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厳選パーツと熟慮された設計が集約

AUDIO NOTE、最高峰パワーアンプと対をなすプリアンプ旗艦モデル「G-1000」登場

公開日 2017/09/01 10:24 村井裕弥
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オーディオ・ノートより、同社の最高峰のモノラルパワーアンプ「Kagura」と対をなす、フラッグシップのプリアンプ「G-1000」が登場した。同モデルは本体と電源部の2シャーシ構成によるL/R独立電源供給を採用。高品位なパーツ群と徹底的に熟慮した回路構成を採用し、最上位のラインプリアンプとして誕生したもの。そこで本項にあたって、村井裕弥氏がオーディオ・ノートの試聴室にて「Kagura」との組み合わせにより試聴、その実力をレポートする。

AUDIO NOTE「G-1000」¥7,538,400(税込)

海外のオーディオファンを魅了し続ける日本ブランド

オーディオ・ノートについて語り合う掲示板(BBS)をのぞいたことがある。確か「オーディオ・ノートの音を一度も聴いたことがないのだけれど、どんな音なのか教えてほしい」といった問い掛けに多くの人たちが答える流れ。国内メーカーであるのに、その音を聴いた日本のオーディオファンは限られている。しかし、海外での評価が滅法高いことやハイエンドオーディオ・ファンが愛用している等の情報が流れてくるから、皆気になって仕方がない。

そんなオーディオ・ノートが、昨年暮れあたりから少しずつ我々の前に姿を現してきた。東京都文京区にエスアイエスというオーディオショップがあるが、まずはここにオーディオ・ノートの製品が常設されるようになったのだ。

その先兵は、「Overture PM‐2」という管球式インテグレーテッドアンプだが、店内にある「簡単には鳴らないハイエンド・スピーカーたち」を楽々鳴らし切る。定格出力32W+32Wとは思えぬ駆動力に皆驚き、自宅試聴した場合は、ほぼ間違いなくお買い上げに至るのだという。

諦めていた微細な表現が豊かに引き出されてくる

そんなオーディオ・ノートのフラッグシップ機はこれまで、「M1000 MkII」というプリアンプと「Kagura」というモノラルパワーアンプであったが、今年に入ってから「新しいプリアンプがあと少しで完成するらしい」というウワサが聞こえてきた。プロトタイプはすでに完成していて、微妙な調整を施しているところらしい。

ああ、聴いてみたい。でも6月の発売日までは聴かせてもらえない。そのくり返しで日々悶々としていたら、3月下旬オーディオ・ノートの販売担当者から電話がかかってきて、「新プリアンプのG‐1000+Kaguraの音を聴いてみませんか」という。もちろん二つ返事で快諾。書きかけの原稿を放り出して、オーディオ・ノートへ向かった。もちろん聴き慣れたチェック盤を多数持参したが、そのどれもが「これまで聴いたことのない音」で鳴った。

モノラル・パワーアンプ「Kagra」

こういう書き方をしてしまうと、「やけに個性的な音だ」と勘違いされるかもしれない。音源に何かスパイスを加えたり、特定の色を付けたりして上手に聴かせてしまうシステムは少なくない。しかし、オーディオ・ノートの新フラッグシップ・コンビ「G‐1000」+「Kagura」はそんなあざといことはしない。色づけするどころか、まったくの逆!

たとえば、録音現場に居合わせて生音を知り尽くしているCD。リリース後「あのニュアンスはCDフォーマットには収めきれないんだなあ」とため息をつくことが多い。筆者はそういうCDをわざと持ち歩くのだが、オーディオ・ノートの新フラッグシップ・コンビでそれらを再生すると「この盤に収められなかった」と諦めていた微細なニュアンスが豊かに引き出されてくるではないか。その結果、Aさんの演奏はいかにもAさんらしく、Bさんの演奏はいかにもBさんらしく聴こえるようになる。

同社新開発の50接点アッティネーターユニット(50kΩ)。人工衛星にも搭載される最高グレードの抵抗器を採用。高品質ロータリースイッチにマウントし、銅ケースに収めている

B&W「801 D」を軽々駆動、ワイドでスカッと鳴り切る

もうひとつ驚かされたのは駆動力。試聴室には、オーディオ愛好家なら誰でも知る銘機、B&Wの「801 D」が置かれていたが、このスピーカーはあるケースでは「鳴らしにくさ」でも有名。アンプの選択を間違うと、覇気のない、ハッキリものを言わない、もごもごした鳴り方を聴かされることが多く、低音も量は出るものの多くの場合でスピード感とキレが不足することもある。

ところがこのスピーカーを「G‐1000」+「Kagura」で鳴らすと、まったくの別物といっていいほど、本来の実力を発揮してくるのだ。ワイドレンジかつハイスピードな音でスカッと鳴り切る!口ごもりがちな人が、ハキハキしゃべれるようになった?ちょうどそういう感じの変わり様だ。

電源部の内部。整流管は6CA4を採用。リップルフィルターコンデンサーとデカップリングコンデンサーは明確に分けて設計している。新開発のシャント型ヒーター回路を搭載し安定した点火回路を実現

こういう書き方をすると、「鳴らしにくいスピーカーを、超大型重量級アンプで鳴らした音」を想像される方がいらっしゃるかもしれぬが、「無理やり、力ずくで鳴らしている」というニュアンスは微塵もない。「まるでコンデンサー型のよう」とまでいうといささか大げさだが、振動板の材質をより軽いものに替え、厚さを半分以下にして、磁気回路を何倍も強力にしたかのような鳴り方だ。

今回この記事を書くにあたって、おおよそ2カ月ぶりにオーディオ・ノートを訪問し、再度試聴。初めて聴くときやけに興奮し、後日冷静に聴くとガッカリするオーディオ機器もあるが、「G‐1000」+「Kagura」に関してそのようなことはまったくなかった。

ラインアンプ部はモジュール化し、その上にデカップリングコンデンサーを左右独立で配置してシグナルループを最小化している

銀線を駆使した銘機を輩出、今年で創業40周年を迎える

試聴のあと、芦澤雅基社長からお話を聞いた。76年創業なので、今年はちょうど40周年。創業者・近藤公康(ひろやす)氏は元々録音業界の技術者であったが、音響調整卓の入力トランスをはずせという業界の風潮に対し、「トランスの存在が悪いのではない。そのトランスの出来が悪いだけだ」と反発。その考えを実証すべく作られたトランスに銀線を使用し成功したことから、「銀線のよさを生かす」「銀を使ったスペシャルパーツを自社生産する」という今日まで続く同社の方針が確立される。

この銀線トランスと銀線を使ったケーブルがヒット。ほぼ同時期に開発されたプリアンプ「Meister‐7」とその後継機M7も高く評価され、オーディオ・ノートは順風満帆のスタートを切る。88年には、パワーアンプ用出力トランスと銀箔コンデンサの開発にも成功。この二つのおかげで今日に至るまで現役の「ONGAKU」というパワーアンプが誕生。それにイギリス在住のデンマーク人が惚れ込み、共にイギリスに渡ってみると「東洋の神秘だ」と各誌絶賛の嵐。以後欧米からたくさんのオーダーが来るようになる。

本体内部。オリジナルアッテネーターユニットをはじめ、銀線の入力トランス、銀箔コンデンサーなど高品位パーツを惜しみなく投入。各所には厳選したCRパーツも効果的に配置

しかし大量に銀を使い、多くのパーツを自社生産し、一般的なプリント基板を用いず銀線ハンダ付けで配線しているので、当時の日本の常識をはるかに超えた価格になってしまう。そのため長きにわたり海外中心の活動になってしまったが、海外ハイエンド機の多くが輸入されるいまの日本なら、選択肢の一つになりうるのではないか。そのように考え、再び国内での販売に力を入れるのだという。

この「G‐1000」、海外からはすでに多くのオーダーが入っているとも聞いた。音を聴かず、専門誌のレビューもまだ出ていないのに即発注するファンがそんなにもいるのだ!「でも、日本のメーカーなのだから、日本の方にも聴いていただきたいです」、芦澤社長のその何気ないひとことが、いまも心に残る。

(村井裕弥)



開発者:商品開発チーフデザイナー・廣川嘉行氏から

「最上位ラインプリアンプとして、最高のスペックを達成し広大な音場と定位感、また高度に洗練された表現力を得る事を目標とし開発しました。新開発の高品質50接点アッテネーターには、人工衛星に搭載されるグレードの抵抗器を採用し、圧倒的な情報量と静寂感を得ました。カップリングコンデンサーには「Kagura」で採用した新銀箔コンデンサを搭載しています。ヒーター電源は新たに大規模シャント型回路を開発し、透徹で高い安定度を誇る音場を実現しています。また、銀線入力トランスを搭載しソース機器との理想的なバランス接続を可能にしました。最終チューニングは代表の芦澤と長時間にわたり入念に行いました。」

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