HOME > レビュー > ボブ・ディラン8年ぶりのオリジナル作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』レビュー。作品の背景も徹底解説!

まさにディランの「My Way」

ボブ・ディラン8年ぶりのオリジナル作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』レビュー。作品の背景も徹底解説!

公開日 2020/07/08 06:40 本間孝男
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
■ノーベル文学賞受賞後初の作品リリース。17分の先行シングルを含む2枚組

ボブ・ディラン8年ぶりのオリジナル新作アルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ(Rough And Rowdy Ways)』が6月19日、2枚組CDとしてアメリカで発売され、同時にデジタル配信もスタートした。UKチャートでNo.1を、アメリカでも初登場No.2を記録。日本盤は7月8日発売となる。

ボブ・ディラン『ラフ&ロウディ・ウェイズ』(SICP6341-2 3,000円/税別)

新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックに向き合わざるを得ない時代とシンクロするように発売されたこのアルバムの背景、そしてe-onkyo music等で配信されているハイレゾ音源のレビューをお届けしよう。

今作は、ボブ・ディランが2016年にソングライターとして唯一のノーベル文学賞受賞者になって以来、初のオリジナルアルバムとなる。

3月27日、欧米各国の人々がロックダウンされている自らの人生に目を向けた始めたとき、8年ぶりとなるオリジナル曲「最も卑劣な殺人(Murder Most Foul)」が先行シングルとして発売された。ビルボード誌4月11日付のロック・デジタル・ソング・セールス・チャートで1位を獲得。



「最も卑劣な殺人」は、ケネディ暗殺に始まり主に60年代に起きた数々の出来事や時代を彩ったミュージシャン、曲名を訥々とディランのヴォーカルでコラージュ風につないでゆく17分もの大曲。新型コロナ感染が拡大するなか「どうぞ安全に過ごされますように、油断する事がありませんように、そして神があなたと共にありますように」との自身のコメントと共に公開した。

3週間後、ディランは自身の自伝的内容の「I Contain Multitudes(アイ・コンテイン・マルチチュード)」を2ndシングルとしてリリース。中川五郎氏による歌詞翻訳によると、「わたしは矛盾を抱え込んだ男、とんでもない気分屋、わたしの中にはいろんな面がいっぱいあるんだ」。

さらにその3週間後、ドナルド・トランプがコロナウイルスを殺すために漂白剤を注射するアイデアを会見で述べた直後、3枚目のシングルが配信された。贈り物を抱え盛装したドクロのもう一方の手には注射器。骸骨のイメージとともに「False Prophet(偽預言者)」が発表された。この発売に合わせてオリジナル楽曲によるニュー・アルバムが発表された。

■カントリーへのリスペクトを込めたアルバムタイトル

アルバム・タイトルの『ラフ&ロウディ・ウェイズ』は昨年亡くなったカントリーミュージックの父と呼ばれるジミー・ロジャースのアルバム『My Rough And Rowdy Ways』(RCA 1960年)から取られている。米国大衆音楽の祖ともなったジミー・ロジャースへのリスペクトを込めているのだ。

デビュー前からジミー・ロジャースの歌をカバーしていたディランは、1997年にジミー・ロジャースの生誕100周年を記念したコンピレーション『Songs of Jimmie Rodgers - Tribute』を発売して敬意を表している。

ディランの新作はさまざまなメディアで絶賛されている。米国ローリング・ストーン誌がキレのいい見出しをつけているので紹介しよう。
"The man really knows how to pick his moments. Dylan has brilliantly timed his new masterwork for a summer when the hard rain is falling* all over the nation." (Rolling Stone Jun 16, 2020)
大意:「自分の登場の時を本当に良く知っている男だ。ディランはその傑作を激しい雨*が世界に降り注ぐ夏に見事に合わせてきた。」(*パティー・スミスがノーベル賞授賞式で歌って新聞の紙面を賑わせた代表曲の一つ「A Hard Rain Gonna Fall(激しい雨が降る)」にかけている。)

これほど高い評価を得ることになった背景にはアメリカの古典的ナンバーを取り上げた直近の3部作「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」(2015年)、「フォールン・エンジェルズ」(2016年)、「トリプリケート」(2017年)での経験が反映しているのは間違いない。ちょっとくぐもったしわがれ声のディランのヴーカルも気にならないくらい、曲の構成やコードが作り込まれている。

ミキシングを担当したのは映画『ワンダー・ボーイズ』の主題歌「シングス・ハヴ・チェンジド(Things Have Changed)」(2000年)以来ディランの録音のエンジニアをしているテキサス出身のクリス・ショウ。

アル・シュミットが手掛けたスタンダード・カバー3部作とははだいぶ感じが違い、音の広がりやバンドのアンサンブルが豊かな響きで楽しめる。ハイレゾの96kHz/24bit冥利につきる録音に仕上がっている。

次ページ『ラフ&ロウディ・ウェイズ』全曲ミニレビュー

1 2 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク

トピック: