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【特別企画】アナロググランプリ2021 受賞

VPIの最高峰「Prime Signature」、独自の“ユニ・ピボット”トーンアームが誘うハイエンド・アナログの世界

2021/04/26 石原 俊
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1978年にアメリカにて創業したVPI。アナログ・オーディオとカーレースに飽くなき情熱を傾ける一人の技術者であるハリー・ワイスフェルド氏が創設したブランドである。ターンテーブルを開発するための小さな工房をニューヨークに設立したのがその始まりで、以後は高剛性リジッド構造のキャビネットやユニ・ピボット構造の独創的な設計によるトーンアームを主軸に、一貫したポリシーのもとでプレーヤーを開発してきた。

VPI「Prime Signature」(1,375,000円/税込)。トーンアーム「JMW 10-3D Reference」を搭載

その同社から世界的ベストセラーを続けるスタンダードモデル「Prime Scout」に続き、最上位となる「Prime Signature」が登場。本年度の「アナロググランプリ2021」を獲得したレファレンス・プレーヤー、その実力を石原 俊氏が体験する。


■リジットなキャビネットに、独創的なユニ・ピボット・トーンアームを搭載

VPIの「Prime Signature」がアナロググランプリを受賞したので、改めて試聴した。以前輸入元であるエソテリックのフォノイコライザーとプリメインアンプでも試聴しているが、今回は音元出版試聴室のレファレンスであるアキュフェーズのオーディオエレクトロニクスと組み合わせた。

VPIは米国・ニュージャージー州に本拠を置くアナログ関連機器メーカーである。本機は同社のアッパークラスのプレーヤーだ。キャビネットの素材はMDFを基本としており、そこにスチールプレートを加えることで固有の共振を排除している。脚部はキャビネットの四隅にマウントされている。これは高さ調整が可能なデルリン社製のアイソレーションフットだ。キャビネットの作りはシンプルだが、剛性は極めて高い。

デルリンと金属を組み合わせた積層構造の巨大な脚部が特徴

モーター部は別筐体だ。筐体は総重量6.6sの非常に強固な重量級のスチールハウジングで、モーターの振動や漏洩磁束が外部に漏れることはない。内部には300rpmのACシンクロナス・モーターが仕込まれている。33/45回転の切り替えは、動力を伝えるゴムベルトと接するプーリーの位置を変更することによって行う。プラッターはアルミニウムの削り出しで、質量は約9sだ。回転は慣性モーメントが大きく、滑らかで、ゴロ音などが発生する心配はない。プラッターは凸型のインバーテッド・ベアリングによって支えられている。

アメリカ製300rpmのACシンクロナス・モーター。総重量6.6kgのステンレスハウジングに収められている。シンプルな回路構成でターンテーブルの安定した回転を実現

トーンアームは10インチサイズで、ユニ・ピボット・ベアリングと呼ばれる構造をもつ。アーム支点部の黒い円筒は、アームベースに取り付けられた極めて鋭利なスパイクと内部で接しており、そのままではフラフラなのだが、レコードに針を落とすとピタリと安定する。事実上、支点の摩擦はゼロということになり、安定したトレースと滑らかな動作が期待できる。

トーンアーム左に設置される独自のアーム高さ調整機構の「VTA Base on the Fly」。メモリが記されたノブを回すことで、レコードをかけたままアームの高さが調整できる

このアームはなかなか便利で、アームベース左の目盛のついた円筒を回すとレコード演奏中でも高さの調整ができる。また、ベース部を除くアーム部を追加購入すると、迅速なカートリッジの交換が可能だ。交換する際は、アームをスパイクに載せ、アームケーブルのスイスLEMO社製の端子を出力部にカチリと接続するだけでいい。

■ハイエンドらしい広大な音場を形成、 “安心感ある” 音質も特徴

試聴機の出力部はXLR端子だったので、アキュフェーズの「C-47」とはバランス接続した。カートリッジはヴァン・デン・ハルの「The Frog」を用いた。試聴は付属のクランパーでレコードをプラッターに圧着して行った。

出力端子はモジュールにてXLR端子をマウントすることも可能(オプションパーツ扱い)

いかにもそれらしいハイエンド・サウンドである。聴感上のSN比が極めて高く、音場が広大かつ清潔で、音像がキリリと引き締まっている。情報量は極めて多く、低音は量感・質感ともに申し分ない。ただし、ハイエンド系の音にありがちな危うさのようなものは希薄で、安心感が支配的だ。エソテリックと組み合わせた試聴では、同社の電流伝送方式の音調があまりにもスリリングで、安心感という言葉に思い至らなかった。下位モデルのPrime Scoutをエソテリックの試聴室で聴いた時のメモにも安心感という言葉はない。

では、この安心感はどこから来ているのか。それはトーンアームが10インチサイズであることに由来しているのではないか。ロングアームはオフセット角が少ないのでトラッキングエラーが少ないから……というよりも、アームが長いことによるゆったりした表現が安心感をもたらしているように思うのだ。ゆったりとした気分でハイエンドサウンドを楽しみたい愛好家はぜひともご検討していただきたい。

(提供:エソテリック)

記事は『季刊analog vol.71』 からの転載です。

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