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パイオニアの血統と革新性を併せ持った新BDプレーヤー「BDP-LX52」
文/大橋伸太郎

ブルーレイ時代の本格開幕に活躍すべく登場
パイオニアの新BDプレーヤー「BDP-LX52」

ブルーレイディスクソフトの発売点数はいよいよ増えるばかりである。『AVレビュー』誌でずっと担当してきた月評もとうとう一人では手に負えなくなり、今月から2名体制に踏み切った。ブルーレイソフト時代の本格到来を象徴するように、映像ソフトの不滅のキラーコンテンツである内外の巨匠監督のボックスセットが相次いで発売された。しかし、角川映画から発売の黒澤明ボックスは、先行して単売された『羅生門』以外も今後単売されるがレンタルの予定はなく、ワーナー・ホーム・ビデオから発売のスタンリー・キューブリックBOXは『時計じかけのオレンジ』を始め、現時点ではBOXのセルオンリー。単売もまだ先となる。つまりいま、黒澤は(キューブリックは)買わないと見られないのである。参考までに、キューブリックBOXの価格は、¥24,800(税込)である。待望の名作がようやくハイビジョンで見られる! と欣喜雀躍はしたものの、ふと我に帰れば、フトコロのお金がまことに心許ない、嬉しくも悩ましい「ブルーレイ時代本格開幕」である。

ブルーレイディスクならではのハイビジョン画質、HDオーディオ音質で思う存分に楽しみたい、ソフトも遠慮せずに買いたい。そのためには、リーズナブルな価格で同時に妥協のない高品位再生を実現するプレーヤー(再生専用機)が必要だ。レコーダー(録画再生機)の場合、録画とBD-ROM再生を同時に行う上での機能制限があり、パッケージソフトのヘビーユーザーには、再生のスペシャリストが欠かせない。しかし、これまで、日本で発売されたプレーヤーは高額なフラグシップか、さもなくば、ロープライスのエントリー機で、ミドルクラス機はまだ選択肢が多くなかった。ブルーレイの需要が大きな盛り上がりを見せている今、ユーザーの声なき声が求めていたのは、高画質のための高価格機でなく、ソフトを輝かせる中堅価格帯の実力機ではなかったか。タイミングを見計らったように、パイオニアから待望の製品が登場した。BDP-LX52、価格は88,000円、5月下旬発売である。BDP-LX52が私たちの期待にどれだけ応えてくれるか、オーディオビジュアルファンなら興味は尽きない。

パイオニア BDプレーヤー
BDP-LX52
¥88,000(税込) 5月下旬発売
パイオニアサイトで調べる】【製品データベース



フラグシップ機の機能を継承しつつ、
さらなる高機能を付加

BDP-LX52は、BDP-LX71に始まり、LX91を頂上とするパイオニアのブルーレイディスクプレーヤー・第2世代機のいわば末弟である。技術系列上も、上位機のドルビーTrueHD、DTS-HDマスターオーディオへの完全対応、新世代映像プロセッシング、トリプルHDノイズリダクション、センターメカレイアウトといった主要な機能を引き継ぐ。一方、HDMIセパレート出力(2系統で映像、音声をパラレル出力、ピュアオーディオモードでは映像信号をブラックアウトして高品位出力する機能)は搭載されない。これはフラグシップ機LX91のみのエクシクルーシブな機能である。

その一方で、型番末尾の数字が“52”と更新されている本機は、デジタルAVの定説である「最新は最良」の通り、上位機を追い越してしまった部分もある。

衝撃的なのがPQLSの進化である。PQLSは、HDMIでリニアPCM音声を送る際に、プレーヤー側のクロックをアンプのクロックにリンクさせてジッターフリー伝送を実現する技術で、LX91/LX71ではステレオ音楽CDにのみの対応だったがBDP-LX52ではブルーレイディスク/DVDのマルチチャンネル音声にまで適応範囲を拡大した。国内/輸入盤でクラシック音楽、オペラのブルーレイディスクが急増し、それらが例外なくリニアPCMのサラウンドを採用している現状を考えれば、この進化がリスニングにもたらすものは非常に大きい。

BDP-LX71/91から採用してきたセンターメカレイアウトを、本機も採用。リモコンもヘアライン仕上げの高級感あるデザインだ

BD-LIVEにも対応し、BDソフトを余すところなく楽しめる。自宅で作成したAVCHD/AVCRECディスクも再生可能だ

本体正面には「PQLS」インジケーターを用意。PQLS使用時にはライトが点灯する


ファイルウェブの読者が興味をもたれるに違いないのは、昨年、トップを切って昨年発売され、価格的にもオーバーラップするBDP-LX71(¥118,000)との比較だろう。ウォルフソンのDACをディファレンシャル駆動するLX91/71のアナログ7ch出力の音質のよさは、ブルーレイディスク音楽ソフトを再生して、筆者に深い感銘を与えたが、それが今回省略された。これが上位機種との最大の違いである。PQLSのマルチチャンネル対応に象徴されるように、本機はHDMI高音質再生に軸足を置いたコンセプトと考えるべきだろう。

本体を安価に手に入れられる分、アクセサリーでひと工夫するのもオススメだ。まず、LX52のメガネ型電源ケーブルは取り外し可能なので、交換してみるのも良いだろう。インシュレーターも、この価格帯の製品として立派なものが付属しているが、この下にボード、スペーサーなどを使ってみても、さらなるクオリティアップが図れるだろう


階調表現、解像感、ソースに忠実な再生能力 ……
上位機の美点を引き継ぎつつ、
より生き生きとした外向的なニュアンスを感じられる



視聴を行う大橋氏

さて、視聴に移ろう。まず、ブルーレイディスク映画ソフトから。2007年のアカデミー外国語映画賞を受賞した『善き人のためのソナタ』は、BDP-LX91で再生して蔽い隠していたものが洗い流されたように、映画のメッセージ、映像の狙いが姿を現し、深い感銘を筆者に与えた作品である。本作はフィルム撮影だが、ハイビジョンビデオのようなガンマの階調で撮影し、同時代の悲劇のドキュメンタルな客観性と迫力を狙っている。女優のマリアが、シュタージ(国家保安局)の尋問に屈して恋人の劇作家ドライマンを裏切るシーンは、白々とした光線が彼女の顔から陰影を奪い去りフラットに酷薄に照らし出し、精神的にも逃げ場を奪われて素裸にされた女の絶望を容赦なく浮かび上がらせる。凄い映像である。LX91は持ち前の辛口でシャープな映像で、このシーンの苦さ、悲しみを冷徹に焼き付けた。この映画を再生する上でLX91に適う製品はどこにもないと確信したくらいである。さてLX52ではどうか。さすがに血は争えない印象。LX91ほどの厳しさはないが、色彩の強調や、画質の演出による情感移入がなく、映画のメッセージがしっかり伝わってくる。ガンマの出力設定もLX91のそれを踏襲しているようで、権力の側にいる人物と迫害に晒される個人を、ライティングで表現しわける本作の撮影コンセプトを忠実に伝えている。LX91より分かりやすかったのが、体制と闘う三人の芸術家が公園で語り合うシーン。ドライマンの横顔のクローズアップに、活動の自由を奪われた苦悩に加え、全体主義社会の中で個であることを貫き通す男の意思と尊厳がくっきりと浮かび上がった。これは、LX52がストイックで客観的なLX91に比べやや立体感のある絵作りを狙っているため、撮影の狙いがかえって積極的に伝えてきたのである。

上位機と同じく、細やかな画質調整モードを備えている


フランシス・フォード・コッポラの最新作『コッポラの胡蝶の夢』を見て感嘆したのは、BDP-LX52のノイズ感が極小であること。『善き人…』とは逆に、ハイビジョンビデオカメラを使いフィルム的なガンマで撮影した作品で、元来、フィルムのグレインノイズはないのだが、再生機の性能に不足があると、今度はビデオノイズ、圧縮ノイズに邪魔されて、映像の神秘的なたたずまいにまで到達できないのだが、BDP-LX52は、映像に透明感、澄明さがあるのだ。海辺のホテルの夜のシーンの青褪めた月光に濡れた演技が妖艶で美しく、暗部に凝集する階調表現、抑えられた色彩が夜咲く花のように豊かに開いていく。

家族の絆を描いたロードムービー『リトル・ミスサンシャイン』は、最近に珍しく、フィルムの粒状感をそのまま出してくるが、BDP-LX52で再生するとザラッとした木綿のような映像の手触りや、家族を取り巻きまた彼らが身にまとう消費社会の象徴のてんでバラバラな色彩の哀しさを素直に出して心地よい。こうしたニュートラルな素直さ、作為のなさはパイオニアのプレーヤーの一貫した美点である。ワーゲンタイプ II バスを背に三人が並んだシーンでは、被写界深度の深い広角撮影でありながら、妹が僅かに前に出ている立ち位置の違いが分かり、LX91譲りの解像力を見せ付けた。


一聴してその音の鮮やかさに驚く
PQLSマルチサラウンドはBDの“音”に革新をもたらすだろう



本体設定/HDMIからPQLSの自動/オフを設定する

BDソフトのPQLSを使った再生をここから試してみよう。組み合わせたアンプはパイオニアのSC-LX71である。残念だが、このアンプはPQLSマルチチャンネルに未対応なので、今回の試聴はステレオのみである。小澤征爾/ベルリンフィルの『悲愴』はリニアPCMステレオ音声を選択、PQLSオフ/オンで聴き比べる。KUROLINKをオン、PQLS「自動」にして、再生スタートすると“PQLS ON”がアンプに点滅する。一聴して弦楽のセクションの鮮度がまず違う。ジッターの抑圧で位相が整いクラリティ(明瞭度)が上がり音楽の起伏がくっきりする。弦楽セクションのピチカートのクレシェンドが生き生きと鮮明になる。リスニングポイントへ力強く音が迫まってくる。

 

HYPS「Chaotic Planet」のHQCD、TR5のテーマ曲(ボレロ〜グノーシス)では、バイオリンの音像が実在感を増し高さを目に見えるようにリアルに表現、タイトに引き締まった音場になる。HDMI音楽再生の不満として、音像の土台がしっかりせず、音場の視界が悪く奥行き感の乏しいことが挙げられるが、PQLS搭載の進境には大きなものがあり、エレーヌ・グリモーが演奏するバッハのCDでも、PQLSオンで非常に大きな差が生まれた。音の鮮度がまるで違い、ピアノの一音一音がベールを取り去ったように生々しく、クッキリとした立体感が生まれる。スタインウェイの鍵盤を滑走するグリモーの両手が見えてくる。弱音になった時の音の集団に肌理細やかな一音ごとの立体感と全体の起伏が生まれる。TR10「シャコンヌニ短調」終盤の低音和音はオフだと薄くなってしまう音があるが、オンでは隠れる音がなくなり、音場にピアノの全体像が姿を現す。クレア・マーティンのジャズボーカルは、意外にもバックのバンドよりボーカルの描写に変化があった。オフの時には視聴室の音の反射でやや隠れていた肉声のハスキーな感触が姿を現し、歌唱のレベルがさらに上がったようである。

PQLSの効果は非常に高く、(対応アンプが発売されれば)現時点で唯一、サラウンドのPQLSにまで再生範囲を広げるBDP-LX52の魅力は大きい。今回視聴してみて、本機は上級機の美点を引き継ぎながら、より生き生きとした外向的なニュアンスを付け加えた製品であると感じた。どの映像を再生しても自己の厳しい美学の下に、ニュートラルで端正な表現を貫くBDP-LX91に比較して、BDP-LX52は、ソフトに寄り添いニュアンスを引き出す積極性がある。ブルーレイ本格普及時代と共に誕生した、映画(音楽)を愛するヘビーユーザー待望のブルーレイ再生の「本命」がここにはある。この辺りはいかにもハード機器だけでなく映像ソフトをずっと手掛けてきたパイオニアらしく、ディスクプレーヤーの分野でフラグシップ・中堅機・エントリー機で基本のスタンスは一貫しながらも、再生画質のニュアンス、画作りに微妙な工夫を忍ばせてきた、パイオニアのユーザーオリエンテッドな姿勢を見る思いである。

大橋伸太郎 Shintaro Ohashi
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、『ガレのガラス芸術』『日本百景』『少年少女名作絵画館』(全12 巻・日本図書館協会、全国学校図書館協議会選定図書)等、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして、Infocom Japan、9坪ハウス、富士通ゼネラル、カリモク家具販売、ルートロンアスカ、東京建築士会、インハウス平和などでの講演多数。テレビ朝日系列『トゥナイトII』などテレビ出演も多い。2006年に評論家に転身。西洋美術、クラシックからロック、ジャズにいたる音楽、近・現代文学、高校時代からの趣味であるオーディオといった多分野にわたる知識を生かした評論に、大きな期待が集まっている。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。