| S/Nの高さについては先に触れた。これを基礎として、本機の音は大変清々しい。レンジが広く、透明度に優れて軽快だ。濁りがない。例えば古楽器によるバロックにしても、古楽器特有の繊細な感触やどことなく不安定な揺らぎが気持よく聴こえてくる。音の細かな部分にノイズの絡んだ感じがまるでなくなるのだ。背景もぐっと静寂である。また音量が上がったときでも歪っぽさがない。いつでもすっきりと伸びきった感覚がある。声楽ではさらに静寂感が生きている。ソプラノの匂い立つような弱音、朗々と声を張った高音、鮮明な伴奏ピアノのタッチ。それらを軽々と再現して崩れることがない。USB接続という機構上の優位性に加えて、ヘッドフォン自体の高度な再現力に負うところも少なくないは |
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ずだ。何より声に濁りがなく、金属的な歪みを出さないことが大きい。このところ愛聴しているボーイソプラノのコーラスは、頭の芯を突き抜けるような高音が実に心地よい。下手をすれば甲高くてうるさいだけの音が、逆にオーディオ的な快感になっている。ハーモニーの夢幻的な感触も柔らかく繊細だ。
オーケストラではどうかと思ったが、その強音でも濁らないのに感心させられる。楽器の分離がよく、レンジも十分に取れ、重量感はあっても重苦しさはない。分解能の高さを感じる。
ただのパソコンがオーディオ機器に変身する。その意味で画期的なヘッドフォンである。クオリティの点で並のポータブル・プレーヤー以上のものが得られるといって差し支えない。 |