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| SONY VPL-VW11HT 液晶プロジェクター¥OPEN |
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| 文:吉田伊織 TEXT BY Iori Yoshida |
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ホームシアターの覇権争いは、ますます熾烈に このところ、本格ホームシアター用のプロジェクターは、いよいよ実り豊かな季節にさしかかっている。 伝統的な三管方式は撤退するメーカーが増えているのだが、バルコのようにむしろホームシアター用のラインナップを拡充しているメーカーもあって頼もしい。新興勢力であるDLP方式は、映画館用、プレゼンテーション用、そしてホームシアター用にと多くのメーカーが参入していて、一挙に主役の座をねらおうとしているのはご承知の通り。扱いが手軽だが高画質であり、小形なのに光出力が確保しやすい、といった多くの利点を備えた革命児といえる存在だ。 一方、手軽さという点で老舗である液晶方式はどうだろうか。データ表示用としては隆盛を誇っているが、ホームシアター用を意識したものは、メーカーが激減しているのが実情だ。液晶という不完全で損失の多い光学シャッターの限界が越えにくい壁となって立ちふさがっているからだ。しかし、それだけ難しい技術に挑戦する気概のあるメーカーだけが残っているともいえる。 液晶方式の欠点を徹底的に改善、型名も改めた そんな液晶プロジェクターの可能性を追及しているソニーが、驚異的な高画質モデルVPL−VW11HTを発表した。いうまでもなく、VPL−VW10HTの後継機である。 この約315万画素ワイドXGAパネルを搭載した前作は、1999年11月に発売された大ヒットモデルだった。その理由は、本格的なハイビジョン対応の液晶板を使っているだけでなく、あきらかにフィルム映像を意識した滑らかな階調表現を実現していたからだ。それに、小形のプロジェクターとしては、冷却ファンのノイズ問題に初めて本格的にとりくんで静音化を実現したことも高く評価されている。 しかし、高い画素密度と階調表現能力を備えた分、液晶ならではの欠点が指摘されていたのも事実だった。つまり、まだまだ暗部の表現力が乏しくて、黒が浮いてしまうという難問だ。それと白黒映像では緑かぶりが目立ってしまう。そこでこの後継機では、その根本問題に果敢に挑戦して見事な成果を収めたのである。外観は前作とそっくりなのに型番をかえたのも、その成果に自身を持っているからだろう。 黒浮き対策のために一新された光学系 というわけで、本機の最大の開発テーマは黒浮き対策と「緑のベール」の解消だった。そのために、光学系が一新されたのである。 まず光源のランプは、フィリップスのUHPではなく別のメーカーのものを採用している。前作と同じ200Wの容量だが、光出力が増したものだという。当然ながら一体型のミラーも変更されているはずだが、外観ではどういう変更なのかは判然としない。1・3インチのワイド液晶パネルに合わせた反射指向特性を改善したということかもしれないが、照度のムラを防ぐフライアイレンズは変更されていないという。 あいまいな書き方になってしまったが、取材した時点では、7月上旬の発売までにまだまだ変わる余地があるので、開発スタッフとしても回答しかねることが多々あるのだという。 源流から純白な光を供給する意義 しかし、光源の光出力を強化した理由は明らかだ。結果として得られる投映レンズからの光出力はワイド時で1000ANSIルーメンというから、これは前作と同じということになる。では光源の光出力の強化分はどうなったかというと、液晶パネルに供給する光をあらかじめ純白が得られるようにするために、主として光源の緑成分の損失を増やすことで消費したという。 念のために、その辺の事情を再確認しておこう。つまり、これまでの液晶プロジェクターは、光出力を増し、またコントラストをかせぐために青−緑成分の比率が多いまま、液晶パネルに供給していたのである。高圧水銀ランプの系統は、光出力対電力比が高いために盛んに使われているのだが、元々赤色成分が乏しい光源だ。もちろんハロゲンランプのような色スペクトラムの連続性はなく、フィルムプロジェクターに標準的に使われているキセノンランプとくらべても演色性は乏しいのである。 しかし、ノーマルな色バランスにするために光学フィルターを強化すると、光の損失が増すことになる。それでなくても、液晶方式は偏光板を透過させる関係で、光源光の利用率が少ないのが欠点なのである。そこで、ブラウン管方式やDLP方式と対抗して明るさを訴求するためには、純白でないバランスの光を使うしかなかったわけだ。 以上から分かるように、今回は光の三原色に分光するダイクロイックミラー関係も設計が一新されていることになる。そもそも家庭用として開発された液晶プロジェクターであっても、コスト削減のために、データプロジェクターの光学系をそのまま流用しているケースは多いのである。しかしそれでは、「緑かぶり」という癖はカラーマトリックスの信号処理で補うことになり、その欠点が結局はどこかで顔を出すことになるわけだ。 ワイド液晶パネルも新バージョンになった それと、今回はワイド液晶パネルが新バージョンになったことも特筆される。画素構成や開口率は同じだが、透過光の純度を高めるべく工夫したものだという。その実際についてはほとんど憶測になるのだが、まず液晶シャッター自体の遮光性能を高めたということが考えられる。しかし、黒の再現性を高めるために低電圧駆動を可能にした、という話は前作にもあったので、別の攻め手があるのかもしれない。また、表面反射や透過時の散乱によるコントラストの低下を防ぐために、なんらかの対策を施してあるようだ。偏光板もふくめてそういうハレーション対策に意を注いでいるわけだ。ただし、それは散乱防止用の指向性制御格子を外付けする、というような安直なものではないという。投映レンズについては前作と全く同じものを搭載。 シネマモーション機能を追加し、映画再生を最適化 信号処理系については、DRC−MFは最新バージョンではなく承前。しかし2−3プルダウン処理ができるシネマモーション機能が追加された。オリジナル24フレーム映像の最適化処理に至らない点があったDRC方式の欠点がこれで補われることになったわけだ。操作メニューはほぼ変更なし。シネマモーションのオン/オフが加わった程度だ。色温度は高、低とカスタムの設定が可能。サービスマンモードに入ればRGBのゲインとバイアス調整が可能というのも変わらず。入力端子関係も変更なし。 外観はそっくり同じに見えるが、唯一の変更点は、自照式の操作ボタンのうち橙色だったものが、青色LEDになったこと。また除塵フィルターは、従来の濾過式ではなく、静電吸着型に変更になっている。これは帯電した繊維質のフィルターにほこりを吸着させるもので、一枚で500時間程度使えるという。使い捨て式だが、出荷時に本体装着以外に3枚を付属させて、十分長期間の使用に対応しているという。その交換時期については、空気の流量の監視により警告文が出画されることになっている。 ところで前作は、消音効果のある排気ダクトによる本格的な低騒音設計が話題となった。それについての変更点はないという。ちなみに光源部の発熱については、消費電力が同じで光出力が増したのだから、その発熱量は原理的に減っていることになる。ただし、光学フィルターでの光の損失が増えた分は発熱要因になるのだから、全体での変化はほとんどないだろう。 ところで、残念ながら前作からのバージョンアップはできないという。また実勢価格は前作より少し高くなる模様。 液晶離れしたコントラスト目覚ましい表現能力に感動 まだ純然たる試作機だが、当誌視聴室にて画質をチェックする機会を得たので報告しておこう。 結論を先に言えば、すでに液晶プロジェクターの歴史を画する実力をうかがわせる出来ばえだ。液晶離れした強靭なコントラストと黒の締まりが確保されているのだから、これはだれしも喝采するしかないだろう。 もっぱら『グラディエーター』のチャプター26でチェックしたが、細部の光沢の緻密さとか透明度が印象深い。シネマモーションとDRC−MFのデジタルマッピング技術によって、DLPプロジェクターもうかうかしていられない緻密な質感描写性能を得ているのである。黒は完璧に真っ黒とはいかないが、たしかに以前とくらべると大きな進歩であり、暗部が容易につぶれずに、それがダイナミックな陰影表現を可能にしている。 まぶしいほど光があふれる闘技場のシーン。皇帝たちを取り囲む親衛隊の黒いサークルがしっかりと立体的に造型されていてなかなか不気味だ。その黒い隊列は、皇帝のどす黒い権力欲を体現し、またその権力者をひきずり下ろそうという群衆の無言の圧力をも背負ってデスマッチを見守っているのである。その二重性がきちんと表現できてこそ、ローマ帝国の落日を胚胎した劇場空間の気配がホームシアターにまで流入することになるわけだ。だからこのプロジェクターは、まちがいなくホームシアターの花形となるべき高い能力を備えていることになる。 それと、前作と違って白黒映像の正確な再現が可能になってきたのも素晴らしい。まだ調整未了の部分もあるのだが、以前のように「緑のベール」を目立たなくさせようと苦労することもなく、陰影だけの凛とした世界が容易に堪能できるのである。 ところでDVDプレーヤーとの接続は、525pで入力するより525iの方が良画質だというのが興味深い。シネマモーションの威力だろうか。 本機は、ソニーのハイビジョン対応ワイド液晶プロジェクターとして3代目に当たるのだが、乱世を切り開くおそるべき秀才の登場である。 <VPL-VW11HTのニュースリリース: http://www.sony.co.jp/sd/CorporateCruise/Press/200105/01-0501/>
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VPL-VW11HT SPEC 【光学系】●投影方式:3LCDパネル、1レンズ、3原色光シャッター方式 ●LCDパネル:1.35インチ p−Si TFT LCDパネル3,147,264画素(1,049,088画素×3) ●レンズ:1.2倍ズーム, F2.2-2.5/f=44.6−53.6 mm ●ランプ:200W UHP 【一般】●光出力:1000 ANSI lm(16:9投射時) ●カラー方式:NTSC3.58/PAL/SECAM/NTSC4.43/PAL-M 自動/手動切替 ●解像度:Video:750TV本、ハイビジョン:1100TV本、RGB:1366×768ドット ●対応信号:DTV(525i<有効走査線数480本>/525p<有効走査線数480本>/750p<有効走査線数720本>/1125i<有効走査線数1080本>)、プログレッシブコンポーネント(525P)、15K Component 50/60 Hz System、Composite Video、Y/C Video、RGB:fH15−80kHz、fV:50−85Hz ●消費電力:最大:300W、スタンバイ時:6W ●外形寸法:396W×168H×429Dmm ●質量:約8kg |






