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一般的なスピーカーとは違う異次元の世界観

アバンギャルド「TRIO CLASSICO XD」で音楽を堪能する ー 大幅に進化した第三世代の最上位機

2017/06/23 鈴木 裕
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音質徹底レポート
立ち上がり/しゃがみが速く、女性ヴォーカルは血湧き肉躍る

テストはエソテリックの試聴室で行った。エレクトロニクスは全てGrandiosoシリーズ。デジタルプレーヤーは「P1」と「D1」にマスタークロックジェネレーター「G1」を付加。アンプが「C1」と「M1」を2台という組み合わせである。


組み合わせ機材にはエソテリックの最高峰Grandiosoシリーズを使用して、同社の試聴室にて音質をチェックした
エリック・クラプトンの『アンプラグド』から聴き始めた。帯域バランス(ほぼフラット)や低域方向のレンジ(かなり広い)、コントラスト(若干強め)、彩度(明るすぎず、暗すぎず)、ヴォーカルの主役度(やや低め=それ以外の情報量が多い)などを把握。印象的なのは「音の立ち上がり/しゃがみの速さ」だ。何の力みもなくスッと立ち上がり、サッとしゃがんでしまう感じは、あまり聴いたことのない部類の音のふるまい方。とてつもなくナチュラルな感じがする。

100Hz以下を受け持つバスホーンの音量レベルはフラットに設定されていたが、せっかくなので個人的な好みで2dBだけ上げてもらう。ちなみに今回のセッティングでは、遮断スロープは24dB/octで肩特性はリンクウィッツ・ライリーにしている。

続いて最近、自宅で気に入って聴いている女性ヴォーカルのヴァネッサ・フェルナンデス『レヴィー・ブレイク』から「レモン・ソング」を聴く。レッド・ツェッペリンのカバー集だが、アメリカのグルーヴノート・レーベルのもので、良いオーディオで聴くほどにその良さが立ち上がってくる。SACDのハイブリッド盤だ。12弦ギターの生々しい弦の震え、ボーカルやタイコの実在感。特にほとばしるようなヴォーカルの声の飛んでくる感じ。冷静に聴いていられない音だ。エモーショナルというか、血湧き肉躍るサウンドだ。

キース・ジャレット・トリオの1996年のライヴ盤『アット・ザ・ブルーノート』のボックスから3枚目の5曲目「恋に落ちた時」。ステージの床の低音と拍手から始まるが、スタートした瞬間にブルーノートというライヴハウスにあった空気がエソテリックの広い試聴室にムッと漂う。音色感の再現性が高いが、それにしてもピアノの音一つ、シンバルの一発の音色の複雑な音の成分が実にさまざまに聴こえてきて、今まで経験したことのない感覚である。実際に楽器のそばに行って聴くよりも、ここで聴ける情報量が多いのだ。

従来とはスケール感が全く違い、物凄い解像度や情報量を生み出す

この感覚の本質を捉えきれないまま、続いてクラシック音源を聴く。ブーレーズ指揮クリーヴランドの『ストラヴィンスキー:春の祭典』。普段は1969年録音を試聴に使うが、今回は91年録音の方で試聴した。トラックが第一部と第二部にしか分かれていないので、ここぞという時にしか持ってこないソフトだ。ボリュームをかなり上げた。

冒頭の甲高いファゴットのソロから始まり、木管を中心に鬱蒼と音が厚くなり、いったん静まって「春の兆しと若い娘たちの踊り」のパートになる。ザッザッザッのところだ。このあたりで異様な感じの理由が分かってきた。スケール感が違うのだ。


バスホーン/サブウーハードライバー(12インチ)はエアギャップ内の磁束密度を高め、磁力エネルギーの損失を防ぐアンダーハング構造のポールピースを備え、低域を強力に駆動
通常、スケール感は「箱庭的な音場感」とか「等身大の音像」みたいなものが多いが、このスピーカーでボリュームを上げると、聴き慣れた楽器の音像が拡大されたようにその細部までが克明に見えてきてしまう。結果として物凄い解像度や情報量を生み出している。オンマイクの録音であれば、自分がマイクのヘッドになるような感じすらある。いやそれにしても猛烈に楽しい。気がつくと17分間近くある第一部を全部聴いてしまった

小音量でも実に浸透力の高い音で音像のフォーカスがピシッと合う

一方、エソテリックのリマスタリング盤、アバド指揮ベルリンフィルの『ジルヴェスター・コンサート1997』からの再生も素晴らしかった。歌劇《カルメン》のアンネ・ソフィー・フォン・オッターの「ハバネラ」や、ギャ・シャハムがヴァイオリンソロを弾いている「カルメン幻想曲」をあえて小音量で聴くと実に浸透力の高い音で、また小さな音像のフォーカスがピシッと合っているのにも驚かされる。正直、インラインに近く配置されたTRIO XDに対して、CLASSICOの配置はどうなんだろうと思っていたが、まったく問題なかった



大きさといい、値段といい、誰にでも薦められるものではないが、たしかに一般的なスピーカーとは違う世界だった。勢いのあるジャズやロックを楽しむのには最高だが、クラシックを聴くと少なからず付帯音を感じた第一世代。大きく洗練しつつ、若干マイルドなニュアンスを持っていた第二世代のG2。そして細部を成熟させつつ、低域の反応スピードやセットアップ領域を大幅に高めてきた第三世代のXD。XDになってスフェリカルホーンの真価がいよいよ余すところなく発揮されてきたのを感じる。

アーヘン工科大学のテスト結果である、一般的なスピーカーに対してアバンギャルドのホーンは、8倍のダイナミックレンジ、マイナス90%の歪み率、10倍の解像度という、ちょっと見ると目を疑うような数字も実際に聴くと納得できる。TRIO CLASSICO XDの優美な姿は芸術作品のようだが、トランスデューサーとしても特別な存在だった。

(鈴木 裕)


本記事は季刊・オーディオアクセサリー163号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。

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