【連載】佐野正弘のITインサイト 第40回
ソニー・ホンダの「AFEELA」に見る、スマホ関連企業がEVに力を注ぐ理由
2022年3月にソニーグループと本田技研工業が提携し、その後設立された「ソニー・ホンダモビリティ」。両社は高付加価値の電気自動車(EV)を共同で開発するとしており、ソニーグループが本格的にモビリティの分野へと参入する動きとして大きな注目を集めている。
そのソニー・ホンダモビリティが米国時間の1月4日、米国で開催された「CES 2023」で新ブランド「AFEELA」を発表するとともに、EVのプロトタイプも披露。このプロトタイプを基にEVの開発を進め、2025年前半から量産車の先行受注を実施、2026年春に北米から提供を開始するとしている。
AFEELAのプロトタイプの内容を見ると、ソニーグループが強みを持つ技術やサービスが存分に生かされているようだ。実際、ソニーグループがイメージセンサーで大きなシェアを持つことを生かし、車内外に45個のカメラやセンサーを搭載。ドライバーの状況もモニタリングするなどして、事故を防止しながらレベル3の自動運転機能を目指すとしている。
また、やはりソニーグループがゲームや映画、音楽などで強みを持つエンターテインメント要素も活用し、車内のエンターテインメントに関する取り組みも強化。「フォートナイト」などで知られる米エピック・ゲームズと協力して、車内エンターテインメントの新しい価値を検討していくことも明らかにしている。
だが筆者が注目したのは、このEVがスマートフォンに関連する要素を多く備えていることである。実際、AFEELAのプロトタイプは5Gネットワークに対応。5Gを活用して、スマートフォンのように継続的にソフトウェアをアップデートできる仕組みを備えていほか、前面のヘッドライト部分に搭載され、さまざまな情報を表示するなどして車と人とのコミュニケーションに活用できる「Media Bar」も、ある意味スマートフォンらしさを感じさせる部分だ。
そしてもう1つ、スマートフォンに近しい要素として挙げられるのが米クアルコムの存在である。実際、AFEELAのプロトタイプにはクアルコムのEV向けチップセットプラットフォーム「Snapdragon Digital Chassis」が採用されており、自動運転などの処理にはその高い性能が生かされているという。
加えて、CES 2023でソニーグループが実施したプレスカンファレンスでは、AFEELAのプロトタイプ公開に際して、クアルコムのCEOであるクリスティアーノ・アモン氏が登壇。スマートフォンだけでなくロボットやドローンなど、幅広いデバイスで協力関係にある両社が、EVの分野でも関係を深め協力していく様子を打ち出していたのは印象的だった。
自動車のEV化に伴い、通信の活用が進みスマートフォンのようになっていくという声は数年前から聞かれたもので、ソニーグループやクアルコムなどもここ数年来EVに関する取り組みが注目されていた。それだけに今回、AFEELAのプロトタイプが登場したことは、自動車のスマートフォン化が進みつつあることを印象付けたといえるだろう。
だが、スマートフォンに関連する企業がEVに力を注ぐというケースは、この2社にとどまらない動きとなっている。例えば、2021年にスマートフォン事業から撤退した韓国のLGエレクトロニクスも、CES 2023の直前にカナダの自動車部品メーカー、マグナ・インターナショナルとの技術提携を発表するなど、EV関連事業に向けた事業強化を図っている。「スマートフォンからEVへ」という流れは、ここ最近いくつかのスマートフォンメーカーの動向からも見て取ることができるものなのだ。
その背景にあるのは、スマートフォンの市場飽和に他ならない。既にスマートフォンは世界中で多くの人が手にするようになっており、先進国だけでなく新興国でも市場飽和が見えつつあることから市場開拓の余地が小さくなっているのだ。
それに加えて、コモディティ化による開発の敷居の低下、それに伴う低価格化の進行が著しいことから、価格競争も著しくメーカーの収益性も大幅に悪化している。それが、低価格に強みを持つ中国の新興メーカーや、低価格端末向けのチップセットに強みを持つ台湾のメディアテックなどの存在感を高める要因となっているのだが、既存メーカーにとっては生き残るのさえ厳しい環境となっている。
一方、EVは普及が進むのがこれからという段階で、しかも市場規模が大きいことから今後非常に大きな成長が見込める。しかも、EVへのシフトが進むに従って、自動運転やテレマティクスなど、自動車にもコンピューティングや通信の技術が求められるようになってきたことから、異業種のスマートフォンメーカーなどにも自動車産業への参入機会が生まれているのだ。
それが、大きな成長が見込めず利益を出すのが難しくなったスマートフォンから、EVへと注力する領域をシフトする動きにつながっているといえよう。AFEELAのプロトタイプで触れた通り、5G通信やイメージセンサー、チップセットなどはスマートフォンで培った技術を流用できることから、スマートフォン関連企業にとってEVは大きなビジネスチャンスとなる可能性が高いのだ。
そうしたことから今後、スマートフォン関連企業がEVに注力する動きは急加速する可能性が高い。そのことが、自動車業界に与える影響が関心を高めることは間違いないだろうが、一方でメーカーの減少と低価格シフトによって、スマートフォンの革新性が停滞・衰退してしまう懸念があるというのも、やや気がかりではある。
■ソニー・ホンダモビリティが発表した新ブランド「AFEELA」
そのソニー・ホンダモビリティが米国時間の1月4日、米国で開催された「CES 2023」で新ブランド「AFEELA」を発表するとともに、EVのプロトタイプも披露。このプロトタイプを基にEVの開発を進め、2025年前半から量産車の先行受注を実施、2026年春に北米から提供を開始するとしている。
AFEELAのプロトタイプの内容を見ると、ソニーグループが強みを持つ技術やサービスが存分に生かされているようだ。実際、ソニーグループがイメージセンサーで大きなシェアを持つことを生かし、車内外に45個のカメラやセンサーを搭載。ドライバーの状況もモニタリングするなどして、事故を防止しながらレベル3の自動運転機能を目指すとしている。
また、やはりソニーグループがゲームや映画、音楽などで強みを持つエンターテインメント要素も活用し、車内のエンターテインメントに関する取り組みも強化。「フォートナイト」などで知られる米エピック・ゲームズと協力して、車内エンターテインメントの新しい価値を検討していくことも明らかにしている。
だが筆者が注目したのは、このEVがスマートフォンに関連する要素を多く備えていることである。実際、AFEELAのプロトタイプは5Gネットワークに対応。5Gを活用して、スマートフォンのように継続的にソフトウェアをアップデートできる仕組みを備えていほか、前面のヘッドライト部分に搭載され、さまざまな情報を表示するなどして車と人とのコミュニケーションに活用できる「Media Bar」も、ある意味スマートフォンらしさを感じさせる部分だ。
そしてもう1つ、スマートフォンに近しい要素として挙げられるのが米クアルコムの存在である。実際、AFEELAのプロトタイプにはクアルコムのEV向けチップセットプラットフォーム「Snapdragon Digital Chassis」が採用されており、自動運転などの処理にはその高い性能が生かされているという。
加えて、CES 2023でソニーグループが実施したプレスカンファレンスでは、AFEELAのプロトタイプ公開に際して、クアルコムのCEOであるクリスティアーノ・アモン氏が登壇。スマートフォンだけでなくロボットやドローンなど、幅広いデバイスで協力関係にある両社が、EVの分野でも関係を深め協力していく様子を打ち出していたのは印象的だった。
自動車のEV化に伴い、通信の活用が進みスマートフォンのようになっていくという声は数年前から聞かれたもので、ソニーグループやクアルコムなどもここ数年来EVに関する取り組みが注目されていた。それだけに今回、AFEELAのプロトタイプが登場したことは、自動車のスマートフォン化が進みつつあることを印象付けたといえるだろう。
■活発化するスマートフォンからEVへの動き
だが、スマートフォンに関連する企業がEVに力を注ぐというケースは、この2社にとどまらない動きとなっている。例えば、2021年にスマートフォン事業から撤退した韓国のLGエレクトロニクスも、CES 2023の直前にカナダの自動車部品メーカー、マグナ・インターナショナルとの技術提携を発表するなど、EV関連事業に向けた事業強化を図っている。「スマートフォンからEVへ」という流れは、ここ最近いくつかのスマートフォンメーカーの動向からも見て取ることができるものなのだ。
その背景にあるのは、スマートフォンの市場飽和に他ならない。既にスマートフォンは世界中で多くの人が手にするようになっており、先進国だけでなく新興国でも市場飽和が見えつつあることから市場開拓の余地が小さくなっているのだ。
それに加えて、コモディティ化による開発の敷居の低下、それに伴う低価格化の進行が著しいことから、価格競争も著しくメーカーの収益性も大幅に悪化している。それが、低価格に強みを持つ中国の新興メーカーや、低価格端末向けのチップセットに強みを持つ台湾のメディアテックなどの存在感を高める要因となっているのだが、既存メーカーにとっては生き残るのさえ厳しい環境となっている。
一方、EVは普及が進むのがこれからという段階で、しかも市場規模が大きいことから今後非常に大きな成長が見込める。しかも、EVへのシフトが進むに従って、自動運転やテレマティクスなど、自動車にもコンピューティングや通信の技術が求められるようになってきたことから、異業種のスマートフォンメーカーなどにも自動車産業への参入機会が生まれているのだ。
それが、大きな成長が見込めず利益を出すのが難しくなったスマートフォンから、EVへと注力する領域をシフトする動きにつながっているといえよう。AFEELAのプロトタイプで触れた通り、5G通信やイメージセンサー、チップセットなどはスマートフォンで培った技術を流用できることから、スマートフォン関連企業にとってEVは大きなビジネスチャンスとなる可能性が高いのだ。
そうしたことから今後、スマートフォン関連企業がEVに注力する動きは急加速する可能性が高い。そのことが、自動車業界に与える影響が関心を高めることは間違いないだろうが、一方でメーカーの減少と低価格シフトによって、スマートフォンの革新性が停滞・衰退してしまう懸念があるというのも、やや気がかりではある。