「インパルス」を忠実に再現できれば元の音に限りなく近づくことができる

「TD712z」はECLIPSE TDシリーズの最高峰として、録音のプロやミュージシャンの間で絶大な評価を得ているが、そのエッセンスを今度はスタンダードなグレードに下ろしてきた。「TD510」「TD508II」のダブルリリースである。
インパルスの定義

詳しくはのちほど試聴を交えて紹介するとして、「TD=タイムドメイン」とはどういう理論であるのか、おさらいをしてみよう。

通常、スピーカーの性能を表す目安として、周波数特性が広い、狭いという言い方をすることが多い。ワイドレンジでフラットであれば良しとするオーディオ理論だ。これには一理あるが、それは振幅周波数軸での解析であって、音の一側面でしかないことに注意したい。複雑な挙動をする音楽波形を忠実に、理想に近い形で再生するには、インパルス波を入力し、その応答を見る時間領域(タイムドメイン)での解析が不可欠。インパルス波とは、瞬時に立ち上がって瞬時に消える波形で、そのオリジナルどおりの波形がそのまま忠実に再現できれば、元の音に限り無く近づくはずである。これが初代の「512」、「508」以来、富士通テンが一貫して追求するTD=タイムドメイン理論だ。

タイムドメイン理論をカタチにするための工夫の数々

では具体的に、タイムドメイン理論にはどのような条件が必要になるのかというと、できる限り小口径のユニットで点音源に近いこと、なおかつ瞬時に反応するスピードとタフさ(駆動力)をもち、スピーカー自体が固有の音を出さない、などが挙げられる。2ウェイ、3ウェイなどのマルチウェイスピーカーは、これらの条件を満たさないことに気づくだろう。ウーファーだけがあとからノソっと出たり、トゥイーターの共振音が音の濁りとなり、本来の原音再生を妨げるのである。

TDシリーズでは、あえて小口径のシングルユニットにこだわり、応答の良さを追求している。エンクロージャーにユニークな卵殻構造(エッグシェル・コンストラクション)を採用したのは、この構造が非常に丈夫であることと、内部定在波や気流の乱れを生じないための工夫だ。しかもユニットをエンクロージャーに直づけとせず、ディフュージョンステー(拡散支柱)と呼ぶ支柱で受けるフローティング構造としているのだ。ただ浮かせるだけでは駆動のための足場がないため、マグネットの後部にグランドアンカー(巨大錘)を設けてもいる。素晴らしいアイデアではないか。これによってスピーカーの正確なピストンモーションが、まるで水面にきれいな波面をつくるような音の広がりを生む。比類のない空間再現力は、耳からウロコ。スピーカーの存在が消えて音楽だけが現れる感じである。

TDシリーズの内部構造

ECLIPSE TDシリーズが世代とともに進化を遂げてきたのは周知の通りだ。バリエーションも広がった。よりコンパクトなシリーズとして、5.1チャンネルの“Lulet”「307TH」も登場。「TD712z」は初のスタンド一体型で、砂入りの強靱なスタンドに唖然とした。ユニットの強化はもちろんだが、3本のスパイクをもつソリッドベースに、ディフュージョンステーはアルミの3倍の重量をもつ亜鉛ダイキャストを新たに採用するなど、まさにTDハイエンドにふさわしい仕上がりである。