特別連載 注目アクセサリーで楽しむ オーディオビジュアル STEP UP

第2回 AVファン待望のBDチェックディスクを使いこなす

映像・音に最高の素材を満載
プロ志向の評価ディスク誕生の背景とは 
レポート/林正儀
1981年のレーザーディスクの発売以来、多くの評価用ソフトを制作してきたキュー・テックが満を持して発売したBDチェックディスク『Hi-Definition Reference Disc』の魅力について、作品の制作指揮を担当した小池俊久氏にインタビューを行った。
 

BDディスクのチェックソフトとしては、キューテックが製作し月刊・AVレビューの2008年1月号にバンドルされた「FPD Benchmark Software」が大好評だが、今回同社が発売したのは、内容・クオリティとも大幅に刷新、グレードアップされたAVファン向けの画質・音質評価用BDディスクである。タイトルは「Hi-Definition Reference Disc」だ。

 

Phile-webでも既に紹介されているが、映像はMPEG-4 AVC方式のハイビジョンであり、主観評価映像とテスト信号43シーンが収録されている。オーディオコンテンツも注目すべきポイントであり、何とフルオーケストラの楽曲『ジ・アース』が、リニアPCM、ドルビーTrueHD、DTS-HD Master Audioの3フォーマットで、96k/24ビットの7.1chのサラウンド音声が収録されている。これは世界初の快挙である。

 

このAVファン待望のBDチェックディスクは、どのようにして生まれてきたのだろうか。今回は本作品のプロデュースを手がけられた(株)キュー・テックの小池俊久氏に、その誕生秘話などインタビューを試みた。

 

作品の制作背景など、身振り手振りを交えて語ってくれた小池氏に、筆者は情熱溢れる人という印象を抱いた。小池氏はキュー・テックの前身であるパイオニアLDCに務める頃より、プレーヤーの高画質・高音質を評価するための専用ソフトの制作に携わるようになった。長きに渡るAVファンならば、LD時代の『レーザービジョン・デモンストレーション1/2』や『ウオッチングピープル』などの作品を懐かしく思い出すだろう。DVDでは『ガイアズ・ドーター』『オーディナリーヨーロッパ』などなど、まさにハイクオリティチェックソフトの草分けと呼ぶ相応しいタイトルに小池氏は関わってきたという。

 
(株)キュー・テック 制作営業部 第1制作室 室長 小池俊久氏
 
   

「今回の『Hi-Definition Reference Disc』と『FPD Benchmark Software』では、収録内容がまず異なっています。FPDベンチマークの動画は一切用いず、すべて新規に撮りおろしたものです」という小池氏。確かにモノスコや階調などのチャートは同じだが、実画映像はFPDベンチマークとは別ものである。撮影時期が1年違えば、器材も進化するのは当然であろう。まず、撮影したカメラが進化しているという。「最新型のソニーF23です。フジノンの大口径シネレンズを搭載しているので、周辺歪みが圧倒的に改善されています」

 

それ以上に、違うのが映像信号の伝送形式だ。「以前はソニーHDC-1500で、伝送形式も民生の“Y:U:V=4:2:2”でしたが、これをさらに上位の信号レベルに変えて“R:G:B=4:4:4”としています」と小池氏は説明する。輝度に対する色情報の余裕に注目したい。同軸ケーブル1本から同軸2本のデュアルリンクに変わっているのもそのためである。撮影から編集まですべて“4:4:4プロセス”で行うというハイグレードな仕様だ。

 

撮影を行った「人(クルー)」は変わらず、カメラマン、VE、照明担当まで小池氏と気心の通じ合ったチームでの作業となる。というのも、評価用の映像を作るのは、ある意味特別な感性と技術が要求されるからだ。「派手なCMやビデオと比べれば、まさにベクトルが違います」(小池氏)。主観評価映像を業務に用いるエンジニアにとって、見慣れた被写体が用いられていることが重要であり、それとの比較で画質チェックするわけだ。ガンマや色の加工・演出は御法度。そのかわり白ピークで飛ぶこともなく黒ツブレもない。肌も極めて自然だ。一見地味だが波形モニターで監視しながらソースに忠実に映像を作り込む。

 

このような映像を映画やテレビ出身のスタッフが撮影するのは実は難しいことなのだという。いい例が映像の“アングル”だ。通常カメラマンは映像の構図を演出することにこだわるものだが、例えば評価用映像の場合は皿を真上から撮って真円度やフレームのおさまり具合をチェックする場合もあれば、直線が大事な時もある。ガンマなども不用意にいじられては困るし、そのことでエンジニアどうしが口論になることもしばしだ。そこが理解できていなければ、評価ソフト制作のチームは組めないという。中でも小池氏が特にこだわるのが、薄型テレビで質感表現や自然な奥行感をいかにして出すかというテーマだ。本作品では、ディスプレイの質感や奥行き感をチェックするための素材も沢山含まれているので、のちほど紹介しよう。

 

テスト素材の映像は、構図や色彩など、主観評価映像を業務に用いるエンジニアの用途を徹底追求した内容となっている(写真はクリックで拡大します)
オーディオのチェック素材には、若手作曲家の山下康介氏が本ディスクのために手がけたオリジナル作品『THE EARTH』を収録する(写真はクリックで拡大します)

 

オーディオのコンテンツについても、実際にここまで音にこだわったデモソフトは史上初と言えるだろう。「映像が最高なら、それに相応しい対等レベルの音であるべきです。それも純粋にオーディオチェックに特化した、オリジル作品を入れたい」と語る小池氏。そこで彼が起用した人物が、NHK連続テレビ小説『瞳』のテーマ音楽などを手がけるクラシック出身の若手作曲家である山下康介氏だった。『THE EARTH』は全7部からなる交響詩で、母なる地球への思い、人類とのかかわりを歌い上げた壮大な地球賛歌なのだ。その「序曲」が大編成オケの7.1チャンネルで収録されている。

 

キュー・テックの現場で活躍するオリジナルのデータストレージャー(写真はクリックで拡大します)

だがいかに大容量のBDでも、3つのHDオーディオトラックを同じシーンの中に縦積みで収録することはできない。そこで3つのチャプターごとに、96k/24ビットのリニアPCM/ドルビーTrueHD/DTS-HD Master Audioの音声を一つずつ収録し、映像は静止画にしたのだという。収録はサウンドシティでのスタジオ録りだ。数ある器材の中でも、秘密兵器はプロトゥールスで収録したサウンドデータを格納するオリジナルのデータストレージャーだろう。ジッターを抑えるべく中国産の黒御影とアルミ無垢材でHDD本体をサンドイッチしたうえ、筐体に真鍮のインシュレーターを取り付け制振性を高める構造を採用している。本体の重さは何と16キロの重量級。トラックダウンやオーサリングの過程もすべて、この機器の中で完結させるというこだわりは見事だ。

それでは作品の中のコンテンツを体験してみよう。メニューはビデオパートとオーディオパートに分かれており、まずビデオパートからである。視聴はパイオニアのBDプレーヤー「BDP-LX80」を使って行った。

 

解像度/コントラスト/階調/色再現といった基本項目はFPDベンチマークと同じだが、テスト信号(チャート)以外は確かに初めてみる実写素材ばかりである。花、食器、宝石、人物など一見して緻密かつ質感豊かで、色調もすこぶるナチュラル。もちろんフレームの周辺まで歪みがなくシャープで、クオリティの高さを実感する。

 

映像のチェック用にモノスコパターンを含むテスト信号素材も数多く収録する(各写真はクリックで拡大します)
白の世界の輝度や質感表現を確認するための「ホワイトイメージ」のトラック
人物のテスト素材も収録されている。

 

動画解像度のチェック素材では、モノスコパターンや車のナンバープレート、走行する列車の窓ワクで倍速駆動などの効果が確認できるし、岩と波はコントラスト感や圧縮(ブロックノイズ)のチェックにも役立つはずだ。必見なのは「シーン7」のビル街である。これは都庁付近での撮影で、先ほども触れた奥行感のチェックに最適だ。輪郭のレスポンスが緩ければ、ビルの立体感も損なわれるだろう。手前からずっと奥の方へ、吸い込まれるような遠近の深さに感嘆した。

 

コントラストメニューでは東京の夜景「シーン9」が息を呑む美しさである。東京タワーの明暗の対比、上空から見下ろす駅前広場の微妙な陰影が、いかにリアルに再現されるか確認してみて欲しい。階調メニューのカメラや硯(すずり)の質感はどうだろう。硯にはさらに墨まで入っているところがミソである。ここは黒100%ではなく、わずかに階調をもたせている。色再現では毛糸、色紙、薔薇などデリケートな色のトーンを味わいたい。また総合評価に納められた、日の出、竹林、寺院、日本料理などの実写は、私たちが日常目にするものであり、主観評価にふさわしいスーパーハイクオリティな素材である。

 

静止画や動画解像度が確認できる「自動車」のトラック(各写真はクリックで拡大します)
「岩と波」のトラックでは圧縮映像のブロックノイズをチェックしたい
「シーン7」の「ビル街」はディスプレイの奥行感をチェックするのにも最適な素材だ
「東京の夜景」のトラックでは低輝度下における先鋭感と暗部階調を確認
低輝度下における暗部階調表現がチェックできる「炭と硯」
「日の出」など、日常目にすることの多いシーンでディスプレイの性能を確認するための映像も用意されている

オーディオパートは、まずチャンネルチェックでスピーカー配置やレベルの確認を済ませるとよいだろう。今回はパイオニアのAVアンプ「SC-LX90」をメインに、作品の試聴を5.1ch環境で行った。さすがにサウンドは身をのりだすほど鮮烈で圧倒的なものだ。

音元出版視聴室で『Hi-Definition Reference Disc』を体験する林氏。視聴はパイオニアのBDプレーヤー「BDP-LX80」とAVアンプ「SC-LX90」の組み合わせで行った(写真はクリックで拡大します)

冒頭、ファンファーレ風にホルンが高らかに歌い、みずみずしいストリングスや木管にひきつがれる。そこに打楽器の強打がパワフルに響くという、壮大でダイナミックかつ色彩感に溢れる快演である。各パートの分離離のよさや、潤うようなハーモニーの重なりは、マルチ収録のオーケストラが持つ醍醐と言えるだろう。パーカションがメリハリよく収録されており、低域「0.1ch」のインパクトは十分。部屋中が管弦楽のサウンドに包まれる印象である。

 

また、96k/24ビットの3つのロスレスフォーマットの違いも即座に聴き分けられた。ドルビーTrueHDは少し鋭角的でキレがあり細部の見通しがよい。DTS-HD Master Audioはもっと濃厚、かつスケールが大きくパワフルな印象だ。そして両者を併せ持つのがリニアPCMの、高いバランスをもつサウンドと聴いた。もちろんスピーカーやプレーヤー、AVアンプのチェックにも最適だ。

 

これは『THE EARTH』の全曲をぜひ聴きたいものだが、小池氏の話によると、ステレオ2chで作品のフルバージョンを収録したCDを、近く商品化するために検討中であるという。BDとのカップリングなどもぜひ期待したいところだ。

 

はじめにチャンネルチェックでスピーカーの配置やレベルを確認する(各写真はクリックで拡大します)
『THE EARTH』のトラックはリニアPCM/ドルビーTrueHD/DTS-HD Master Audioの、3つのロスレスフォーマットで収録されている
マルチチャンネルで収録されたオーケストラ素材の持つ醍醐味を味わうことができる


プロの目で選び抜かれた素材を、こうしてBDチェック盤として身近に視聴できるのは、AVユーザー冥利である。わずか数分のシーンにも神経を研ぎすませたエンジニアのこだわりがつまっているのだ。ひとつひとつをじっくりと観察し、あなたの鑑賞眼、審美眼をレベルアップして欲しいものだ。

 

コンテンツのクオリティはハイアマチュア向けと言えるかもしれないが、内容自体は幅広いAVファンが楽しめるものであると感じた。今回は小池氏へ直にお話しをうかがうことができて、作品の魅力がさらに深く理解できた。プロジェクターはもちろん、フラットディスプレイでもOKだし、スピーカーが小型でも十分にクオリティを感じてもらえるはずだ。これはAVファンならぜひ、手元に一枚置いておくべきタイトルの一つだろう。



写真はクリックで拡大

Qtec
Hi-Definition Reference Disc

(品番:QVDB-1003)

\9,975(税込)


●収録時間:53分片面1層 ●映像:FULL HD 1920×1080i/MPEG-4 AVC ●音声:<Video Part>リニアPCM (二ヵ国語/日本語・英語)、<Audio Part>96kHz 24bit 7.1ch サラウンドステレオ リニアPCM、DOLBY TrueHD、DTS-HD Master Audio ●封入特典:ガイドブック(16P)
>>Qtecのホームページ
>>パイオニア・オンラインの販売ページ


林 正儀 筆者プロフィール
林 正儀 Masanori Hayashi

福岡県出身。工学院大学で電子工学を専攻。その後、電機メーカー勤務を経て、技術 系高校の教師というキャリアを持つ。現在、日本工学院専門学校の講師で、音響・ホー ムシアターの授業を受け持つ。教鞭をとっている経験から、初心者向けに難しい話題 をやさしく説明するテクニックには特に定評がある。