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注目モデルテストレポート

TADから堂々誕生・ブックシェルフ/モノパワーアンプの銘機

文/山之内 正プロフィール

製品写真

既存サイズを超えた新しい領域を目指すCR-1/底知れぬ性能を秘めた銘機M600

スピーカーの分野において世界に通用するブランドとして高い評価を確立しているTADから、一気に2つの新製品が披露された。ブックシェルフスピーカーTAD-CR1とモノラルパワーアンプTAD-M600である。

まずはTAD-CR1から概要を見ていこう。中高域を受け持つCSTはReference One、20cmウーファーはM1のミッドバスからそれぞれユニットを継承。いずれも高い完成度を誇るユニットであり、特にCSTは本機への導入に当たって特別な設計変更は行っておらず、再生帯域も250〜100kHzで変更はない。

ブックシェルフ型とはいえ存在感十分なキャビネットは、Reference Oneと同じ素材、製法を用いて入念に作り上げている。構造面で注目すべきは本体ボトムに27.5mmという肉厚のベースプレート(アルミ製)を追加していることだろう。スタンドの影響を受けにくくするとともに、筐体の重心を下げて不要共振を抑える効果も期待できる。45kgという質量はこのサイズのブックシェルフ型スピーカーとしては異例といえるほどの重量級で、堅牢そのものだ。

TAD-M600の外見でまず目を引く強大なベースシャーシは、際立った振動吸収特性を備える片状黒鉛鋳鉄(ねずみ鋳鉄)製で、重さはなんと35kgもある。この堅牢なシャーシに電源トランスをはじめとする重量パーツを固定しているが、前後左右に踏ん張ったワイドトレッド形状を導入することで、重心の高さを大幅に下げている点に注目したい。床との接点はスパイク構造を採用、1台当たり90kgに及ぶ総重量をピンポイントで堅固に支える。

回路のこだわりも半端ではない。スピーカーの理想的な駆動を実現するために妥協のない完全バランス回路を採用し、入力はXLR端子のみという徹底ぶりだ。回路構成にしたがって部品レイアウトも完全対称設計とし、電源回路には正負電源に同一仕様のトランスを1個ずつ使用している。なお、電源トランスとシャーシの間には厚さ10mmに及ぶアルミ制振板を挿入して振動の遮断を図っている。電源トランスやブロックケミコンは本機専用のカスタム設計だ。基板のパターン間に発生する静電容量を抑えるためにPPE(ポリフェニレンエーテル)材を使用するなど、目を引く素材・技術がいくつか導入されているが、これらのノウハウは通信衛星など桁違いの精度が要求される分野からの応用である。

本体後部は独自設計の肉厚チムニー型ヒートシンクを配した出力段を配置。マルチエミッター型トランジスターを5パラレルで使用したプッシュプル構成のバランスアンプを採用し、8Ωで300W、4Ωで600Wのリニアな出力を達成した。回路の安定度を改善することによって、出力チョークコイルを排している点も音質への貢献が期待できる。

2機種とも試作機レベルではあるが、パイオニア本社の第一試聴室で再生音を聴くチャンスに恵まれた。発売までにさらなるチューニングを施すのはもちろんだが、基本的な音の志向は決まった段階だという。


まずはTAD-CR1をエアーのKX-R、MX-Rと組み合わせて試聴した。プロトタイプを含めるとこのスピーカーを聴くのは3度目だが、一貫して感じられる資質として、重要なポイントをまず挙げておこう。それは、小型スピーカーの制約を感じさせないスケール感を実現しながら、コンパクトなスピーカーでなければ実現が難しい自然な音場再現を可能にしている点だ。Reference Oneに比べると設置しやすいサイズで、設計上想定している空間サイズも異なるが、本機はたとえ広い部屋で鳴らしても違和感がないほどに豊かな量感を引き出すことが可能で、いわゆる鳴りっぷりの良いサウンドを堪能できる。小空間ではフロア型に迫るスケールの大きさを発揮するに違いない。

CSTに備わる点音源の良さが素直に感じられ、音像定位はサイズもフォーカスもほぼ理想に近い。その周囲に広がる空間のパースペクティブは立体感に富み、ボーカルやギターなどは、まさにスピーカーの存在が消えるような自然なサウンドステージが浮かび上がってくる。

音場と音像の追求はReference Oneでも重要な開発テーマの一つになっていたが、TAD-CR1はその理想にさらに一歩近付いたと言えるのではないか。ブックシェルやフロア型など既存の枠組みを超えた新しい領域の開拓を目指して、発売までに表現力のさらなる熟成を期待したい。


TAD-M600の開発目標は「Reference Oneを鳴らし切る」ことを第一に掲げている。その点を考慮してReference Oneを接続し、音を出した。

最初に聴いたブルックナーの交響曲第9番は、かつてこのスピーカーから出てきたどの響きよりも力強く、オーケストラがマッシブな量感でぐいぐいと迫ってきた。音量が最高潮に達する瞬間は思わず身構えるほどの音圧感が耳を襲ってくるが、そこには破綻の兆候は微塵もなく、まだまだ音量を上げても大丈夫という余裕すら感じられる。もちろん、その段階ですでに尋常ではない音量で鳴らしていることはいうまでもない。スピーカーを鳴らし切るというのは、こういうことだったのかと、思わず納得させられた瞬間だ。

次に聴いた《火の鳥》の終曲では、弱音から最強音にいたるダイナミックレンジの大きさに意識を集中させて聴いた。さきほど聴いたブルックナーでゲネラルパウゼ(全休止)の静寂さが際立っていたからだが、《火の鳥》ではピアニシモで演奏される弦楽器のトレモロを聴いて、鳥肌が立つような感覚を味わうことになる。このフレーズが、ここまで小さな音で、息が止まりそうな緊張感をたたえて聴こえてきたことは今回が初めてだ。土台の安定し切ったフォルテシモを聴いた後だけに、その対比の見事さはより強い印象を残す。

掛け値なしに広大なダイナミックレンジと高次元のセパレーションは、対称性と制振にこだわり抜いたことの成果であろう。底知れぬ性能を秘めたTAD-M600、そのサウンドは完成前から銘機誕生を予感させる水準に到達している。

この製品の情報は「オーディオアクセサリー」134号にも掲載されています

スペック

【SPEC】<TAD-CR1>
●型式:位相反転式ブックシェルフ型●スピーカー構成:3ウェイ●ユニット:20 cmコーン型ウーファー、同軸16 cmコーン型/3.5 cmドーム型ミッド/トゥイーター●再生周波数帯域:32 Hz〜100 kHz●クロスオーバー周波数:250 Hz、2.0 kHz●出力音圧レベル:86 dB(2.83 V/1 m)●最大出力音圧レベル:109 dB●適合アンプ出力:50〜200 W●定格インピーダンス:4 Ω●サイズ:337W×627H ×440Dmm ●質量:45 kg

<TAD-M600>
●定格出力:600 W(JEITA 20Hz〜20 KHz、T.H.D 、0.2%、4Ω、300 W(JEITA 20 Hz〜20 KHz、T.H.D 、0.2%、8 Ω)●周波数特性:1 Hz〜100 KHz +0/-1 dB●定格歪率:0.03 %以下(20 Hz〜20 KHz/4Ω 300 W出力時)●利得(Gain):29.5 dB ●入力端子:XLR/220kΩ×1●出力端子:専用大型ネジターミナル×2組(バイワイヤリング対応)●サイズ:516W×307H×622Dmm(スパイク受け装着時)●質量:90kg

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