校條 亮治氏

オーディオの市場創造を最大の目的とし
協会のすべての活動をここに集約する
一般社団法人日本オーディオ協会
会長
校條 亮治 氏
Ryoji Menjo

最大のイベントである“音展”に大胆な変革を行う新たな展開を発表した日本オーディオ協会。足踏み状態にある市況を打破し、国内オーディオ産業の活性化を図るために、さらなる活発な活動を推進していく構え。注目される取り組みを、校條会長が語る。

産業政策としてのオーディオは
技術の進化も受け止めながら
変わる必要がある

大改革の音展で
新たな展開にチャレンジ

── 新たな年度を迎えるにあたって、オーディオ協会の全体的なお取り組みについてお聞きしたいと思います。まずオーディオ&ホームシアター展(音展)では、大きな改革が発表されました。

校條市場の状況を見るとここ数年間特に大型高額商品の動きが鈍く、ハイファイオーディオのカテゴリーが停滞しています。協会ではハイファイに代わる産業政策として「ハイレゾ」を提唱し、普及推進の活動を2年間続けてきました。しかし現実には、市場の変化になかなか追いつけていない。オーディオ市場の潮目の変化を非常に強く感じます。要因は年齢動態変化によるものか、国内経済の低調によるものか、あるいはメーカーを含む私達のマーケティングができていなかったからか。

市場のコア層である団塊の世代が、これから健康寿命を超えてきます。一方で平成27年からの10年では15歳〜64歳の生産年齢層が大きく減ると見られ、国内経済にも大きな影響を及ぼします。そしてマーケティング策は関連各社独自の動きで完結し、業界挙げての取り組みにはなっていないのが現状です。

その結果、ハイレゾに関しては理解や普及が進んでおらず、どうやって聴けばいいものか、また音楽にどう影響するのかということがわかりづらい、一般の消費者にとってつかみ所のない存在になってしまっています。そしてオーディオ市場での世代間継承もできず、若年層や女性層など新しい層の取り込みができていない。

ではどうするべきか。協会の来期の活動はその方向性を示すものとなります。最大の目的は市場創造であり、ここにすべての活動を集約します。その最たるものが既に発表したとおり、我々の最大の情報発信の場であるイベントの音展を変えることです。昨年までの3年間お台場を会場としましたが、アクセス面とアピール性を向上させるべく有楽町の国際フォーラムを新たな会場として、2017年5月の新たな開催を決定しました。あえて5月開催というのは、「オーディオは秋」と言われますが、オーディオの春市場を創り出したいとも考えました。

そこでの展示はこれまでのあり方とは一線を画し、ユーザー目線での踏み込んだ展開を考えます。音楽を聴くことに対して、お客様が自らのリスニングスタイルを見つけられるような。オーディオの体験という以前に音楽を聴く事を目的に、音楽に興味のある方に来ていただけるものとします。家の中で、電車の中で、車の中で、歩きながら、いろいろな音楽の聴き方がありますが、どんな時にどんな聴き方をしたいか、それを見つけに来ていただきたいのです。

これまでと変わって、リビング空間、ベッドサイド、オンデスク、ウォーキングやジョギングの最中等々と「様々な生活シーンを想定した聴き方をお見せできれば」と考えています。一方で、マニアの方々に向けた再生を極めた試聴室も当然あり、すなわち、聴き方の選択肢をたくさん用意するということです。

まずはお客様が何を望んでいるのかを知ること、特に深く洞察することが重要です。お客様さえ気がつかないことを見つけ出すことです。それに伴い、できることを提案し、体験していただくためのお手伝いをする。メーカー一社ではできないことでも力を合わせて実現させる。今までのさまざまなオーディオの展示会とは、ちょっと違った趣向になると思います。

今年秋に秋葉原で開催
音のサロン&カンファレンス

校條 亮治氏── オーディオをよく知らない方にも来場しやすくということですね。

校條これまでの展示会はオーディオに興味がない、オーディオがわからない人には来場しにくいものだったと思いますが、我々が訴求できていなかったこういう方々に門戸を広げたい。これまでのやり方を大きく変え、果たしてどんな結果になるかは正直わかりませんが、我々が手を打ててなかったことに対する、ひとつのチャレンジです。何もしなければ何も変わりません。やるしかないという気持ちで取り組んでいきます。

ただそうは言っても、核のターゲットに対して発信する考えのメーカーさんもいらっしゃいます。そういうメーカーさんに参加していただきやすい展示会は、今年の秋に秋葉原で行います。これはマニアの方や、音楽好きでオーディオにも興味を持つ方向けのもの。事前登録していただき、少人数での参加型イベントと致します。従来型の「音のサロン」として、ここでしか聴けないコンテンツや機材を集めたマニアックなブースや、「音のサロン」実験工房として、セミナーや試聴会などを行うライトブースの展開を考えております。

この催しのもう1つの柱はカンファレンスです。こちらは、業界関係者向けでもあります。協会では委員会を設けて、技術的な視点での啓発や、マーケティング的な議論なども行っていますが、すべての会員にこの活動が行き渡ってはいません。そうした方々への情報提供の意味でも、メーカーさんの技術担当、商品企画担当、マーケッター、営業責任者、あるいは流通の方など業界関係者に集まっていただいて、セミナーやシンポジウムを開く。こうしたことも、今後の展開次第で拡がりを見せると思います。

販売店イベントと連携し
取り組みを全国で推進

── 体験の場づくりという意味では、また別のお考えもありますね。

校條全国には各地の販売店さんが主催し開催されているイベントがさまざまにありますが、これらと協会とが連携することを考えています。市場創造を掲げても、東京だけの活動では不十分。協会ではこれまで公益団体として販売店一社さんのイベントに関与することはほとんどありませんでしたが、そろそろ脱皮してはどうかと。

一つの販売店さんの取り組みであっても、その地に根ざした活動として後援の名義を出すとか、我々自身の手でセミナーを行うとか、ご支援をさせていただき、顧客創造の取り組みを全国挙げて展開したい。主催する販売店さんには順次話をさせていただいておりますが、総会で確認し、秋以降の活動になっていくかと思います。しっかりとマーケティングし、各地のお客様にとって有益かつエリアを活性化する活動を全国に広げていきたい思いです。

市場を支えるコアな年配層のユーザーは、年を追うごとに減っていきます。10年後の市場を考えると、このままではいけないというのは業界挙げて共通した思いがありますが、こうした取り組みは新たな世代のユーザーを誘導していくための方策で、しっかり注力していきます。

校條 亮治氏転機にある市場で
変化に対応していく

── イベント以外のお取り組みはいかがですか。

校條協会で定義するハイレゾについてご存じのとおりロゴマークを設けていますが、ロゴの使用を求めてさまざまな企業が新規会員に名乗りを挙げています。IT関連のメーカーさんも数多く、これまでのオーディオ業界の価値観とはまた違ったものの見方がおおいに刺激になっていますし、協会の空気も変わろうとしています。いい音を求める、というオーディオ協会のポリシーは一貫して変わりませんが、その手段はさまざまで、それぞれ推進して参ります。

そこで協会の組織や委員会も見直しました。市場の変化に合わせて活動や名称をわかりやすく、新たな会員の方々にも会議に参加していただきやすくしたということです。特別会議として設ける、ハイレゾ推進会議とマーケティング会議。ハイレゾ推進会議では、ハイレゾオーディオとは何かという議論を進めてある程度合意を得るところまで来ています。たとえばアンプを内蔵したヴァイオリンがあって、USB対応で96kHz/24bitも再生したり、ミキシングしたりできるとしたら、それもハイレゾ機器ではないか、などということまで想定して議論したわけです。

そういう観点はマニアの方から見ればとんでもないことでしょうが、最終的にはユーザーが判断します。我々はいい音を追求するという本質をはずさず、しかし新たなものを取り入れて進化していかなくてはなりません。そうでなければ市場は衰退する一方で、いい音で音楽を聴くこと自体困難になるでしょう。

マーケティング会議は、AVマーケティング研究会を兼務します。数年にわたって困難な状況が続く国内のAVアンプの市場に対し、何とかしなくてはという思いです。ホームシアターの概念そのものを、一度リセットして認識し直すべき時です。ユーザーニーズはどこにあるのか、マーケティングは、またチャネル戦略をどうするかを追求していきたい。とにかく本気になり、汗をかいていくしかありません。国内でAVアンプを手がける4ブランドのマーケティング責任者に出ていただいて、研究会を進めたいと思います。特にAVアンプは、ブレイクスルーできる最後のチャンスと認識しています。

委員会の活動では、JASジャーナル編集委員会で、会員向けに発行する「JASジャーナル」をオープンにしていきたいと思います。ハイレゾとはこういうものだということが、一般の人の目にも触れるようになります。音の日委員会では、「音の匠」の検証に広範囲な方々を審議委員に入れる、また「学生による録音コンテスト」の活性のために学校で夏休みの宿題に取り入れていただく活動をするなど積極的な落とし込みをする。「音の日」のパーティも一般の会員にも参加していただける工夫を凝らす。

JEITA標準化委員会でのヘッドホン測定法が決まりましたので、協会はこれから、ヘッドホン委員会を再編して強化します。ヘッドホンでのハイレゾ定義とともに、頭内定位の考え方を決めていきたいと思っています。また、協会ホームページ上にヘッドホンの情報を今後制作する予定です。ネットワークオーディオ委員会では、ネットワークオーディオやハイレゾをどうやって聴くか、どう楽しめるかということをケース毎に示す必要があると思います。要望なども整理して、課題を解決しながら取り組んでいきます。カーオーディオ専門委員会では、カーステレオのハイレゾ化に向けて検討を進めています。自動車メーカーさんとの打合せを経て、検討内容も公開し、ご承認をいただいた世界初のハイレゾカーオーディオを搭載した車が今後出来上がってくるでしょう。そして良い音委員会では、「良い音とは何か」という疑問点についての回答を出そうとしています。技術的なあり方や、商品に対する考え方の基本をつくろうと。次の総会には定義を発表できる見込みです。

── 盛りだくさんの取り組みとなりますね。

校條市場創造に全力をあげます。そのために、技術の進化で変わるものも積極的に受け入れていく必要があります。新しいものが出てくる時は必ず抵抗があり、新しい技術や製品に対して否定はつきものですが、進化を認識してきちんと受け止めなくてはなりません。高音質を追求して一切の妥協をしないというのは趣味の世界ではあって良いと思います。それも未来永劫変わらずに存在しますが、産業政策としてのオーディオは、より進化を求めて変わる必要があると思います。2020年には東京オリンピックも控え、そこに対しての市場づくりも考えるべきだと思っています。オーディオの業界全体も、オーディオ協会そのものも、転機、過渡期にあると認識します。本質を見据えて変化していくために、さまざまな手だてを打っていく。そういう取り組みの数々を、覚悟をもって進めていこうと思っています。

◆PROFILE◆

校條 亮治氏 Ryoji Menjo
1947年11月22日生まれ。岐阜県出身。1966年 パイオニア(株)入社後、パイオニア労働組合中央執行委員長。パイオニア(株)CS経営推進室長を経て04年6月 パイオニア(株)執行役員CS経営推進室室長に。05年7月 パイオニアマーケティング(株)代表取締役社長に就任。2007年(社)日本オーディオ協会副会長を経て、2008年6月11日 現職に就任。2011年4月1日 日本オーディオ協会は一般社団法人となり現在に至る。

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