HOME > レビュー > 【第195回】イヤモニ界の秘境「くみたてLab」に潜入取材!独自の“くみたてらしさ”の源を探る

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第195回】イヤモニ界の秘境「くみたてLab」に潜入取材!独自の“くみたてらしさ”の源を探る

2017/08/18 高橋 敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

伊藤氏「まず先に話題に出た『排圧機構』ですが、密閉度の高いカスタムイヤモニにダイナミック型ドライバーを搭載すると、耳に装着したときの空気圧で振動板が変形してしまうんです。装着時に耳の中で聞こえる『ペコッ』みたいな音、あれが振動板が変形してしまっている音なんですよね。振動板にそういった力がかかるのは良くないので、空気圧を逃してそれを防ぐ機構を作りました」

空気圧を逃し、振動板の変形を防ぐ機構を搭載

 ーー ダイナミック型ドライバーに特有の問題なのであれば、BAのみで構成されたKL-Lakhには搭載する意味がないのでは?

伊藤氏「意図していたわけではないのですが、REFにこの機構を搭載したところ『音質面でもプラスの作用があるのでは?』という意見をユーザーさんからもいただきました。それで振動板の変形という問題は起きないLakhにも背圧機構を搭載したんです」

カスタムオーダーとしての面白さという面では、オプションとして様々な選択が可能な「低域調節ボリューム」は見逃せない。
現在は、以下3つのパターンから選ぶことができるようになっている。
・固定(ボリュームトリムなしで0dB固定)
・ボリューム(可変トリム)
・固定値選択(+1dB/+2dB/+3dB/+4.5dB/+6dB)


伊藤氏「ネットワーク回路の低域周りの抵抗の値を変えることで、低域の出し具合を調整するオプションです。基準となる『固定』の0dBは設計者の山崎の感覚で決められたのですが、当時の彼は特にフラットな低域を好んでいて、そのセッティングは他の人からすると量感不足にも聴こえがちでした。そこでその抵抗値を可変にして幅広いセッティングを聴き比べられる開発試作機を作り、イベントなどでユーザーの皆様からも意見を募ったところ、ユーザーの方々の好みもやはり幅広くて。そこで『もうこの試作機のボリューム機構をブラッシュアップして製品にも搭載しちゃおう』と」

 ーー 後から追加された、固定値を選択するオプションについては?

伊藤氏「以前はユーザーさんに値を指定していただくオプションを用意していたのですが、どんな値でも作れますとなるとユーザーさんをかえって迷わせてしまう面もありました。そこで選択肢をこちらで用意したわけです。コスト的にもこの方が有利ですし」

 ーー ところでその「低域」というのは具体的には?

伊藤氏「我々としてはおおよそ500Hzより下の周波数帯域を『低域』と考えていて、この低域ボリュームオプションもその帯域を調整するものです」

自らを制約し生み出したNEXT5シリーズ

そして現時点においての最新モデルが「NEXT5」シリーズの3モデル「KL-SIRIUS」「KL-METEO」「KL-CORONA」だ。

 ーー シリーズとしてのコンセプトは?

伊藤氏「このシリーズは僕が設計したのですが、『価格を抑える』という制約を設けた上でその中でクオリティを高めるというのがテーマでした。ドライバーの数を増やせばすぐ解決できる課題でもそこをあえて3ドライバーでどう対処するか?みたいな考え方です」

最新モデル「NEXT5」シリーズの3機種。クオリティーも高めつつ『価格を抑える』をコンセプトに開発

 ーー ドライバーをはじめとしたパーツ点数を減らして価格を抑えたシリーズ、ということだろうか?

伊藤氏「それだけとは言い切れないものになっています。ドライバーを減らすことで筐体内に余裕ができた分、ネットワーク回路を凝ったものにしてチューニングを突き詰めていたりするので。スペースの余裕のおかげで配置や組み込みのしやすさが向上したなど、諸々含めた『トータルでの製作コスト』を抑えられたというところが大きいですね」

 ーー シリーズが一挙3モデル登場することになったのはなぜ?

伊藤氏「1モデル展開を予定していたのですが、シリーズ開発中に試作パターンを3モデルほどイベントに出展したところ、どれもユーザーさんから好評で……多くの意見をいただきその後の開発にフィードバックさせたのですが、結果7モデルほどに開発機が増えてしましました。全部はさすがに無理なので、特に好評だった音の傾向と、開発当初に意図した音作りに一番近かった3パターンに絞り込み、それをベースにした3モデルを製品化しました。この絞り込みには苦労しましたが、結果として面白いラインナップにできたと思います」

 ーー 1モデル予定のところが3モデルになっちゃったのに「絞り込んだ」と胸を張るのはどうなのか?
伊藤氏「ではそれぞれのモデルについて説明していきましょう!」

KL-SIRIUSはフラット&こだわりの50Hz以下

●KL-SIRIUS 基本価格9万0000円
 ・ドライバー構成
  Ultra High /1 BA Driver
  High /1 BA Driver
  Mid /1 BA Driver
 ・中低域はデュアルBAドライバーを単発利用


 ーー シリーズの中でもベーシックなチューニングと言えるのは?

伊藤氏「KL-SIRIUSですね。基本的にはフラットで、加えて50Hz以下の低域の表現力にもこだわったチューニングです。50Hz以下というのはおおよその楽器の基音の音程より低い帯域ですが、和太鼓の胴の響きやEDMの重低音などの再現には欠かせません」

 ーー 50Hzより下というのは多くのブックシェルフスピーカーではほとんど再生できない帯域であり、大型スピーカーを設置せず手軽にそれを楽しめるのはイヤホンリスニングの特権。そこを重視するというのは共感できるポイントだ。

伊藤氏「でもその帯域をBAドライバーから引き出すのは難しいんですよ。特にNEXT5シリーズでは『じゃあドライバー増やせばいいじゃん』という手法は封印しているので。そこでこのシリーズでは、ネットワーク回路のローパスフィルター部分の特性を突き詰めることでそこをどうにかしています」

 ーー もうひとつ、中低域でのデュアルBAドライバーの使い方がユニークで特徴的だ。

次ページ「METEO」と「CORONA」はそれぞれ色の違う低域が特徴的

前へ 1 2 3 4 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE