新製品批評

『2001年宇宙の旅』の映像を42V型と比較

 私の目の前には、2台のプラズマパネルが並んでいる。正面右手には、50V型があり、左手には42V型のディスプレーがあった。両方のパネルには、同じ映像が写し出されている。スタンリーキューブリックの『2001年宇宙の旅』の一シーン、初めて武器(動物の骨)を手にして、敵対する相手を追い払った人猿のボスが、骨を誇らしげに投げ上げると、空中に飛んだ骨は、瞬間的に人工衛星の映像に変わる。人工衛生は、人猿から進化した人間が、宇宙探査ために手にした武器である。一瞬にして数万年を飛躍するオーパーラップの快感を味わいつつ、私の視線は自然に50V型パネルの映像に向かっていた。
 理由は二つある。先ず、画面のサイズ。50型と42型の差は、対角線の長さでは8インチ(約20センチ)だが、有効画面の面積比では、実に40%以上も大きくなっているのだ。『2001年〜』のように、広大な宇宙空間を描いた映画では、画面は出来るだけ大きい方がいい。
大きいほど迫力があるという単純な理由だけでなく、それがもたらす心理的、生理的な影響について言っているのだ。
 私はこの映画を、最初の公開時、テアトル東京で見た。木星探査船、ディスカバリー号が静かに宇宙空間を進行していく様を見て、私は涙を抑えられなかった。宇宙空間の漆黒の闇に耐えがたい孤独と畏敬を感じたのかも知れない。また、キューブリックの造形の凄さに感動していたのかも知れない。球形のポッドから長い尾を引いたようなディスカバリー号の姿は、動物の骨のようにも見えるではないか。人猿が投げあげた骨が、サブリミナル効果のように、一瞬、私の脳内に浮かんだ。また、この姿は人間の精子を模したようでもある。宇宙を漂う精子。その行く先を考えると、思わず背筋に刺激が走った…。その日、再びこの映像を見た私の目は、人知れずうるんでいた。これは、自然に反応した涙だ。こうした生理的、心理的な反応を惹起した映像を、私の目は自然に選択していたのだろう。
 
「PDS5003J-H」の映像を見つめる筆者。本文中に登場する「2001年宇宙の旅」のほか、数本のDVDをじっくりと視聴した。

画面サイズだけでなく正確な色表現も好ましい

 今、冷静に考えると、このパネルが私の視線を誘ったもう一つの原因は、色の表現であったようだ。宇宙衛星に至るまでの映像は、人猿が生息するサバンナの映像であった。そこでは、薄い中間色が全体を支配している。その色あいが、私の目には好ましく映ったのだと思う。2台のディスプレーは、同じモード《ファイン》を起点に、画質調整を行っても、決して同じ色は得られなかった。いままで、様々なプサズマディスプレーに接してきた経験から判断すると、パネルに搭載されているカラーフィルターの違いだと思ったが、その日は聞きそびれてしまった。  後日、この原稿を書くに当たって、富士通ゼネラルに質問したところ、PDS5003J−Hのフィルターは、従来機のものとは違うことが判った。富士通ゼネラルは、フィルターメーカーと共同して、新しいパネルのために、新規にカラーフィルターを開発していたのだ。開発のポイントはいくつかあった。まず、外光反射防止のためのコーテングを施したこと。放電の色を吸収するように設計したこと。RGBの色が、正しく出るように分光特性の調整に時間をかけたこと…。

同社が独自に開発したフルデジタル・ビデオプロセッサー「AVM」は、もちろん本機にも搭載されている。「高精細デジタルマルチコンバージョン方式」を採用し、豊かな映像表現力、画期的な高音質化を実現した

カラーフィルターの差は、黒の表現にも影響する

 同社の50インチのパネルは、前作でも暗所コントラスト3000:1という高い数値を実現している。今度のパネルもこの値を踏襲しているが、上記の対策により、明るい場所でのコントラストも向上しているはずである。現在の技術では、30%ほどの改善は出来ると識者は言っている。分光特性の調整のためには、数多くのフィルタを試作し、映像の比較検討を行いながら、特性を追い込んでいったのだという。この調整のメリットは、色の再現性領域が拡大し、色純度が向上することである。いま、最先端のプラズマパネルは、カラーフィルターの改良により、ブラウン管方式ディスプレーを越える色再現性領域の拡大が図れるはずである。  カラーフィルターの差は、黒の表現にも影響する。PDS5003J−Hの黒を凝視していると、うっすらとラベンダー色の気配を感じる。通常のプラズマ・ディスプレーで最も多いのは、ラベンダーが強く混ざった黒である。もしそうだと、漆黒の闇が赤紫に近い色で表現されることになる。また、シネまスコープやビスタサイズ画面の上下に出る黒い帯まで赤紫がかってしまう。これは、映画鑑賞では、大きな違和感に繋がる黒の色調である。PDS5003J−Hの場合は、ラベンダーがうっすら混じっていても、黒が支配的な領域に止まっているから、違和感には繋がってはいない。

本体の寸法は1452W×862H×119Dmm、画面サイズは横1351×縦760mm。圧倒的なサイズの大きさで、映画やスポーツの迫力が倍増する

映画表現を突きつめた「ファイン」モードに加え、あらゆるソースに幅広く対応

 PDS5003の映像プリセットには、独自の《ファイン》モードがある。これは、前回も紹介したように、映画再生に特化したポジションである。フィルムライクな映像が得やすいポジションと言ってもいい。フィルタが違うせいか、他のディスプレーとは微妙な色再現の差はあるが、すべては許容範囲に入っている。
 本機の画質も見ていると、BSハイビジョンの放送にも、コンスピューターの映像にも、巧みに対応していることが判る。もともと高コントラスト比を持つ本機は、適応する映像のジャンル(種類)が多く、同じジャンル内のソフトの表現にも幅広く対応出来るのだ。
 眼前の映像、『2001年宇宙の旅』は、かつて難解と言われたラストシークエンスに到達していた。宇宙飛行士ボーマンが、謎の物体モノリスを追って、宇宙の果てにあるブラックホールに突入していく映像だ。ここでは色鮮やかに饗宴が続く。この映像は、どんなディスプレーで見ても美しいだろうが、色の再現能力の差は、そこで畏敬を感じられるかどうかの差になって出るようだ。一見、膣内を進む精子を想起させるパターンがある。
 この時赤が、ピュアであればあるほど、観客は何かを感じ、何か予感する。それが何であるかは,人によって違うだろう。だが、その感覚と思考の振幅こそ、キューブリックが喚起したのものだったのではないか..。こんな考えを抱かせたディスプレーを、私は好ましく眺めた。

PDS5003J-H オプション品一覧
品名及び機種名 特長と仕様 希望小売価格
【卓上スタンド】
P-50TT01-H

50V型、61V型共通

●外形寸法 : W870 X H625 X D360 [mm]
●質量 : 4.0kg

40,000円
(税別)
【壁掛けユニット】
P-50WB01-B

50V型、61V型共通
<横設置専用>

チルト機能0〜20°(横取付)
チルト機能により映り込みの軽減に対応。

●外形寸法 : W930 X H490 X D55.5 [mm]
●質量 : 9.0kg

50,000円
(税別)
【天吊りユニット】
P-50CT01-B

50V型、61V型共通
<横設置専用>

取付角度が0度〜30度まで可変です。
30cm伸縮するパイプが付属されています。

●外形寸法 : W731 X H1006.5〜1306.5 X D350[mm]
●質量 : 19.0kg

80,000円
(税別)

【スピーカー】
P-50SP01-H

【 スピーカースタンド】
P-50ST01-H

[スピーカー]
50V型専用
4個の8cmダブルボイスコイルウーファ−ユニットを搭載しながら、インピーダンスの同時コントロールに成功。

●外形寸法:W99XH726XD95[mm]
●質量:3.5kgX2
●再生周波数帯域:65〜30,000Hz
●定格入力:30W
●最大入力:100W
●インピーダンス:6Ω
●型式:バスレフ型インピーダンスコントロール

78,000円
(税別)
[スピーカースタンド]
50V型専用
●外形寸法W230XH102XD200[mm]
●質量0.45kgX2
20,000円
(税別)

【PDS5003J-H Specifications】
画面サイズ:幅110.6×高さ62.2cm(対角50インチ)
画面アスペクト比:16対9 
表示画素数:水平1,366×垂直768 
表示色:1,677万色 
入力端子:ビデオ入力1系統(BNC)、S映像入力1系統、D端子1系統(D4端子)、アナログRGB入力1…1系統(ミニD-SUB15ピン)、アナログRGB入力2/コンポーネントビデオ入力…1系統(BNC×5)※いずれかを選択、デジタルRGB端子1系統(DVI-D端子)、音声入力3系統(RCAピン)
外形寸法:121.2W×72.6H×9.8Dcm 
質量:45kg 
消費電力:530W
■富士通ゼネラルホームページ:http://www.fujitsugeneral.co.jp
■製品の詳細:http://www.fujitsugeneral.co.jp/plasma/business/line-up/tanpin/pds5003jh.htm
■Phile-webニュース【富士通ゼネラル、独自開発のビデオプロセッサーを搭載の42/50型プラズマディスプレイ】:/news/home-t/200111/15/1486.html


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