結果、私たちが狙ったとおりの評価をいただいています。必ずやお客様に喜んでいただける商品であると確信していますのでぜひお薦めいただきたいと思います。

◆PROFILE◆

Masahiko Kojima

1951年東京生まれ。1974年慶応義塾大学卒。1974年富士写真フイルム株式会社入社。光機部、札幌営業所、宣伝部課長、プロフェッショナル写真部業務課長を経て、2002年札幌営業所所長、2004年富士フイルムイメージング北海道支社支社長、2005年3月より現職。趣味は写真撮影、音楽鑑賞、ゴルフ。