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日本トップクラスのエンジニアリング技術の結集

アナログに新しい歴史を刻んだ国産カートリッジ「青龍」の第二弾が登場。トップウィング「朱雀」レビュー

2018/07/15 小原由夫
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2017年、あるカートリッジが発売され、世界初の構造を採用したことで大きな話題となった。その名もトップウイング「青龍」。コアレス・ストレートフラックス型という、コア材を持たずに、マグネット直上にV字型に左右のコイルを配置したことで針先の微細な磁束変化をダイレクトに可能とした青龍は、またたく間に世界的な注目を集めることになる。そんなアナログ界の新星から、第二弾として満を持して登場したのが、ふたつめの四神の名を持つ「朱雀」。軽量化という命題を掲げ、世界的な評価を獲得している本機の実力に迫る。

コアレス・ストレートフラックス型カートリッジ「朱雀」¥1,000,000(税抜)※トーンアーム別売

自重を軽くするために最新素材を複合的に採用

『アナロググランプリ2018』にて、コアレス・ストレートフラックスなる独自の発電方式を世界で初めて採用したカートリッジ「青龍」が開発特別賞を獲得したことは、未だ記憶に新しい。しかし、販売元のトップウィングはその栄誉に気を緩めることなく、第二弾を送り出した。青龍の上位モデル「朱雀」の登場である。青龍は、現代日本の高度なカートリッジ技術を広く内外に知らしめるべく、メーカー/技術者が企業間の垣根を越えて協力して誕生したモデル。アナログオーディオにおいて日本メーカーがもともと得意としていた分野に再びスポットライトを当て、その存在感を誇示したという点においても意義深い製品だ。

外観は本体正面に漢字でモデル名を刻み、側面にメーカー名を記したところは青龍との共通点。異なるのは赤/黒のカラーリングと形状だ。朱雀はやや細身のシェイプで、ヘッドシェルとの固定がトップ面のみと短く仕上げられている。ボトムカバーも設けられており、内部構造の一部が見えていた青龍とは見た目の印象が異なる。
 
発電機構は、コア材を介在させずにマグネットの直上に左右コイルを配置し、スタイラスから拾い上げられた振動がすぐに磁束変化となって発電作用を行う。ダンパーやコイルを吟味した上で高効率な発電メカニズムとして完成されているのは、朱雀も青龍と同様だ。
 
スペックや部材からも両者の違いは見出だしにくい。出力電圧も内部インピーダンスも同一。ラインコンタクトのスタイラスチップやアルミニウムカンチレバーも変わらない。ならば、その違い、価格差はどこに起因するのだろう。
 
最も大きな相違点は、質量だ。朱雀は青龍に比べて3g以上軽くなっている。実はこの部分こそがコスト面に大きく反映されている。硬くて共振しにくいボディを実現するべく、主に超々ジュラルミンを採用していた青龍に対し、朱雀では共振周波数の異なる材料を組み合わせることで軽量化を図りながら、巧みに振動を分散させる手法を採ったのだ。使われた材料は青龍と同じ超々ジュラルミンに加え、チタン、ドライカーボン、スーパーエンジニアリング・プラスチック等など…。これら先進のマテリアルの組み合わせによって9g弱の質量を実現し、あらゆるトーンアームとのマッチングが高まったという。

マグネットの直近にコイルを配した構造のため、スタイラス部が独立。このためMM型と同じように針交換を行うことが可能となっている(要メーカー預かり)

ダイナミックな展開でもハーモニーや音場感が崩れない

試聴にあたり、青龍同様にファインチューニングが図られたオプションとなるヘッドシェルを使用。『アン・イヴニング・ウィズ・ジョージ・シアリング&メル・トゥーメ』では、たいそう柔らかで艶っぽく、それでいて細部のニュアンスがすこぶる鮮明なヴォーカルとピアノの濃密なデュオが楽しめた。余韻の広がりには会場の広さが実感でき、本機ならではのステレオイメージの表現力を感じる。『ショーティー・ロジャース/リ・エントリー』でも、ホーン楽器のソロのくっきりとした音像定位と、その後ろに陣取るアンサンブルの立体感に聴き惚れた。分解能の高さと音場の深さはとにかく圧巻である。

ダイナミックな展開でもハーモニーや音場感が崩れない使用機材試聴ディスクンセルトヘボウ『春の祭典』では、ダイナミックな展開の後のトゥッティでもハーモニーの重奏や音場感が崩れない。グランカッサやティンパニの一撃がズシリと重く、それでいて鈍さも一切感じさせないのはさすがだ。非常に高価なカートリッジだが、一聴の価値は十分ある。

使用機材
● アナログプレーヤー/ テクニクス「SL-1000R」●フォノEQ/アキュフェーズ「C-37」●プリアンプ/アキュフェーズ「C-3850」●パワーアンプ/アキュフェーズ「M-6200」●スピーカーシステム/B&W「803D3」

試聴ディスク
●『An Evening With George ShearingAnd Mel Tormé』George Shearing AndMel Tormé(Concord Jazz/CJ-190)●『ストラヴィンスキー:春の祭典』アンセルメ指揮、ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団(フィリップス/ 9500 323)他

(小原 由夫)



【開発者から】

(有)トップウイング
代表取締役
佐々木原幸一氏

佐々木原幸一氏

「レコードを現在最先端の技術で作ったカートリッジで再生したらどうなるのだろうか。私達はそんなロマンを求めて第一弾となる青龍を開発し、世に送り出しました。青龍は徹底的にボディの鳴きを抑えるべく超々ジュラルミンを採用した剛性の高いボディを採用しましたが、その半面で質量は重くなるという宿命を持っていました。世界的にはストレートアームが普及しておりますので、当然『もっと軽いカートリッジを作って欲しい』ということでした。青龍の設計ポリシーを引き継いだうえで、この命題に挑んだのが朱雀です。チタンとカーボン、そしてエンジニアリング・プラスチック。そんな加工が難しい素材を、日本の加工技術を結集させることで実現したのが朱雀です。ぜひ朱雀がレコードから引き出す3Dサウンドをぜひ一度体験していただければと思います」(佐々木原氏)




<Specification>
●型式:コアレス・ストレートフラックス型●針先:ラインコンタクト針●出力電圧:0.2mV 5cm/sec. ●内部インピーダンス:12.3Ω/1kHz ●適正針圧:1.75 ~ 2.0g ●質量:9g ●針交換:対応●取り扱い:ENZO j-Fi LLC., (有)トップウイング



※本記事は「季刊analog」60号所収記事を転載したものです。本誌の詳細および購入はこちらから。

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