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デジタルの寵児がアナログを貫徹したモデル

M2TECH「NASH」を聴く。独創的な回路をコンパクトに凝縮した、“正攻法”フォノイコライザー

公開日 2019/01/29 09:41 小原由夫
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そのユニークなアイデアと着眼点で設計された製品で、独創的なオーディオ機器を数多く生み出したきたイタリアのM2TECH。思い起こせば、常識を覆しイコライザーカーブ論争が巻き起こるそのきっかけとなったのは同社が開発した「Joplin」だった。ハイファイ性だけではなく、どこかに遊び心も満載した製品は、なんともイタリアンなテイストに溢れ、他にはない魅力となっている。「NASH」は、M2TECHのフォノプロダクトとしては、初めて「アナログ」にこだわり抜いた回路を持つフォノイコライザー。しかしそこにはやはりM2TECHならではのアイデアとテクノロジーが満載されている。そんなNASHのレビューをお届けしよう。

フォノイコライザー「NASH」¥200,000(税抜)

ロックスターシリーズ最新作となるフォノ・アンプが登場

イタリアに拠点を置くM2TECHは、開発エンジニア/マルコ・マヌンタ氏のユニークな視点と他に類を見ない先進テクノロジーによって、瞬く間にデジタルオーディオの寵児として注目を浴びることとなったのは周知の通り。しかも同社のモデルのいずれもが、コンパクトなサイズにまとめられている点も見逃せない。

一方では、近年のアナログ再生のイコライザーカーブについての問題提議、すなわちレコードの録音特性がRIAAに制定・統一された後も、果たして正しく運用されていたのかという疑問から、複数の録音特性に切り換えられる機能を盛り込んだ製品を他社に先んじて提案した点からも、同社は目のつけどころが違うと、まさしく一目置かれる存在となった。

そんなM2TECHが、ロックスターシリーズの最新作として、コンベンショナルなフォノ・プリアンプをリリースした。製品名を「NASH」といい、一連の「CSN&Y」命名機のラストを飾るモデルとなる。

M2TECHではこれまで極めてユニークなフォノプロダクトを開発してきた。写真はLP用にして全16種類のイコライザーカーブ切り換えにデジタルドメインで対応し、イコライザーカーブ論争を巻き起こすきっかけとなったフォノADコンバーター「Joplin MkII」 (¥220,000/税抜)

ディスプレイも搭載し、アプリでも操作が可能

NASHはMM/MC対応のフォノイコライザー。内部は全段ディスクリート構成の回路で、MCの入力インピーダンスとヘッドアンプ部のゲインを背面のポテンショメーターで設定する。MMについては、入力インピーダンスと静電容量負荷を背面に備えられたDIPスイッチで操作する。入力端子は2系統あり、MC‐Low専用入力とMCHigh/MMの兼用入力となる(MCポジションでの最大ゲインは95dB、MMポジションでの最大ゲインは65dB)。その他にラインレベルのアナログ入力を2系統装備する。

本機はイコライザー特性カーブを複数は内蔵せず、RIAAのみとした。また、ハイパスフィルター(16Hz以下をカットするサブソニックフィルター)の切り換えやトータルゲイン等のコントロール、その他のセットアップを有機ELによるフロントディスプレイに表示でき、それらのコントロールは前面右側ノブのロータリー・エンコーダーおよびリモコン、あるいはBluetooth経由のAndroidアプリによって行う。近々iOS版も登場予定だ 電源は付属のACアダプターを用いる。

NASHの最大の特徴となるBluetooth経由での本体コントロール。写真はAndroid用のリモコン。入力切り換えなどの基本操作はもちろん、アプリ内にはカートリッジのプリセットも保存されており、設定ポジションのガイドや細かな設定値などNASHの機能をフル活用することができる

操作系もシンプルでスマート設定はリアパネルで行える

本体はプレーンなアルミケースに入れられており、操作系も非常にシンプルかつスマート。一方でリアパネルは端子類やスイッチなどが所狭しと並ぶ。前面左の電源スイッチを投入すると、選択したソース名やフォノ入力のゲイン、フィルターの有無などが表示される。

NASHのリアパネル。入力端子はいずれもRCAで、フォノ入力はMMとMCで独立して装備。また、ライン入力も2つ備えているので、例えば同社のプリアンプ兼DAコンバーターのYoung MkIII (¥180,000/税別)と接続すれば、本機のアナログステージをフル活用した再生が可能となる。出力はRCA×2を用意。一番右の4Pin XLRは同社の強化電源「Van DerGraaf MKII」専用(日本未発売)のものとなる

メニューにアクセスするには、ロータリーエンコーダーを2秒以上長押しすることで表示される。メニュー項目のスクロールは短押しを繰り返すことで切り換わる。ソース選択は、ロータリーエンコーダーを短押しすると現在選択されている入力ソースが表示される。この状態でロータリーエンコーダーを回して所望の入力ソースを選び、エンコーダーを押して確定となる。ほとんどの操作は、この一連の動作で選択/決定することになる。また、リモコンの上下/左右のカーソルキーとOKボタンでも同様の操作が可能だ。

コンパクトなサイズにもかかわらずその機能は豊富で、MC入力時のパラメーターは向かって左のノブで操作する。またMM入力のパラメーターは向かって右のディップスイッチで設定が可能だ

なお今回の試聴では、プリアンプ機能は用いずに、トータルゲイン65dB のフォノイコライザーとして、本誌のレファレンスシステムに組み込んでいる(デフォルト状態でハイパスフィルターはON)。

次ページクリアで緻密なトーン、全体的に清らかな印象

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