川上 晃義

製造効率を高めて強靭に、開発体制も一層強化
海外販売比率は3、4年後を目処に5割まで拡大
ラックスマン株式会社
代表取締役社長
川上 晃義
Teruyoshi Kawakami

新規層の掘り起こしをはじめ、市場創造へ向けた数々の課題に立ち向かうハイエンドオーディオ市場。その牽引役として一層の活躍を期待されるのが、90年余の歴史を誇る国内ブランドの雄「ラックスマン」。1月に新しく社長として就任された川上晃義氏に、新体制や今後の成長戦略について話を聞く。
インタビュアー/樫出浩雅 音元出版副社長  写真/君嶋寛慶

音楽好きを唸らせる
商品をつくり続ける

── 1月、ラックスマンの代表取締役社長としてご就任されました。まず、プロフィールをお聞かせください。

川上大学を出て、就職したのは松下電器産業です。松下通信工業に出向して、業務用・産業用の音響機器を扱う部署に配属され、最初に担当したのがカラオケの宣伝でした。ちょうどカラオケがブームになり始めた時期です。プロ用機器の新ブランド「RAMSA(ラムサ)」の立ち上げにも携わり、その販売に従事しました。その後、本来の希望だった営業の担当となり、中国やサウジアラビア、欧州、米国など15年余りにわたって海外への赴任を経験しました。南米以外はほとんど行ったのではないかと思います。欧州では楽器店ルート向けに小さなスピーカーや壁に掛けるスピーカーを企画したり、米国では52チャンネルの大きなオーディオミキサーやDATを企画したり、チャネル開拓や新商品の市場導入に携わりました。

その後、フィナンシャルプランナーの資格を取得して入社したソニー生命保険を経て、松下電器で米国に赴任していた際に、コンサルタントとして一緒に働いていた知人の紹介で、IAG(インターナショナル・オーディオ・グループ)のマネージングディレクターに就任しました。IAGは中国にある英国のオーディオブランドを主体に扱う会社で、民生用も業務用も手掛けています。当初は英語が話せる日本人の海外営業マンを紹介してほしいという話だったのですが、実際に中国に行ってIAGのものづくりの現場を見ると、これは俄然面白そうだなと、人を探して紹介するのではなく、是非自分でやってみたいと、入社するに至りました。

海外営業として7年いました。その後、日本に戻り、IAGをはじめとする音響機器を扱うコンサルタント会社を自ら立ち上げましたが、しばらくしてIAGから、ラックスマンの海外営業を強化したいので戻ってきてくれないかと話をいただき、IAGに戻ったのが今から1年半前。ラックスマンの海外営業を担当していましたが、この1月に、ラックスマンの社長として就任しました。

── 海外市場にも精通されていらっしゃるわけですが、改めて日本のラックスマンという会社の社長にご就任にされ、どのような抱負をお持ちなのか、お聞かせください。

川上海外営業をやっていて、ドイツ、英国、米国など行く先々には必ず、昔からのラックスマン・ファンがいらっしゃって、ラックスマンというブランドがいかに素晴らしいブランドなのかを改めて認識させられました。販売店様は「ラックスマンが戻ってきたのか!」と大歓迎してくれます。お蔭さまで海外での販売もここまで順調に伸長しています。 さきほどもお話ししたように、ミキサーをつくったり、DATを手掛けてみたりといろいろな商品をつくることが好きなものですから、ラックスマンでも国内・海外を問わず、音楽を好きな人が「これが欲しかったんだよ」と言っていただけるような商品をつくっていきたい。

今は若い人は特に、ただ音楽が流れていればいい、そういう風潮があります。しかし、ラックスマンがお届けしている商品は「この音では満足できない」「もっといい音にならないか」という声にお応えするもの。昔は例えばクルマでも、キャブレターを磨けばもっとスピードが出るとか、自分でつくりあげる工夫や楽しさがありました。音楽でも自分でつくりあげていく音の世界があります。音楽をもっとよく聴きたいという方にご満足いただける商品を提供できる会社であり続けたいですし、また、そうした商品を望む方をもっと増やしていかなければと思います。

── オーディオは好きな音楽をいかにいい音で聴いて感動を深められるかですが、川上社長ご自身はどんな音楽がお好きなのですか。

川上ビートルズが流行り出したのが高校生の頃ですが、私はローリングストーンズが好きでした。ジェームス・ブラウンやジャズも聴いていましたし、大学時代には少し落ち着いてきてフュージョンなども聴きました。ところが何がきっかけになったのか、その後、ディープ・パープルなどハードロックにハマりました。今は仕事柄、クラシックもよく聴きますね。

川上 晃義
今年後半には設計の人員を増加。
チャレンジブルな商品を含め
市場を大いに盛り上げて参ります。

将来を見据えた
若い人の視点を大切に

── 現在のオーディオマーケットをどのようにご覧になられていますか。

川上現在のラックスマンのお客様は60代が中心です。その方たちも70歳が近くなると、こんなところでお金を使っていていいものかと購買行動が慎重になってきます。マーケットも自ずと縮小は避けられないでしょう。このことは日本に限らず、ドイツ、英国、米国などでも同様で、業界関係者は皆、頭を悩ませています。ハイエンドオーディオのお店に足を運ぶのも年配客ばかりで、若い人はほとんど見かけることができません。オーディオ人口の縮小傾向を背景に、各メーカーでは高額品にシフトする動きも見受けられます。

また、日本では堅調なCDプレーヤーですが、海外市場では鈍化が顕著になっています。音源をデータから楽しむ人も増えていますが、日本以上に勢いを感じるのはレコードです。先日も米国のニュージャージー空港に降りると、空港内にレコード店があり驚かされました。扱っているのは新譜で、お店の方から「昔のものより音がいいよ」と薦められました。

── 現在のレコードのブームは、往年のオーディオファンだけでなく、20代・30代の若い人からも関心を集めているのが特徴です。オーディオ業界では若い新規層の開拓が課題のひとつですが、この点についてはどのような方策があるでしょう。

川上ラックスマンでは、ターンテーブルを出したり、USB DACを出したり、積極的な商品展開を行っています。若い人に対して、それでは、ブルートゥースに対応した商品を提供すればいいのかというと、そんな単純な話ではありません。クルマにも乗らなくなり、カーオーディオを楽しむシーンも減ってしまいました。

ラックスマンは2年前に創業90周年を迎え、8年後には100周年になります。そこへ向けた中期計画も策定中ですが、今の延長線上で考えていると、その時にはお客様が限りなく少なくなってしまう危険性も否定できません。また、お客様だけではなく、社内の高齢化も進んでいます。そこでひとつのアイデアとして、サッカー代表にU20、U18といったクラスがありますが、当社でも比較的若い社員を対象にした「U40」プロジェクトを立ち上げました。商品や会社の仕組み、自分たちの夢をざっくばらんに語ってもらい、それを中期計画に入れ込むことで、その人たち自身が責任を持ち、目標に向かって頑張れる仕組みをつくりあげようと考えています。

先日、1回目の会議を行ったのですが、面白いアイデアや意見がたくさん出されました。年配のご両親が音楽を聴くためにオーディオ機器に電源を入れると、離れて暮らしているご子息に自動で知らせがいく見守りサービスなど、従来とは着眼点が明らかに違うのです。楽器を演奏するのでラックスマンでもギターアンプを作ったらいい、ピアノを弾くので録音できる機器が欲しいなど、音に対するかかわり方が、部屋にこもって音楽を聴いているだけではなくて、自らが積極的にオーディオ商品を使って何か自己実現しようというものです。

── ラックスマンがこれからどのような進化していくのか。市場にどのような刺激を与えるのか。大変興味深い取り組みですね。社内体制についてはどのような点が強化ポイントとなりますか。

川上まずは製造面のさらなる効率化です。コスト削減はもちろん大事なテーマですが、材料を変え、肝心の音に影響が出てしまっては意味がありません。また、価格が安くなるだけではなく、スピードアップや確実性のアップという寄与の仕方もあります。体制面からは、土井前社長(現・相談役)に製品部本部長を担当いただき、これまでのノウハウをフルに発揮してさらに磨きをかけていきます。後半からは、設計の人員をもう少し増やしていく計画です。チャレンジブルな商品を含めた新商品の投入で、市場を大いに盛り上げて参ります。

川上 晃義

海外展開を強化
米国に販売会社設立

── 国内のハイエンドオーディオメーカーでは、海外展開を強化されています。川上社長ご自身、前職ではラックスマンの海外営業をご担当されていらっしゃいましたが、今後の目標等は設定されていますか。

川上 ラックスマンから直接海外へ向けた製品の販売比率は十数パーセントになりますが、IAGに販売を委託しているものがあり、そちらも加えると約3割になります。売上構成比における海外比率はさらに高めていく方針で、3〜4年後を目処に、50%をひとつの目標としています。

今、伸びているのは中国と香港。昨年も一番の伸びを示しました。次いで欧州。対前年比で約120%の伸びを見せています。そして、今年、メインに位置付けるのが米国市場です。販売力の強化へ、米国のハイエンドオーディオは東の方が強い地域特性を考慮して、ニューヨーク州東部にあるサラトガスプリングスに自社で販売会社を設立しました。ここを拠点に半径約500qで全米の約2割をカバーすることができます。

── ショールーム等の展開はいかがですか。

川上マンハッタンに大変いい販売店様がみつかりましたので、そこの一角を使ってショールームにしたいと思っています。今年は海外で開催されるショウやイベントにも積極的に出展します。ドイツのミュンヘンで開催されるハイエンドオーディオのイベント「ミュンヘン・ハイエンドショウ」にも今年はラックスマンとして初めてブースを構えます。

── 一方、先ほど若年層の掘り起こしへ向けた施策などをお伺いしましたが、国内の流通政策についてのお考えをお聞かせください。

川上やはり中心となるのは、お客様を招いてのデモンストレーションです。販売店様と一緒になって、全国各地で地道に継続的に行っていくことが一番大切なことだと思っています。海外展開は課題として重点的に取り組んで参りますが、もっとも重要な国内市場の需要喚起へさらに力を入れていきます。

── 社長としてはどのような信条を持っていらっしゃいますか。

川上「起業家精神」ですね。昔から大きな会社で働いてはいましたが、あまりあわなかったというか(笑)。とにかく自分で作り、アイデアを出し、工夫して取り組んできました。この精神は変わらず持ち続けていきたいと思います。

── それでは最後に、販売店の皆さんへメッセージをお願いします。

川上時代をちょっとだけ先取りしたようなラックスマンらしい質の高い商品をどんどん開発して参ります。販売店様におかれましても是非、積極的にお取扱いいただき、これまで同様、一丸となって力強く市場創造へ邁進していきたいと考えております。どうぞ宜しくお願い致します。

── ラックスマンは、90余年の歴史を刻む世界でも稀有な老舗ブランドです。継続し、発展させていくには非常にご苦労もおありかと思います。しかし、これまでずっと音楽や音響に携わられてきた経験を糧にされたいろいろなアイデアで、新しいラックスマンを創造されていかれるのではないかと感じました。世界に名だたる日本のブランドとして、一層のご活躍を期待しております。

◆PROFILE◆

川上 晃義氏 Teruyoshi Kawakami
1951年12月17日生まれ。鳥取県米子市出身。松下電器産業(株)入社後、松下通信工業(株)へ出向し、プロ用機器ラムサの立ち上げ、販売に従事。中国・欧州・米国など15年余にわたり海外各地に赴任。1996年 ソニー生命保険(株)、2001年 IAG(インターナショナル・オーディオ・グループ、現ラックスマン親会社)の社長に就任、20007年に退社し日本に帰国、音響機器のコンサルタントタント会社を経営。2014年に輸入商社社長を経て、IAGに復職。2017年1月 ラックスマン(株)代表取締役社長に就任。

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