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【特別企画】評論家・大橋伸太郎が多角的に評価

東芝“4K有機ELレグザ”「X910」の画質は? HDRから地デジまで様々な映像で徹底チェック

公開日 2017/03/13 11:43 大橋伸太郎
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夜景を華やかに彩る都市のイルミネーションも発色が瑞々しく、輪郭が冴え冴えと引き締まり、画面サイズとの相乗効果で臨場感のある深い奥行きを感じさせる実写映像だ。

製品を確かめる大橋氏

次に4KのUHDブルーレイ映画ソフトの定番「レヴェナント 蘇りし者」。

レヴェナント 蘇りし者( 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン 20世紀フォックス)

X910は日常使いのテレビというより映像ファン向けの製品で、当然4K/24Pの高画質再現に力を注いでいる。昨年来、各社の4Kテレビや4Kプロジェクターで必ずこのソフトを見てきたが、X910で見る本作には新しい発見がある。

冒頭の小川が縫って流れる木立で父子が鹿狩りをするシーンは、優れたディスプレイほど映像に奥行きと立体感が生まれる。X910は移動撮影で映し出される樹幹の群れが生々しい丸みをもって迫り、映像が65型を越えてもっと大きな画面サイズに錯覚される。

X910の描写力は凄まじく、画面奥に佇む雄鹿がCGで描かれた偽物であることがはっきり分かってしまう! LCOSのプロジェクターのずっと大きなサイズの画面でもそうは見えない。大きく見えて同時に精細感を増す一種の矛盾がX910の映像だ。

本機はノイズの多い24p映像、例えば1080pからのアップコンバートに有効な「熟成超解像」を搭載する。その一方、4K高画質ソフトにはフル12bit処理(「ピュアダイレクト」)を行う。入力コンテンツに応じて適宜アプローチを変えて、有機ELの特徴をフルに引き出すことを心掛けたわけだ。

視聴時のようす

自然光を生かした明暗コンビネーションが本作のHDR映像の特徴だが、X910はコントラスト両端、暗部と明部の階調を細かく復元し飽和させずに原画情報のまま表出する(「ローカルコントラスト復元」)。有機EL持ち前のネイティブコントラストが矯められることなく発揮され、従来見られなかった大きく深く濃やかな映像が現れていたのだ。

■2Kブルーレイ作品の表現も秀逸

次に見たディスクが、アンジェリーナ・ジョリー脚本・監督・主演作「白い帽子の女」(2K フルHD ブルーレイ)。すれ違った心の修復のために南仏の海辺のホテルを訪れたアメリカ人夫婦の物語だが、その映像は「レヴェナント」から一転、明るく穏やかで甘美な中間色で綴られる。

白い帽子の女(ユニバーサル)

アンジーが狙ったのは、本作時代設定である1970年代始めのヨーロッパ映画を思わせるマイルドなルックで、大掛かりな太陽光集光装置をロケ地のホテルの屋上に組み、撮影現場に自然光を導き入れて極力照明を使わず、俳優の表情始めセットの陰影や発色に繊細なニュアンスを生み出している。デイライトの反射光で見つめる絵画の佇まいだ。

こうした作品の場合、液晶方式では画面の奥にあるバックライト光源を目視していることに気付き違和感を覚える瞬間がしばしばあった。X910で見る本作は、自発光デバイスらしいユニフォーミティの高さに一枚の息づく画の自然さがある。大画面の情報量はマスモニを越えているかもしれず、アンジー本人にもご覧に入れたい映像だ。

最後に、是枝裕和監督拘りのコダック35mmフィルム撮影による近年の日本映画の名作「海街diary」。神奈川県鎌倉市が主要な舞台の本作は、筆者が子供時代から幾度も遊び馴染んだ場所や現在の生活舞台がいくつもロケ地に選ばれている。

海街diary(東宝/ギャガ)

映画のラスト近く、肉親の喪失感と葛藤を抱えた四人姉妹の長女が四女を伴い、子供時代しばしば父と歩いた大仏坂ハイキングコースの「いちばん好きな場所」を訪れるシーンは、情感に溢れた名場面の一方、ディスプレイの試金石でもある。

山道の鬱蒼とした木立のほんの切れ目を分け入った先に相模湾と鎌倉市の町並みを一望するこの一角があるのだが、姉妹の背中をカメラが追って行くと眺望が次第に開け陽射しが現れ湿った空気が次第に明るく乾いていく。

光線と空気の変化イコール心の解放、つまり姉妹の心の屈託が消え浄化されていく表現なのだが、フィルムのラチチュード(露光範囲)を活かした僅か数秒感の撮影に込められた映画の核心を、X910は息を呑むナイーブさで描き出す。

液晶方式はどれだけよく出来ていても明るさの変化がどこかぎこちなかった。有機ELのネイティブコントラストと優れた回路技術の合わせ技で生命感に富む息づく映像が生まれたのだ。


テレビは、遠くにあるものを目の前にあるように見たい、という人間の願望から生まれた。しかし現在それが意味するものは、距離上(物理的)の隔たりだけではない。時間上の距離つまり記憶の中にかつて実在した景色や、クリエイターの頭脳の中のイメージをリアルに眼前させるのも現代のテレビの役割だ。

その〈実景〉の映像表現において、有機ELレグザX910が映し出す無限のコントラストは、肉眼で見る世界に一歩も二歩も近づく。それは、取りも直さずテレビの本義に照らして本機X910が今全てのテレビの先頭にいることを意味する。

(特別企画 協力:東芝映像ソリューション株式会社)

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