HOME > インタビュー > Ustream+twitterから生まれた「向谷実×中西圭三プロジェクト」 − インターネットが実現する新時代の音楽のかたちとは

Ustream+twitterから生まれた「向谷実×中西圭三プロジェクト」 − インターネットが実現する新時代の音楽のかたちとは

公開日 2010/07/07 16:38 取材・構成:Phile-web編集部
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE


140文字のツイートを投稿してリアルタイムにやりとりできる「twitter」を発端に、多数の有名アーティストが集まって生まれた「向谷実×中西圭三プロジェクト」。twitterで歌詞をリスナーから募集し、制作過程は「Ustream」で実況中継。CD化は行わず完成後すぐに配信を行うなど、今までの音楽ビジネスとは大きく異なる方式が採られたこのプロジェクトは、インターネット時代の音楽ビジネスがどうなっていくのかを考えさせてくれる。今回、向谷氏に「向谷実×中西圭三プロジェクト」が目指したものについて、そしてこれからの音楽の未来についてお話をうかがった。

「Twilight Stream」「21st Love Express 」は
twitterのタイムライン上のみんなと育てた感覚


−− 今回発表された「Twilight Stream」「21st Love Express 」は、リアルタイムで双方向にやりとりできるインターネットの利点を活かして生まれた作品ですね。これまでは見られなかったプロのものづくりの現場をリアルタイムで見ることができ、しかも自分たちもその場とやりとりすることができることに、とても感銘を受けました。


向谷 実氏
向谷氏:もともとUstreamを使って、みなさんから貰ったメロディを弾いたりしていたんですが、そこでの交流を通して、意外とみんな曲を作る過程やレコーディングについて興味を持ってるんだなあと分かったんです。そこで、twitterを始めた中西圭三くんに「みんなの前で曲を作らない?」と持ちかけたのが始まりでした。Ustreamでは著作権などの問題で使用できる曲に制限がありましたが、自分たちで作って自分たちで流すのはJASRACの許可も要らない。それに、作っている過程を見せれば、見ている人たちが僕らの曲を僕らの曲だと証明してくれますから、著作物の証拠も大丈夫だなと。

制作の時はスタジオのなかにiPadを置いて、twitterのタイムラインをリアルタイムで確認しながら作業していましたが、「どう?」と聞くと、タイムラインからすぐに反応が返ってくる。スタジオの中に、タイムライン上のみんなも一緒にいる感じでしたね。

−− リスナーにとっても「自分たちも制作の場に立ち会ったんだ!」という、一種の共同体意識が生まれますよね。そうやって生まれた曲は、既に完成しているタイトルを買った場合とは違う、大切な存在になると思います。

向谷氏:その気持ちは僕も凄く感じられました。「僕らが育てた」って感じましたね。

−− ただ、「ここまで詳細に見せてしまって大丈夫なのかな?」という心配もしてしまうのですが…。

向谷氏:僕はレシピを全部公開しても何も困らないんですよ。レベルの高い音楽家の「匠の世界」を見てもらって、リスナーに「音楽やってみたい!」とか「毎日聞きたい!」とか思ってもらうのが一番早いんじゃないかなと思っています。

音楽の楽しみはその瞬間の人間のグルーブを捉えること。だからtake1でOKを出したりすることもあるんですが、それをUstreamで見て驚いた人も多かった。そういうとき、作っている過程を可視化して良かったなと思いましたね。

音楽の提供ルールを自分たちで決められるという面白さ


向谷氏:それと、やってみて気付いたのは、音楽の提供方法について自分たちでルールを決められるんだ、ということ。今回は携帯電話向けサイト、iTunes、そして高音質配信サイトであるe-onkyo music。この3つを用意すれば、今のマーケットはカバーできると考えたんです。

しかし、e-onkyo musicにはDRMがかかっているという問題がありました。僕は「ウルトラ性善説」をとっている人間だから、DRMをかけることは人を信じないことだと思っているんです。商品を売るのに「あなた盗むでしょう」といって売るのは失礼でしょう? もしかしたら悪用する人もいるかも知れないけれど、圧倒的に多数派である良心的なユーザーが音楽を支えてくれるわけですから。

そこでe-onkyoさんにお願いしたところ、7月1日からDRMフリー版を公開する約束をもらうことができたんです。7月1日以前に購入したユーザーも、無料でDRMフリー版に換えられる。今回e-onkyoで配信することを決めたのは、敢えてDRMがかかっているところを選んで、それが将来的にDRMフリーになることに意義があると思ったから。オンキヨーという大きなメーカーに、そこまでの決断をしてもらえたのは我々としても嬉しかったですね。

やっぱり24bit/96kHzはすごいですよ。スタジオで聴いていた音と変わらなくて驚きました。ゾクゾクッと来ます。今回は生楽器を沢山使っているので、その効果を存分に楽しめると思います。twitterで、e-onkyo musicで配信した音源を聞いて「こんなに音が良いんだ!」というコメントを見ると「してやったり」と思いますね(笑)。

残念なのは、家庭のオーディオ環境がコンパクト化していること。高音質配信用の立派な試聴システムを作ってくれると、我々もコンテンツを作りやすくなるんですけどね。例えばデスクトップで聴くときははe-onkyo musicの音源で、持ち歩きはiTunesか携帯サイト(着うた)の音源で聞くとか、使い分けてもいいかも知れません。全部買っても700円しかかからないので。

−− 今回e-onkyo musicでは、ギターやボーカルなどパートごとにトラックを分けたアルバムも販売されるそうですが、これは購入者による「リミックス」を想定しているということですよね?

向谷氏:そうです。カラオケみたいに自分のパートだけ演奏したり、リミックスしたりして貰えればと。実は7月中旬くらいにリミックスコンテストもやりたいなと思っているんですよ。良い応募作は有料配信して、制作した人に還元したりできればと考えています。

−− こういう音楽との関わり方って、今までは考えられなかったですよね。

向谷氏:「Twilight Stream」と「21st Love Express 」。この2つの曲があるだけで、音楽の世界が変わっていくんですよ。

音楽を純粋に作って純粋に売ることで、どこまで行けるのか
− 「尊敬と配慮」で成り立つ新しいビジネスのかたち


−− これまではメディア代や輸送費などCD1枚の物理的な制作コストというものがありましたが、音楽をデータで配信する時代では、値付けは難しい問題だと思います。1曲200円から300円というなかで、どうやって利益を生んでいくことができるとお考えでしょうか?

向谷氏:200円、300円って結構いい値段ですよ。それで何万DLもして貰えれば、CDを売るよりミュージシャンへの還元率が高くできると思います。


それで、その曲をいまコンサートツアーでやろうと思っているんです。ツアーを見に来てくれる人を増やすために、Ustreamのクオリティをもっと上げて「この間Ustreamで見たスゴイの、生で見たい!」と思って貰えるようにしたい。Ustreamがいくらクオリティが上がったとしても、あの小さな画面だけで満足してしまうほど音楽はヤワな物じゃない。いろんな相乗効果が期待できると思うんですよ。

−− 今後またtwitterやUstreamを活用した楽曲制作を考えていらっしゃるのでしょうか?

向谷氏:もちろん考えています。今度やるとしたら、また誰かすごく有名なアーティストさんが手を挙げてくれれば良いですよね。事務所の問題などで難しいかも知れないですが…。そのときは、レコード会社といいかたちでやれれば良いなと思っています。配信に消極的なレコード会社はまだまだ多いですから。

通常のビジネススキームではレコード会社や出版社、プロダクションがあって、制作側のリクープが大きいので実演家印税と著作権だけではペイできないんです。でもその部分を演奏家がやれば、利益が生まれる。

今まではレコード会社や出版社、プロダクションにすごく頭を下げなきゃいけなかったと思うんです。それを否定はしないけど、「これ、どうなのかな?」とは思っていたので、今回みたいに自分たちでやれるだけやってみようということになったんです。僕は、どこからも「上から目線」されたくない。リスナーと我々、放送局、メディア − みんな同じレベルでコミュニケーションしたいんです。それが予想以上に上手くいってるんですよ。いま皆さんが固唾を飲んで見守っているのは、このプロジェクトがペイできるかということでしょう。まだリクープするには時間がかかるけれど、目処は立っています。

僕らはこの2曲で紅白歌合戦に出たいねって言ってるんですよ。それがひとつの大きな風穴になると思うんです。音楽を純粋に作って純粋に売ることで、どこまで行けるのか。地味にでも良いから売れ続けて、実績を作って行きたいですね。それには支えてくれる皆さんの力が必要です。アーティストもレコード会社もリスナーも、お互い「尊敬と配慮」を持って作品を生み出していければと考えています。

向谷実×中西圭三プロジェクト
Ustream+ツイッターのつながりのなかで始まった向谷実と中西圭三のコラボプロジェクトに、Ustream中継中に投稿された作詞が加わって完成した楽曲です。この作品は生まれたところからレコーディング、ミックスダウンまですべてを公開して行いました。
■Twilight Stream
■21st Love Express
<各演奏者ごとにトラック分けしたアルバム>
■Twilight Stream -Remix Parts-
■21st Love Express -Remix Parts-

【レコーディング・メンバー】向谷実(キーボード)中西圭三(ボーカル)神保彰(ドラムス)鳴瀬喜博(ベース)斉藤英夫(ギター)宮崎隆睦(サックス)坂本美雨、DJ TARO、サッシャ、鈴木睦美ストリングス<ヴァイオリン1>鈴木睦美、外村京子、上保朋子、矢部紀美子、兵頭亜由子、嶋村由美子<ヴァイオリン2>山中裕平、上村希子、納富彩歌、浅井眞理<ビオラ>榎戸崇浩、高須昌緒<チェロ>小原茂、高橋美保<ハープ>井上麗<指揮・アレンジ>倉田信雄<Manipulator>堀内靖<Recoding Engineer>佐藤宏章<Assistant Engineer>渡辺久之[レコーディングスタジオ]ランドマークスタジオ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE