■プロフィール −コンセプトは「ナチュラル・カラー・リプロダクション」−
待ちに待ったキクチの新素材、「ホワイトマットアドバンス」の登場である。かつて、これほどひとつのスクリーンを待ちわびたことはなく、筆者も自宅のシアターに導入の準備をしはじめたところだ。

コンセプトは「ナチュラル・カラー・リプロダクション」。あらゆるシーンで色を忠実に再現し、ヌケるような白には特にこだわったという。加えてダイナミックな黒階調と高いコントラストも確保。まさに驚異の新素材と呼ぶに相応しいみごとな仕上がりだ。技術面では「ウルトラマイクロ・シボ」と呼ばれる生地面の微細な凹凸と、ノンモワレを実現した、ベース層グラスファイバーの「超極細糸・平織り構造」が2大フィーチャーというのだが、これだけの高性能を引き出すノウハウはそのどこにあるのだろうか。(株)キクチ科学研究所の開発担当者、山口治雄氏に伺った。

■開発者に聞いたホワイトマットアドバンスの秘密
(株)キクチ科学研究所 山口治雄氏

「まずベースありきです。モワレがなく平面性も優秀で、かつ十分な強度をもつベース層ができたからこそ、次のステップ=生地の開発へ踏み出せたのです」。平織りじたいは特殊なものではないそうで、グラスファイバーの糸に工夫がある。太さや糸の量、縦横の本数、スクリーン1インチ四方あたりの密度といったパラメータを探求。最終的には縦横とも極力極細にして増量し、生地面への凹凸露出をなくしたことで平面性を確保した。さらにモワレ対策のキリ札となったのが、横糸を丸ではなく扁平にしたうえで平織りを行うという新しい試み。「扁平であれば同じ繊維どうしのピッチであっても、その分間隔が狭くなり平面度も上がってモワレに強くなります」。

新スクリーンは生地面が滑らかだ。おそらく拡大して見なければ凹凸の判別は不可能。それが話題の「ウルトラマイクロ・シボ」である。マットスクリーンでのシボ(凹凸)の役割はいうまでもなく光の拡散にあるわけだが、この穴の深いところで光を吸収し、山のところで反射して映像のコントラストをキープしてもいる。

身振り手振りを交えて新スクリーンの説明をする山口氏

今回のホワイトマットアドバンスがすごいのは、圧倒的な微細化と光のコントロールのみで、少しの色シフトもなく映像として描ききることだ。しかも最暗部から中間調、そしてハイライト領域までみごとなバランスを保つのだ。

「先ほどの平織りもそうですが、このシボについても、深いものや浅いもの、微細化の大小を含めサンプルを数多く試作しました。組み合わせたらすごい数ですよ。そのつど映像を見ては効果を確認し、モワレもチェック。『よし、これでいこう』と決断するまでに、ほぼ2年はかかっています。データはその都度取りますが、最後に善し悪しを判断するのはやはり人間の目、感性です」。キクチ科学の心意気を見る思いである。

■情報を極限まで引き出すかつてない再現力
視聴は音元出版視聴室で行った

いま、私の前には松下のTH-AE700とキクチのスタイリストがセットされている。生地はもちろんホワイトマットアドバンスだ。今回は、長年リファレンスとして愛用している「キャスト・アウェイ」やアニメ「ファインディングング・ニモ」などを総動員して、本スクリーンのパフォーマンスを引き出してみよう。

漂流生活を描いた「キャスト・アウェイ」は、夜の海岸や洞窟での暗部階調がどこまでつぶれずに視認できるかをチェックした。ホワイトマットアドバンスは、普通ならベタ黒になってもおかしくないこれらのシーンを的確に描き出す。ダーク部をぐっと沈めながらも暗部情報量も確保。うっすらとした月明かりのハーフトーンを忠実に描くし、暗部でも光の芯を捉えながらしっかりと色が乗る。なかなかのリアリティだ。

このソフトは暗いシーンだけでなく、日中の眩しいほどに明るいシーンも多く、いわば黒と白を両方チェックできる。雲の輝きや眩しいほどの波の白さなど、ビーズスクリーンで鍛えたキクチ科学のノウハウが生きている。マット系のスクリーンで、この鮮烈な白ピークのビビッド感を描いたものは見たことがない。断崖から見下ろすシーンのダイナミックな立体感は圧巻だ。

「パニック・ルーム」や「マスター・アンド・コマンダー」は、ねっとりとした重厚な描写が多い。「パニック・ルーム」で、夜の雨の中、ライトで懸命にSOSを知らせるシーンはぎりぎりまで陰影感をキープ。これはマイクロ・シボのおかげだろう。「マスター・アンド・コマンダー」では、うっすらと濃霧の漂う帆船のデッキやほとんど光のこない船内がノイズ少なくリアルに描かれていて、キャメラのピント送りまでハッキリとわかった。スクリーンの遠近描写が忠実な証拠である。

定番の「恋におちたシェイクスピア」は、窓辺のシーンがしばしば暗部のチェックに活用されるが、もともとソフト自体の黒がつぶれぎみなのが難点だ。それよりもこの作品で美味しいのは色。極彩色のカラーがどこまで官能を刺激するかが勝負だ。宮殿や舞台のシーンはまさにハイライトだが、ここでもホワイトマットアドバンスの精密な色再現能力が確認できる。パルトローの透き通るような肌と 濁りのない金銀や極彩色カラーの高貴な雰囲気感がすばらしい。

視聴に使ったソフト

「キャスト・アウェイ」
ユニバーサル・ピクチャーズ  UWGD-33287 
\4,179(税込) 詳細

「パニック・ルーム」
ソニー・ピクチャーズ  BDD-32044 
\2,625 (税込) 詳細
「マスター・アンド・コマンダー」
ユニバーサル・ピクチャーズ  UJSD-38099 
\4,179(税込) 詳細
「恋におちたシェイクスピア」
ユニバーサル・ピクチャーズ  UJGD-29936 
\4,179(税込) 詳細
「ファインディング・ニモ」
ブエナ ビスタ  VWDS4874 
\2,940(税込) 詳細

それとモワレのチェックなら、冒頭のローズ座の藁葺き屋根をナナメにパンするシーンに注目したい。屋根のディテールが細かく、プレーヤーやプロジェクター側でうまく処理するのも難しいが、それにモワレが重なるともう収集がつかない。ジラジラのグジャグジャになってしまう。このシーンが、ホワイトマットアドバンスではあっけないほどすんなり滑らかに描かれてしまったから、本モデルの「ノンモワレ」ぶりに脱帽するしかない。

色の美しさや透明度といえば「ファインディング・ニモ」は欠かせない一枚だ。「CGでここまで色数と緻密さが出せるものか」と感嘆するのだが、スクリーンにわずかな色シフトでもあれば、この透き通るような質感は味わえない。解像度不足も御法度だ。だがホワイトマットアドバンスなら忠実性が高いうえ、ディテールまですこぶる鮮明。海中の魚や生き物たちのリアルな表情に見入ってしまう。

一気に見終えた感じだが、長時間の視聴のあいだ、破綻の兆しすらなく、あとに残るのはホワイトマットアドバンスの長所ばかりという印象だ。視聴の続きは、近々導入を予定するわが家で行いたい。シアターファンなら必見のハイエンドスクリーンだ。

 

ホワイトマットアドバンス搭載モデル一覧
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Stylist
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スプリングローラー
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