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スピーカーが消えて音だけがそこにある

ECLIPSEでアトモス体験 − タイムドメインとオブジェクトオーディオはなぜ相性が良いのか?

公開日 2015/12/28 10:03 ファイル・ウェブ編集部
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正確な波形再現を追求するECLIPSEのスピーカーシステムは、多数のスピーカーシステムで立体音場を展開するオブジェクトオーディオと、過渡応答や位相再現の点からも非常に親和性が高いのではないか。11月に開催された「オーディオセッション in OSAKA」におけるECLIPSEのドルビーアトモス・デモを聴いた記者は、その想像が間違っていないことを実感した。

グラウンド5chにはTD510ZMK2が5本配置され、サブウーファーにはTD520SWを2基用意された

「TD510ZMK2」+「TD508MK3」による5.1.4システムを展開

11月初旬に大阪・南船場で開催された「オーディオセッション in OSAKA」。ピュアオーディオからホームシアターまで出展各社が最新製品を披露した本イベントにおいて、“ハイレゾ”や“アナログレコード”と共にホットなトピックとなっていたのが「ドルビーアトモス」だ。そして各社ブースの中でも注目を集めたのが、富士通テンによるECLIPSEスピーカーを用いたドルビーアトモスのデモンストレーションだった。

ECLIPSEのスピーカーは、これまで一貫して「音楽波形をいかに正確に再現するか」を追求してきた。それは「時間軸領域における正確性を徹底的に追求すること」とも言い換えることができるだろう。富士通テンは同社ブースにおいて“オールECLIPSEスピーカー”のドルビーアトモスシステムを構築し、優れた過渡特性や正確な位相再現を追求したスピーカーだからこそ可能な立体音場再現をアピールしていた。

会場に用意されたドルビーアトモスシステムは、グラウンドレベルは「TD510ZMK2」を5本、そしてサブウーファーに「TD520SW」を2基を用意。そしてトップスピーカーには、フロント/リアに合計4基の「TD508MK3」を設置した。5.2.4のドルビーアトモスシステムである。

天井に設置されたTD508MK3

イベント冒頭では同社担当者がECLIPSEの思想について改めて説明。「ECLIPSEのスピーカーは来年で15年周年を迎えますが、音楽波形をいかに正確に再現するかという1点にこだわってきました。インパルスレスポンスの正確再現ができるからこそ味わえる素晴らしい世界を体感して欲しい」と述べた。

デモンストレーションではまず、ロサンゼルス・パーカッション・カルテットによるBDオーディオが再生された。本作は192kHz/24bit・5.1chによって4人のパーカッションの演奏が収録されている。鋭い音の立ち上がりに加えて、立ち下がりももたつきなく正確に再現されるのは、ECLIPSEがフルレンジスピーカーという信念を貫いてきた結果だ。仮にマルチウェイではユニット間のスピードを揃えることは困難で、音が遅い印象になる。クロスオーバーの存在も正確なタイミングの一致を妨げてしまう。「時間領域の正確性を徹底追求すると、このような音が聴けるのです」と同社はコメントしていた。

またECLIPSEスピーカーの形状の特徴についても紹介。音波は波面のように広がっていくのだが、ECLIPSEは卵形のエンクロージャーを採用することで解折や反射を廃したため、音がきれいに広がっていく。トランジェントの良さもこうした点が理由であり、ドルビーアトモスのような立体音響再現においても有利になるはずだ。

スピーカーが消えて音楽だけがそこにある

ドルビーアトモス再生では、まず最初にドルビーのデモソフトに収録された『リーフ』が再生された。木々の葉の擦れる音や虫の声が木々の向こうから聞こえ、本来の部屋よりずっと広い音場が展開する。文字通りスピーカーの存在が消えて、広大な森林の中に実際に立っているかのような臨場感がある。「グラウンドレベルのスピーカーだけでは、こうした立体感はまず味わえません。その場にいるような臨場感が得られるのはアトモスならではの魅力です」(同社担当者)。

オールECLIPSEのアトモス再生では“スピーカーが消える”感覚を体験することができた

次に再生されたのはアトモス収録BD『マッドマックス/怒りのデスロード』の冒頭シーン。ハイテンションなオープニングシークエンスにおける疾走するバギー、囚われの身からの逃走など、音の移動感や音場の一体感に圧倒される。白眉は主人公の脳内で反芻される「内なる声」の再現で、アトモスによってまさに四方八方から響いてくる。こうした心象描写ができるのはアトモスならではだ。

イギリスBBCが製作したBD『ネイチャー』もアトモス収録のソフト。再生されたのは、川を横断しよう岸辺に群れる水牛をワニが襲うという、ちょっとショッキングなシーンなのだが、水面から浮かび上がるワニのわずかな動きによって起こる小さな水音までが聴き取れる。ポストプロダクションで処理された音響ではあるのだが、大自然の営みを間近で見るような気分を味わえるのは、ECLIPSEがアトモスの再現性を十分に発揮させている結果だろう。

ドルビーアトモス収録BDの再生に続いて、通常BDの「ドルビーサラウンド」機能によるアップミックス再生のデモも行われた。ソフトはBD『ラブ&マーシー』。車のボンネットにもたれたブライアン・ウィルソンが頭に思い浮かんだ音楽に聞き入るというシーンなのだが、アップミックスとは思えないほど音楽が立体的に飛び交い、まさに“脳内に音楽が渦巻いている”よう。同社担当は「これまでポストプロダクション系のサラウンド再生は今一歩のものが多かったのですが、ドルビーサラウンドでは実際にドルビーアトモスでミキシングされているかのようなサウンドを味わえます」と述べていた。

視聴会ではECLIPSEのサブウーファーの利点も改めて紹介された。ECLIPSEのサブウーファーは2基のドライバーをシャフトで結合して同位相駆動されるため、キャビネットが振動せず、ユニットの駆動によって生み出される音波のみが正確に再現される。ホームシアターの重要な要素を担う重低音を正確に再生することで、リアルなサラウンド再現が可能となるとアピールされていた。また「キャビネットが振動しないことは、正確な再現はもちろん、床に振動が伝わらないためマンションでも近接階へ迷惑をかけずに使える」とも紹介されていた。

トップスピーカーは天井に取り付けるのは大変だが、ドルビーアトモスの立体的なサラウンドにはそのハードルを超える価値があることを、今回のデモで再認識した。同社はアトモスシステム構築のコツとして「立体的な音場を楽しむためには、トップスピーカーは1組2本ではなく、2組4本を用意してほしい。同じスピーカーを使って、高さを揃えることもポイントです」と述べていた。

最後に2LレーベルによるBDオーディオ「BAGNIFICAT」が再生された。ノルウェイの教会で収録されたコーラスの5.1ch音源なのだが、アップミックス再生ながら、美しいコーラスが会場の天井を超えて高く響きわたる。スピーカーが消えて音楽だけがそこにあるというのはひとつの理想だが、ECLIPSEがその理想を実現する大きな可能性を持つスピーカーであることを改めて実感させられた。

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