HOME > インタビュー > 記事

インタビュー

本人と録音エンジニアにインタビュー

藤田恵美8年ぶりの“camomile”、『colors』インタビュー。オーディオ的にもエバーグリーンな作品が誕生

岩井 喬

前のページ 1 2 3 次のページ

2018年12月31日
1997年、ミリオンヒットを記録したLe Couple「ひだまりの詩」で美しいボーカルを披露していた藤田恵美。2001年からはソロプロジェクト『camomile』シリーズを手掛けており、国内のみならず、香港や台湾をはじめとしたアジア各国へもファンが広がったのである。その澄んだ歌声は “耳で聴く薬” として浸透し、アジア圏でプラチナディスク、ゴールドディスクを獲得するなど、『camomile』シリーズの人気も世界的な波及を見せているのだ。

また2007年に登場したベストアルバム『camomile Best Audio』は、数々のオーディオ製品を設計してきた名エンジニア・金井隆氏の協力もあり、オーディオ用のリファレンス盤としても高く評価された。また、2016年にはベストアルバム第二弾『camomile Best Audio 2』も発売され、シリーズに対する根強い支持、次回作への期待が高まっていたのである。

『camomile colors』

そしてこの冬、前作から8年ぶりに『camomile』シリーズ・第5作目となるニューアルバム『camomile colors』が発売された。CD発売と同時に192kHz/24bitハイレゾ版も配信されることとなったが、『camomile』シリーズとしては初めて192kHz/24bit収録を行っていることも本作の特徴の一つ(mora配信ページ)。

藤田恵美さん(左)と阿部哲也氏(右)にお話を伺った

今回、藤田恵美ご本人と、『camomile』シリーズの録音エンジニアも務めているHD Impression LLCの阿部哲也氏に新作についてお話を伺うとともに、ハイレゾ再生を手軽にできるポータブル環境でのサウンドを確認いただき、そこから見えてくるハイレゾ音源の魅力についても語っていただいた。

『camomile』シリーズは1作目からアナログ録音を行ってきており、本作でも貴重なアナログマルチテープを用いたアナログ録音の工程を踏まえ、制作されている。前述した通り、シリーズで初めて192kHz/24bit収録を行ったこともトピックだが、具体的な録音プロセスについて、阿部氏から教えていただいた。

「『camomile』シリーズはコンセプトである “いつの間にか眠れるアルバム” という点に直結する心地よさ、癒しを生んでくれる生楽器での収録にこだわっています。今回はスタジオのアンビエンス(残響感)も生かしつつ、アナログ録音ができる環境として、以前から響きが好きな音響ハウスの2stを中心にして録音を行いました。録音用のアナログマルチテープには同時に24ch分収録できますが、76cm/sという最も音質の良いモードで録音をしている分、16分しか収録できません。以前使っていたテープは劣化していたのでどうしようかと困っていたところ、スタジオにまだ1本だけ奇跡的に保管してあった新品のマルチテープがあるというので、迷うことなくそれを使うことにしました。しかし値段を聞いたら“時価です”ということで、少し焦りましたけどね(笑)。

複数のテイクを残すためと、コーラスを重ねたりソロ楽器を加えるなどのオーバーダビング作業を想定し、アナログマルチテープで同時録音した素材を確認作業で聴いているタイミングなどを使って、ProToolsへ192kHz/24bitでダビングしておきます。その後の作業はアナログマルチテープで録音しつつ(アナログテープは上書きして何度も利用)、その音をProToolsでも同時に録音し、重ねていくという手法を使っているので、アナログ録音でありながら無限にトラック数を作り出すことができるのです。アナログレコーダーをエフェクターのように活用するという、まさに現代ならではの録音方法ですよね。

192kHz/24bit収録に踏み切ったのは、かつてのシリーズを録音しているときのPCのマシンスペックでは96kHz/24bitでの運用がベストであったのですが、10年以上経過し、PCの性能も進化したことで、192kHz/24bitでの収録に耐えうるものとなってきたからという点が大きいですね。当初は96kHz/24bitとさほど変わらないのではないか、と思っていたのですが、予想を超える違いでした(笑)。明らかに192kHz/24bitの方が音が良い。まず大きな差としてあるのは“空気感”ですね。楽器一つ一つの輪郭と奥行きがより良く表現できるようになりました」。

収録曲に関しては藤田自身が歌えるかどうかが基準ではあるが、デモで試したうえで声に合っているか、歌の世界に合っているか検討を重ねたという。デモで歌った曲は30〜40曲程度あったといい、そこから音域や雰囲気が合わないものを外していったとのこと。「Let It Be」や「Shape of My Heart」など、男声ボーカル曲についても試してみると原曲とは違ったイメージの良い部分も見えてきたそうだ。

「Colors of the Wind」では尺八、「ひだまりの詩」の英語バージョンである「Wishes」ではトランペットを用いるなど、楽曲のイメージからは想像できないような楽器を使っている点も興味深く、「Shape of My Heart」では意識して聴いていなければ、バンジョーのパートがあることには気づけないのではないか。むしろアルバムを通して一貫した穏やかな音調と融合し、驚くほど各々の楽曲と藤田の声が作り出す世界観とマッチしており、違和感を覚えるようなことは一切ない。そして藤田恵美ご本人から、制作のエピソードを交えて一発録りでの良さについて、語っていただいた。

語られたリスナーに向けての思い

前のページ 1 2 3 次のページ

関連記事