話題の高音質盤第2弾ができる過程に岩井喬が密着

元曲の「温度感」があるジャズアレンジを − F.I.X. RECORDS「Pure2」制作現場レポート(2)

岩井 喬

前のページ 1 2 次のページ

2011年05月18日
発売まであと一週間を切った高音質SACD『Pure2-ULTIMATE COOL JAPAN JAZZ-』(以下、『Pure2』)。今回はエグゼクティブ・プロデューサーであるアクアプラス及びフィックスレコード社長である、下川直哉さんのインタビューと、一発録りで収録された「トモシビ」のレコーディングの模様についてレポートする。(第1回レポートはこちら

【第2回目次】
・『Pure2』誕生秘話を下川直哉さんに訊く
・「トモシビ」一発録りレコーディングレポート


まずは下川さんへのインタビューである。下川さんは今回のレコーディングで本拠地である大阪から離れ、長期間東京に滞在されていた。収録の合間を縫ってインタビューをさせていただいたが、『Pure2』にかけた熱い想いの数々を伺うことができた。

− 『Pure2』を作ろうと思われたきっかけを教えていただけますでしょうか。


『Pure2』ではエグゼクティブ・プロデューサーを勤める下川直哉さん
下川さん(以下、敬称略) オーディオファンの皆さんにも評価していただいたおかげで、『Pure』も発売以来初回出荷の3倍以上のオーダーをいただきました。ありがとうございました。

皆さんから良い反応をいただいて、良い音の録音盤が欲しいという需要があることが判ったことのほかに、自分としてもそういうアルバムがまだまだ欲しいなと。そして次に何を自分のオーディオシステムで聴きたいか考えた結果、少しずつ『Pure』第2弾の構想を進めていく過程で、前作やSuaraのSACD『アマネウタ』の作業を手がけていただいた橋本(まさし)さんに相談したら、“ジャズしない?”といわれたんです。『ルパン三世』のテーマも元々ジャズだし、アニメやゲーム音楽の世界でジャズは存在としてありえると、その時はっとしたわけです。

ただ、当初自分たちの楽曲がジャズになるのか、イメージがわかなかったわけですが、社内を含めて検討する中で本物のジャズができたら面白いよねと。やるからには第一前提としてオーディオリファレンスになるもの、そして自分自身聴きたいものであることであるという点を踏まえて“ジャズ・アレンジ”の『Pure』を制作することにしました。

『Pure2 -Ultimate Cool Japan Jazz-』2011年5月25日発売 ¥3,000(税込)

『Pure -AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS-』2007年11月28日発売

− 『Pure2』のプロデュースはエンジニアも勤める橋本まさしさんですが、ジャズでいこうと確証持った瞬間というのは、どこにあったのでしょうか?

下川 橋本さんが頼りになるというのが確信の一つですね。私の好きなSACDのなかに、ジャズシンガーakikoのアルバム『MOOD INDIGO』があるんですが、この作品を手がけたのが橋本さんだったんですよね。私自身橋本さんが作ったアルバムの一ファンだし、橋本さん自身、ジャズへの造詣が深いですから。橋本さんも“ジャズにするなら、自分に任せてくれれば大丈夫”といった感じでしたし、橋本さんを中心にしてジャズで行くのなら、安心できるとも思いました。

そして自分の曲、アクアプラスの曲がジャズになるという面白さですね。私は今までにないことへチャレンジすることが大好きなので、「良い音のSACDでジャズを聴く」という試みはかなり面白いんじゃないかと思ったんです。『プロジェクトPure』のコンセプトとしてはロックよりはジャズでしょうし、前作はクラシック寄りだったので尚更ですね。

− フィックスレコードでは以前、ジャズの世界にも近いフュージョン・アレンジ作品の『HEART SESSION』を手がけていますよね。


『HEART SESSION』1999年7月23日発売 
下川 『HEART SESSION』の場合はオーディオや音質的な観点よりも音楽性に着目して取り組んだという観点の方が近いですね。当時は、打ち込みで作った音楽を生楽器で置き換えたものを作ってみたいという思いがあったんです。現状それなりの音楽性のクオリティで作れるような楽曲ですが、世界レベルで通用するものにしてやろうという、今回の『Pure2』とは全く違うコンセプトです。

『Pure』自体は元々聴きたい音…つまり本当に良い生音をダイレクトに味わいたい、張り詰めた箱(スタジオ)の空気感をそのまま、スタジオのコントロールルームで聴いているものが原盤になって欲しいというところからスタートしているんです。だからこそドライな音、チェックディスクとして成り立つようなものとなったんです。

ユーザーさんが求めるものは普段から親しんでいる当社の楽曲でありつつオーディオ・リファレンスにもなる優秀録音盤を期待していると理解していますが、音の良さ、アナログの良さ、歌い手や演奏者の神業的なすごさ、という要素をどう感じさせてくれるか…お金で得られるものではないプライスレスな部分で人間の心を動かせるような音源であるというものが、『プロジェクトPure』における大前提であるというわけです。

『Pure2』をジャズにする上で、一番はじめ、橋本さんと一緒に打ち合わせを一晩かけて行ったんです。ジャズはわりと曲を崩して演奏するスタイルも多いと思うんですが、アレンジものになったとき、コード進行やメロディは守るけど、原曲が分からなくなっているものも結構ある。そうしたところもジャズの醍醐味であるとは思うのですが、今回大事にするポイントは原曲の温度感です。とにかく第一条件は良い音であることが絶対ですし、日本を代表する一線級の実力派プレーヤーを使うことも大事です。しかしなによりも原曲が原曲として判ること。もしアレンジが“これはジャズと呼べるのか?”というものになったとしても、原曲がわからないくらいならジャズにしなくても良いと決めたんです。自分が原曲のファンだったら、そのアレンジを聴きたいので買ったのに、全く違う曲になっていたら元も子もないですよね?そうした期待を裏切ることがないように、アレンジの方向性は注意深く進めましたね。

− SACD『アマネウタ』のボーナストラックの一発録りがきっかけになりましたか?


『アマネウタ』 2006年1月25日 発売
下川 そうですね、橋本さんの音のファン、『スタジオ・サウンド・ダリ』のサウンドのファンであったのもありますが、「星座〜アコースティックVer.」一発録りの時の音が良かったのもきっかけの一つといえますね。あの時『ダリ』で、生バンドを使って”せーの”で録れるものをやりたいとも思っていたんです。「星座」はその実験になったともいえますね。生バンドのきちんとしたもの、自分が死ぬまでに名盤と呼べるものを残せたら良いとも思っていましたし、だからこそ、「星座」とはコンセプトが違えど、橋本さんを中心に自分たちが納得できる“究極のもの”、世界で通用するという点よりも、まずは自分たちの中での“究極”として、この『Pure2』は一つの着地ができると思っています。LPも作れたらいいなと考えていますよ。

『Pure』で支持を受けたのも大きいですが、曲が良いものであれば尚のこと音も良いものであって欲しいという人たちはいつの時代でもいるんだなと、最近感じています。アニメの優秀録音盤って20〜30年前のアニメ音楽では結構あったように思います。生音もふんだんに用いていますし、曲も良いですしね。だから我々もできる限りはこうしたプロジェクトを続けていきたいと思っています。

『Pure』のようなプロジェクトは採算のことを考えていたら立ち上がらない企画だと思います。でもその志を理解して賛同してくれる人たちの情熱と、やるかやらないかを決めるトップの気合の問題でそうした問題は超えられるんじゃないかとも思えるのです。

− 今回の楽曲のチョイスは?

下川 橋本さんと話し合い、ジャズにするときのバリエーションであったり、様々なテンポ感も含め、リスナーの聴きたいであろう楽曲選びという点を考えました。そのうえで前作『Pure』と被らないものですね。『Pure』では人気のある楽曲を集めたがために、今回も候補を並べていくと被るんですが、最低限被る楽曲は1、2曲にとどめて、Suaraの持ち歌も含めてボーカル曲を半分としました。

そして前作と大きく違う要素として、アクアプラス作品ではないカバー曲も入れることにしました。細田守監督作品の『時をかける少女』の主題歌である奥華子さんの「ガーネット」と、PSゲームソフト『テイルズ・オブ・ディスティニー』の主題歌、DEENさんの「夢であるように」。年代を二つに切り分けて、今の年代のアニメユーザーが好きであろう楽曲1曲として「ガーネット」を、私がゲームにはまったゲーム全盛期に人気のあった楽曲として、自分も大好きな楽曲ということで「夢であるように」を選びました。単純にどっちも私が聴きたい曲が選ばれたというわけですね(笑)

こうした幅のある選曲としていることで、良い録音の曲、好きな曲を聴きたいという枠を少し広げることができたと思いますし、アクアプラス・ファンではない方まで、こういうレコーディングをしたらCD層だけでこんなに音が良いのか、SACDならもっといいんだろうね、という感触を持ってくれたり、これによって他の楽曲がリメイクされる、カバーされるときに原曲よりもっと良い音で録るんだという一つの“良録音”というジャンルができたらいいなと考えていました。

− カバー曲でもインストとボーカル曲との構成になっていますね。

下川 まず歌モノに関しては男性曲をSuaraに歌わせようと考えていました。また違った雰囲気になるだろうという期待がありました。そうした向きもあったので、もう一曲では女性曲をインストにしようという流れになりました。

− 「ガーネット」は、先行しているアニメソングのジャズアレンジ集、ラスマス・フェーバーによる『プラチナ・ジャズ』にも収録されていますよね。

下川 『プラチナ・ジャズ』はものすごくクオリティも高いし、確かにあればは超えたいと考えていました。どこで超えるかというと、やっぱりアニメの曲が大好きな人たちが聴いた時に、『Pure2』の方が良いと思う超え方をしたい。

まず『プラチナ・ジャズ』とは出発点が違います。我々の方は、“ゲーム音楽をジャズという媒体にしても聴けるでしょ?”という、原曲のイメージを壊さないで作るジャズでした。”ジャズも悪くないでしょ?”と。

一方、ラスマス・フェーバーはアニメ音楽もジャズのユーザーさんに対して、“アニメ音楽の素材は良いんですよ。土台は良くて、こうやってコードとメロディを使ってジャズにしてしまえば充分ジャズとして聴けるでしょ”という感じで、ジャズのユーザーへアピールしているんじゃないかと思うんです。同じジャズの土俵だからこそ、ジャズとして『Pure2』が良いというのも目標ではあるけど、一番は原曲が原曲で聞こえるようなジャズアレンジでありたいというのが『プラチナ・ジャズ』との違いですね。そのためにはジャズと呼べるのか?と呼べるところまで踏み込んでいます。ジャズにすることで原曲が原曲として判らなくなるのだったらそれはカバーじゃないんじゃないの、と私たちは思っています。

だから『プラチナ・ジャズ』の「ガーネット」の温度感は失われてしまっていると思っているんです。楽曲には温度感があると常日頃思っていますが、コードとメロディを守ったらその曲になるのかというと、私はそうはならないと考えています。加えて歌い手の声色も含めた曲の持っている温度というものがジャズにされても維持されているかどうかが自分の中で勝負だったんです。

もちろんはじける曲は原曲から離れているアレンジもしていますが、良い感じでジャズにしてるよねという形に収めたい。「ガーネット」では一番初めにもらったアレンジにNGを出したりもしました。「ガーネット」の持っている女性らしさ、歌詞の雰囲気を壊すようなメロディの楽器は使うのを止めようと。大切にしているのは空気や温度なので、あの映画の持っている最後の感動を消したくない。原曲は超えられないし、原曲は原曲の良さを持ちながら、原曲をジャズで聴きたいと思ったときに、“ああ、「ガーネット」だね”と思えるようになっていたい。結果として原曲イメージとブレのないアレンジに仕上がったと思っています。

また、今回面白いと思う点は、やっぱりアナログで録るのは良いよねと反応があるのと同時に、ベテランといっても若い一流のジャズプレーヤーたちを集めている点です。『Pure』と違う、これから今の勢いのある若手のジャズプレーヤーが生み出す新たな良録音盤となっているところが注目点でもあります。お互いに勉強になるような感じでやっているので、これは面白いかなと。アレンジしてくださったWaJaRoのShuntaroさんもすごく音楽やレコーディングを楽しんでくれています。

そしてポップスに対して理解している好きな人たちがいることが大きい。クラシックやジャズをやっている人たちの中にはポップスを見下している人たちもいるように思いますが、ポップスも好きという人たちが中心になって、ポップスの気持ちをわかりつつジャズアレンジをしてくれているのが一番楽しいですね。

− 昨今96kHz/24bitや192kHzの高音質配信に注目が集まっていますが、今回の『Pure2』を含めて、フィックスレコードさんでは今後高音質配信をされる予定はお持ちでしょうか?

下川 恐らくもうそろそろ進めていかないといけない段階であると認識しています。あとは受け皿の問題で、ユーザーさんがどれだけそういう環境を手に入れているかというのが一つの問題ですね。データの管理やメディアに何を使うのかという点をどう処理していくのか、ハードメーカーさんと協力体制が組めるなら、当社としても是非192kHz音源も提供したいと思いますし、広がりが出てくることなのでやって行けたらいいなと思っていますね。

ただ、そうした配信音源はSACD以上というわけではなく、違った個性を持つものとして受け止めていただきたいと考えています。自分自身もSACD以上のものはまだないと思っていますし、SACDプレーヤーを『Pure』のために購入いただいたユーザーさんのためにもパッケージとしては続けていきたいというスタンスです。

レコーディングを進める中での感覚としてですが、今回の方が音の厚さ、密度感の点で前作を遥かに超えているんじゃないか、と思えます。第2弾としてワンランク以上の進歩を感じています。良い意味で自分としても究極のリファレンスができたと思っていますよ。

やり直しのきかない一発録りだからこそ生まれるグルーブを捉える − 録音現場レポート

前のページ 1 2 次のページ