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連載企画「パイオニア・アナリーゼ」

パイオニアの最新システムで聴く大人のヴィンテージサウンド

文/林 正儀

懐かしさがほっとこみあげるような味わいのある音。ヴィンテージサウンドとも呼べる深みある大人の響きを持つ、シンプルなオーディオシステムを、最新機器で組みたい。

ここで聴くパイオニアの3モデルは、こういった要望にピタリとハマる製品だ。スピーカーはピュアモルトシリーズの最新バージョン「S-PM300」。セミトールボーイというユニークな寸法比だ。これを、ほぼ6年ぶりに復活したピュア2チャンネルプリメインの「A-A9」で鳴らそう。楽器をイメージしたという柔らかな曲面を持つ筐体は、これまでにない新感覚だ。もちろんプレーヤーはSACD/CD対応の「PD-D6」である。

それぞれの製品を少し紹介しておこう。

■S-PM300

S-PM300の背面部

S-PM300はウイスキーの樽材をエンクロージャーに用いたバスレフの2ウェイ3スピーカー。アラミド振動板の10cmウーファーをダブルで使い、低域方向の拡大とパワーハンドリングも高めている。上下に伸びたことで懸念されるキャビネット内の定在波も、独自のABDテクノロジーにてキャンセル。フィンガージョイントという工法で巧みにつなぎあわされたオーク材は堅牢で、木目の美しさとともに本機の魅力をひきたてる。バスレフダクトやその開口部も無垢の樽材からの削り出しだ。

■A-A9

A-A9の背面部

A-A9は英国「Air Studio」との共同で音を磨いた、定格55W+55W(8Ω)の2チャンネルアンプ。このクラスでツインモノラル構造をとるのは、理想のステレオフォニック再生を追求したためだろう。トロイダルトランスを奢った無帰還型電源やショットキーバリアダイオードや、高域特性に優れたパワー素子LAPT(76個のトランジスタを1チップ化)などの採用でハイレスポンスなサウンドをめざしたという。フォノ入力はアナログファンに嬉しいMM/MC対応だ。スピーカー端子も上級機らしく立派なもの。さらに高音質パーツやハニカムボトムシャーシなど、弟機A-A6にはないこだわりである。

■PD-D6

PD-D6の背面部

同様の思想と手法で生まれたのがPD-D6だ。ドライブメカやピックアップはパイオニア製。低ジッターのクロックジェネレーターと1チップのDSDデコーダー、バーブラウン製のツインDACを搭載しているが、マルチではなく2チャンネル専用SACDプレーヤーというのが潔い。どちらも薄型のシンプルリモコン付きだ。

■“音の立ちと薫り”が良く、味わいの深さや芳醇感に包まれる

芳醇な音に聴き入る林氏


55Wはけして大出力ではない。鳴らされるS-PM300にしても、ダブルウーファーとはいえスレンダーで小さめだ。どんな音がするものか。期待に胸を膨らませて聴きだすと……これがいい。“音の立ちと薫り”がよいのである。基本的にはもやつきがなくすっきりとクリアでヌケのよい音調。中低域の暴れを改善するABDの効果は確かなようだ。味わいの深さや芳醇感に包まれる。そうしたスピーカーの特質を引き出せるのも、PD-D6の高精度な再現性に加え、強力な電源部を持つA-A9のドライブ能力の高さによるものといえるだろう。

特に好ましいのが女性ボーカル、それにアコースティック楽器だ。ギター1本で歌う藤田恵美の「カモミール」は、飾ることのない生成りのサウンドが好印象だ。繊細で柔らな響きが心地よく、ほのぼのとした暖かみを感じた。聴きなじんだ「ジェーン・モンハイト」も、ジャズフィーリングに溢れるテンポ感とノリのよさでぐっと味わい深い。ベースは指のひっかかりや弾けが生々しく、ピアノはタッチの感触や余韻感、ボディ感がすばらしい。ドラムを含めた伴奏楽器全体が、一段と濃密さを増す感じである。ポップスはクリスティーナ・アギレラの作品をを聴いたが、これはほどよい厚みでリズムも明快。パンチの効いた濃厚な歌声がみせる多彩な表現力は本システムならではだ。三位一体のリアルサウンドである。

そしてピアニッシモのみごとな美しさ。ローレベルでのS/Nや分解能も十分なもので、40kHzまでのびたソフトドームトゥイーターは、特にSACD再生に威力を発揮する。クラシック木管アンサンブルの、ふくよかな音色感と陰影の表情を絶妙に描き出すのには泣かされる。ウイーンフィル、ベルリンフィルの首席クラリネット奏者のデュオ「クラリネッテン・ウィーン&ベルリン」はゆるぎのない音形がみごとであり、静澄で品格のあるハーモニーも感動的だ。オッテンザマー、フックスという世界最高のアンサンブルを本システムで聴く体験は、音楽ファンにとって大変貴重なものとなるだろう。

ウォーミングが進むほどに、A-A9は快調だ。持ち前のスピード感と切れ味がいっそう磨かれる印象。編成の小さいモーツァルトのピアノ協奏曲も明るく軽やかなニュアンスで楽しめるが、その一方で音量を欲張らなければ、大編成のオーケストラものもいける。ニアフィードで聴くワーグナーやブルックナーは、10センチのユニットとは思えないたっぷりとしたボトム再現に驚いた。音の構築とハーモニーの積み重ねがしっかりとした安定感のある表現には納得させられる。これもA-A9の懐深さであろう。絶対的な迫力やスケール感といった点は無理だとしても、PD-D6が引き出してくる音楽情報そのものにピュアなたたずまいと解像力があり、管弦楽の複雑なスコアや高揚感をうまく引き出す感じだ。ティンパニのアタックも崩れず、響きが豊かで遠近の位置情報も正確に再現された。

苦手であろうと思われたジャズのビックバンドやコンテンポラリー系は、タフさやエネルギッシュさが少々弱いかも知れないが、雰囲気があり「音楽」として楽しめることに変わりはない。ただしボリュームを上げ過ぎないことだ。

必ずしもオールマイティなシステムではないが、音量と聴き方の工夫で、より広いジャンルへの対応が可能。現代性と高い音楽性をもつ、魅惑のヴィンテージサウンドにぜひ触れて欲しい。

林 正儀
Masanori Hayashi

福岡県出身。工学院大学で電子工学を専攻。その後、電機メーカー勤務を経て、技術 系高校の教師というキャリアを持つ。現在、日本工学院専門学校の講師で、音響・ホー ムシアターの授業を受け持つ。自宅視聴室に3管式プロジェクターを常設し、ホームシアター研究の ための努力と投資は人一倍。フルート演奏が趣味という一面もある。

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