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注目モデルテストレポート

日欧共同プロジェクトから誕生 EXシリーズの技術が盛り込まれたエントリー向け意欲作

文/大橋伸太郎プロフィール

製品写真

一見シンプルだが音楽の深みを存分に味わわせてくれる

昨年のS-81(SERIES8)を端緒とする日欧エンジニアによるインターナショナルプロジェクトの第3弾で、価格上ボトムを担うエントリーライン、従来のEUROシリーズの後継となるスピーカーシステムである。パイオニアはTADのプロジェクトとEXシリーズで、日本のスピーカー技術を一気に引き上げた。しかし、TADはハイエンドの特権的世界の製品である。EXシリーズも音場再現性で躍進を遂げ世界的に高い評価を得たが、相応の使いこなしを要求するクリティカルリスナー向けの製品である。パイオニアのスピーカーに関する近年の卓越したノウハウを生かした、ステレオ2chからサラウンドまで柔軟に対応する、幅広い層に向けた製品が期待されていた。

それに応えるべく登場したのが今回のSERIES3。インターナショナルプロジェクトだが、リビングで薄型テレビとのコーディネートも想定、幅広いユーザーとコンタクトする激戦区に登場したいわば本命なのである。

見逃せないのは、本機はEXシリーズの技術要素が盛り込まれて誕生した製品であることだ。エントリークラスの価格と瀟洒なデザインでいながら、あのEXと深い関連のあることを考えると天才音楽家一家に生まれて才能だけでなく容姿を兼ね備えた美しい若者を見るようで、嬉しくなるではないか。

このSERIES3の顔が、トールボーイ型のS-31-LRである。SERIES3は仏人デザイナー・スティーヴ・セネカットのデザインで、上位シリーズ同様にフラッシュサーフェスデザインとラウンドフォルムエンクロージャーが最大の特徴である。

S-31-LRはグリルを装着すると、頂点から台座の上までバッフルとユニットが完全に面一(つらいち)になる。これだけ徹底したフラッシュサーフェスは初めてである。バッフル上には10cm口径のユニットが等間隔で配置されている(一番上のトゥイーターは2.5cmのソフトドームだが、支持部分の口径をウーファーと統一)。この各スピーカー位置は定在波の減少を目的に厳密なシミュレーションを経て最適化され、低音再生に大きく貢献している。これをパイオニアはABDテクノロジーと命名しているが、EXシリーズの背骨をなす技術で、次にSERIES8のS-81に使われ、そうして今回のS-31-LRが生まれたのである。

エンクロージャーの形状は後ろに向かって弧を描きながら絞り込まれるラウンドフォルムで、先に紹介したフラッシュサーフェスと相まって、S-31-LRは実際の寸法以上にスリムに見える。エンクロージャー形式はバスレフだが、底部に大口径のポートが開口、スリムな形状を補って豊かな低域を再生する。ハイリニアリティポートと命名した。

本機のキャラクターを大づかみに表現すると、高域にややまぶしたような華やかなニュアンスがあるのが特徴。明るく張りのある、華やかな音調である。マウリツィオ・ポリーニの最新録音盤であるJ.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集第一巻」は本機の屈託のない美音性によってポリーニの演奏の流麗さが重畳して夢幻的な美しさが際立ってくる。しかし、その中にくっきりした整合感ある演奏がある。バッハらしい精密な秩序感がある。優男風のルックスだがコツンと芯があって、質量をも備えた音の実在感があるのがいい。

アンドラーシュ・シフの最新録音である「J.S.バッハ・パルティータ集」は本機の響きの明澄さが際立つ。立体的で伸びやかな音楽で、このピアニストらしい覇気と自発性に満ちた演奏の推進力、のびやかな解釈をしっかり伝え、スケール感は価格を忘れさせて立派。

ジャズピアノはどうか。キース・ジャレットの最新盤「テスタメント」からロンドン公演(CD3)を聴いた。ダークサイドに満ちた諧謔的で陰鬱な曲想のグロテスクさをくっきり虚空に造型する重厚で力感豊かな表現だ。演奏に没入するキースのアクションを音にならない空気振動で伝えて目に浮かぶ。こうした実在感、空気感が表現できるのは立派で、もっと高級なスピーカーシステムでもなかなかできない境地である。この辺りが、EXシリーズの技術要素を引き継いだこのシリーズの強味なのだ。続く叙情歌の透明感、そこから滲み出る音色の夜の虹のような美しい詩的なイメージもいい。クレア・マーティンのジャズヴォーカルは、ハスキーボイスに肉感性と暗い色艶が滲み出る。総じて明るくよく奏でる、サイズに似ず豊かな表現力を持ったスピーカーシステムだ。試聴に使ったポリーニのCDのライナーノーツには「バッハ平均律を日々のパン(糧)に…。」という洒落たヘッドラインが躍っているが、S-31-LRこそまさにこの言葉通りの、一見シンプルだがなかなか噛み応えがあって、小麦粉の(つまりいい演奏の)香ばしさが存分に味わえる音楽生活の「日常の伴侶」といえるだろう。

最後に、センタースピーカーS-31C、コンパクトブックシェルフS-31B-LR(×2)、アクティブサブウーファーS-51Wと組み合わせて5.1chで聴いた。つまりSERIES3の総合力の試聴である。サラウンドアンプにはパイオニアのSC-LX90を使った。3機種全てのスピーカーユニット(10cmグラスファイバーコーン、2.5cmソフトドームトゥイーター)と設計コンセプトが共通であることの威力が大きく、しかも、S-51Wの低音再生を初め、スピーカーシステム間、ユニット間のタイミングと位相を揃える同社のフェイズコントロールに基づいた設計だから、チャンネル感の疎密のない非常に密度感が高い音場を楽しめる。S-31Bは非常にコンパクトだが低域を欲張らずバランスがいい。S-31Cはセリフが明瞭でリスニングポイントによく飛んでくるダイヤローグ再生のスペシャリスト。結果的に非常にバランスのいいサラウンド音場である。S-31-LRだけで聴いた時の中高域の華やかなキャラクターがやや後退し、穏やかで晴朗、自然な立体感の音場が楽しめる。

製品画像 (左)S-31B-LR/(右)S-31C
 
スペック

【SPEC】
<S-31-LR>
●型式:位相反転式フロア型 ●ユニット:10 cmコーン型ウーファー×2、2.5 cmドーム型トゥイーター ●インピーダンス:6Ω ●再生周波数帯域:38Hz〜40KHz ●出力音圧レベル:84dB ●最大入力:120W ●外形寸法:202W×1,006H×230Dmm ●質量:8.8kg

<S-31B-LR>
【SPEC】●型式:位相反転式フロア型 ●ユニット:10 cmコーン型ウーファー×2、2.5 cmドーム型トゥイーター ●インピーダンス:6Ω ●再生周波数帯域:45Hz〜40KHz ●出力音圧レベル:82dB ●最大入力:120W ●外形寸法:152W×235H×197Dmm ●質量:2.5kg

<S-31C>
【SPEC】●型式:位相反転式フロア型 ●ユニット:10 cmコーン型ウーファー×2、2.5 cmドーム型トゥイーター ●インピーダンス:6Ω ●再生周波数帯域:45Hz〜40KHz ●出力音圧レベル:84dB ●最大入力:120W ●外形寸法:364W×146H×177Dmm ●質量:3.6kg

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