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映像のプロの現場で求められる“正確な画”に近付く

「キャリブレーション」で4Kテレビの真価を引き出す!有機ELと液晶モデルで実践してみた結果

公開日 2024/04/30 06:30 鴻池賢三
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映像制作に関わるプロの現場において、モニターには色味や明暗表現の「正確さ」が求められ、定期的な校正作業「キャリブレーション」が必須と言える。一般ユーザーが使用する民生用の映像機器も、同様にキャリブレーションを行うことで、制作者の意図をそのままに受け取ることが可能になるため、映画ファン、そしてオーディオビジュアルファンは注目すべきテーマである。

近年の4K/HDR対応のハイエンドテレビの中には、プロの現場においてキャリブレーションのデファクトスタンダードとして使用されている「CalMAN」の自動キャリブレーションに対応したモデルも登場しており、キャリブレーションを実施することでテレビが持つのポテンシャルを、さらに引き出せる可能性がある。

4Kテレビを用いてキャリブレーションを実践

では、キャリブレーションを実施してみると、どのような部分に映像の違いが表れるのか。本稿では、パナソニックの4K有機ELテレビ「MZ2500シリーズ」の「TH-55MZ2500」と、4K液晶テレビ「MX950シリーズ」の「TH-55MX950」で、キャリブレーションを実践。キャリブレーションの基礎知識の解説から、サービスの紹介までお届けしたい。


4K有機ELテレビ PANASONIC 「MZ2500シリーズ」(TH-65MZ2500)

4K液晶テレビ PANASONIC 「MX950シリーズ」(TH-65MX950)

■キャリブレーションは「基準」に基づく校正作業


キャリブレーションと画質の関係について質問を受けることが多いので、そもそもの部分から解説したい。キャリブレーションとは各種の「基準」をターゲットにした校正作業に過ぎず、画質や画作りとは異なる要素と認識すると理解し易い。

絵画に例えると、キャリブレーションは、描き始める前にキャンパスをフラットに整えるイメージ。そのキャンパスの上に描かれる画は自由で良く、また最終的な仕上がりは腕次第である。ここで確かなのは、技量に関わらず、キャンパスはフラットであるのが望ましく、この点に疑いの余地は無い。

話を戻すと、高品位テレビの「画質力」、エンジニアが追求した「画調」や「画作り」も、「キャリブレーション」を行うことで、さらにその魅力を発揮できると考える。少し長くなったが、ここでは、キャリブレーションが画質や画作りを否定するものではなく、相乗効果でプラスに働くと理解頂ければ充分だ。

テレビの映像においては、具体的に明確な規格基準が存在する。基準とは、画面全体の色味と印象を左右する「色温度」、明暗を司るガンマ(HDRではEOTF)、そして色域(色表現)であり、各種映像規格毎に詳細に定められている。例えば4K/HDRなら色温度が「D65」、色域が「BT.2020」といった具合だ。繰り返しになるが、制作側と視聴者側が同じ規格に沿った映像装置で見ることで、意思の疎通が正しく行えることをご理解頂けるだろう。


鴻池賢三氏と株式会社エディピットの須佐氏の協力によって、キャリブレーションの取材を行った

■「色温度」と6色の明度/再度/色相を基準に合わせる


キャリブレーションで重要なのは、主に白の色味に関わる「色温度」。一口に「白」と言っても暖色から寒色まで様々なため、HDTV以降は「D65」(6504K/正確にはCIE 1931 色空間座標で、x=0.31271, y=0.32902)が基準になっている。同様に重要なのは、白と黒の中間であるグレーもD65であること。グレーは無彩色と呼ばれ、つまり色の無い色。逆に言えば、D65以外だと色が付いている状態と言え、白黒映像で違和感を覚えることは勿論、カラー映像の色再現にも影響する。


ベンチマークソフトなどに収録されているグレースケールの画面を見ると色が付いているかが確認できる


「色温度」は、パナソニックの4Kテレビで「ホワイトバランス調整」の項目に関連する
カラーテレビの場合、白とグレーの色味は、R(赤)/G(緑)/B(青)のサブピクセルの発光割合で決まるので、キャリブレーションではRGBの輝度比率を整える。原色のRGBや調整とは全く別の話である。


「ホワイトバランス調整」の調整画面。キャリブレーション前は全て「0」の数値になっている


「ホワイトバランス調整」では入力レベルが0.5 – 100の中で14ステップ設けられている
もうひとつの要素がカラー映像の「色」。テレビの場合、色域を示す三角形の頂点がプライマリーカラーと呼ばれるRGBの3色、そしてこれらのうち2色を混合したセカンダリーカラーと呼ばれるC(シアン)/M(マゼンタ)/Y(イエロー)の3色、合計6色がキャリブレーションの対象。これら6点の、明度/彩度/色相を基準の座標に合わせるようにキャリブレーションすると、正しく設計されたテレビは中間色も概ね適正に表示可能になっている。


「カラーマネージメント調整」の項目に設けられているCMYKの項目


「カラーマネージメント調整」の項目に設けられているRGBの項目

■RGBバランスとグレースケールトラッキングが整うのが理想


今回はポストプロダウションスタジオなど、プロの現場でキャリブレーションサービスを提供する(株)エディピットの須佐氏の協力を得て取材を実施。キャリブレーションソフト「CalMAN」と自動キャリブレーション対応のパナソニックの4Kテレビを用いて、キャリブレーションの効果を検証した。4K有機ELテレビのTH-55MZ2500はSDR(D65/BT.709/ガンマ2.4)とHDR(D65/BT.2020/ST.2084)、4K液晶テレビのTH-55MX950はSDRのキャリブレーションを行った。


Portrait Displays「Calman Ultimate」


パターンジェネレーター Portrait Displays「VideoForge Pro 4K HDR」

測定機 KONICA MINOLTA「CA-P427」
キャリブレーション前は、RGBバランスの折れ線グラフに幾分の乱れが見られ、人間の色覚に沿って基準からの色の見え方の乖離度合いを示すDeltaE 2000の数値も2 - 3になっている箇所が見られる。色再現は三角形の頂点と辺の中間の6つの枠が基準で、それぞれの色の丸印が測定結果をプロットしたもの。DeltaE 2000も棒グラフと値で示される。

キャリブレーション後は全体的にDeltaE 2000が1 - 2以下に抑えられているのがわかる。特に明部から暗部までのRGBバランス、つまり色温度は「グレースケールトラッキング」と呼ばれ、映像の背骨とも言える部分であり、真っすぐ整っているのが理想だ。


TH-55MZ2500のHDR・キャリブレーション前のグラフ


TH-55MZ2500のHDR・キャリブレーション後のグラフ


TH-55MZ2500の映像モード「シネマプロ」(HDR10入力時)のグラフ


TH-55MZ2500のSDR・キャリブレーション前のグラフ


TH-55MZ2500のSDR・キャリブレーション後のグラフ


TH-55MZ2500の映像モード「シネマプロ」(SDR入力時)のグラフ


TH-55MX950のSDR・キャリブレーション前のグラフ


TH-55MX950のSDR・キャリブレーション後のグラフ
今回のキャリブレーションは、テレビのGUIでオープンされている項目が自動キャリブレーションの対象でもあり、テレビのハードウェアにダイレクトに働きかけないことから、一般的にソフトキャリブレーションと呼ばれることもある。なお、キャリブレーション後に各項目の数値が動くが、テレビの個体差や経時変化を測定した上での補正値であり、同じモデルが手元にあっても一律に適用できるものではない。


パナソニックの4Kテレビでは、映像モード「キャリブレーション」「プロフェッショナル」にキャリブレーションを反映できるモードを用意


キャリブレーション後の数値はGUIで確認できる。「ホワイトバランス調整」の数値に補正値が反映されているのを確認


オープンにされている項目に自動キャリブレーションによる補正値が反映された


「カラーマネージメント調整」のRGB項目にも補正値が反映されている


「カラーマネージメント調整」のCMYK項目も補正値が反映されていることも確認

■滲みでるようなナチュラルな立体感を得られる


では、実際に映像を視聴してみると、どういった部分にキャリブレーションの違いを感じることができるのか、各種映像で確認した。

まず断っておきたいのは、今回取材した両機ともハイエンドモデルであり、映像モードで「シネマプロ」を選ぶと、SDR/HDRともに規格基準に沿って充分に調整されていること。テレビのような映像装置の場合、測定結果のDeltaE 2000で、4くらいまではヒトの視覚で色の差として感じ難く、コンシューマー機器としては高精度と言える範囲。ぱっと見で色が不自然に感じることはまず無い。キャリブレーンはさらなる高みを目指すものとして捉えてほしい。


映像モード「シネマプロ」とキャリブレーション後の映像を比較してみた
全体として、色温度(グレースケールトラッキング)が整うことによるメリットは、映像の立体感の違いとして感じ取れた。例えば人物の表情は、ヒトの視覚が敏感で、肌の色に立体を司る陰影が加わってグラデーションとして表示される際、色味が正確だとナチュラルで凹凸や奥行きも豊かに感じられる。首と顔の繋がり、人物と背景との前後感なども同様だ。

「色の違い」ではなく、全体を俯瞰した際、滲みでるようなナチュラルな立体感を得られるのが、キャリブレーションの成果と言って良いだろう。また、映像美を追求して精緻に作り込まれた映画映像では、味わい深さの差として感じられた。


キャリブレーション後、人物の映像によるイメージ


「シネマプロ」、人物の映像によるイメージ


キャリブレーション後、動物の映像によるイメージ


「シネマプロ」、動物の映像によるイメージ
キャリブレーション後の映像は「セット」ではなく「リアル」な風景として感じられ、スムーズなグラデーションと濃厚で正確な発色は、デジタル時代においてもフィルムのようなテイストが目に心地よく映る。キャリブレーションされた映像は、制作の意図したルックとして信頼に値するのは言うまでもない。


キャリブレーション後、風景・夜景の映像によるイメージ


「シネマプロ」、風景・夜景の映像によるイメージ
このようにキャリブレーションが可能なテレビであれば、今回のレポート通りの結果が得られるだろう。キャリブレーションの作業は、オートキャリブレーションと言ってもノウハウが必要である。須佐氏によると、メーカーやモデル毎に挙動にクセがあると言う。エディピットは、プロの現場だけでなく、家庭用の訪問キャリブレーションサービスを行っているので、対応モデルなどについて相談も可能だ。

最高を求める映画ファン、オーディオビジュアルファンなら、本稿を機会にキャリブレーションに注目してみてほしい。




<使用機材>
・測定協力:株式会社エディピット
・測定ソフトウェア: Portrait Displays「Calman Ultimate」
・パターンジェネレーター:Portrait Displays「VideoForge Pro 4K HDR」
・測定機:KONICA MINOLTA「CA-P427」
・視聴ディスク:4K UHD BD『The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク』

4K UHD BD『The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク』

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