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<連載>藤岡誠のオーディオワンショット

藤岡誠がいま注目する“ふたつのSE”。JBL「4312SE」とOCTAVE「V110SE」を聴く

2017/01/30 藤岡誠
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OCTAVE「V110SE」

ドイツのOCTAVE(オクターブ)の真空管方式新型プリメインアンプ『V110SE』(¥1,100,000・ラインレベル/税抜)も、型番末尾に“SE”を付加させているが、このSEは限定モデルを意味するのではなく、これまで採用されたことがなかったコンセプトを持っていることを象徴している。基本的には旧「V110」(¥930,000/ラインレベル・税抜)の後継型の位置づけであり諸元も酷似しているが、大きく異なるポイントが二つある。


OCTAVE「V110SE」
1つは、真空管アンプの歴史上で初めて3種類の初段管(双3極管)の差し換え(標準×1、付属×2)によって、DF(ダンピングファクター)や増幅度の微妙な変化を使用者の誰もが聴こえで確認/認識することができ、その上で愛用スピーカーシステムとのベストマッチングを探ることができることだ。初段管の差し換えによる音質・音調はドラスティックな変化はないが、その微妙な変化をも重視する姿勢がいかにもOCTAVEらしいと思うのだ。

もう1つは回路を知ればわかるが、旧V110ではライン入力端子と初段管の伝送経路間に利得を稼ぐための+10dBのOPアンプが介在しているが本機はそれを排除し、真空管のみのストレートな伝送・増幅になっていることだ。私はこのOPアンプの排除が直接的に本機の高音質化に結びついていると考える。

回路構成は基本的に旧型を踏襲。出力段は5極管出力管のKT120プッシュプル。例によって、調整が容易な固定バイアス回路によってKT88、6550、EL34(6CA7)などの類似した出力管を簡単に使いこなせる。スピーカー出力には個別のタップはなく2〜8Ωに対応する。

詳細は省くが例によって電源回路は比類がないほど凝っている。初段、位相反転、ドライブ管の各ヒーターはすべてDC(直流)点火。電源トランスと出力トランスは旧型と同一のタイプである。なお、初段管について具体的に示すと、出荷時に装填されている標準管としての(ECC81/12AT7)の他に、差し換え用として2球(ECC82/12AU7とECC83/12AX7)が付属している。


背面端子部
機能はシンプルそのもので、トーン/バランスコントロールはない。ライン入力はRCA×4、XLR(2番HOT)×1。XLRにはOPアンプが介在する。付属リモコンは音量調整専用。仕上げはシルバー/ブラックが用意されている。MCカートリッジ専用フォノEQ機能を内蔵する“フォノモデル”もラインアップされ、価格は1,170,000円(税抜き)だ。MMカートリッジ専用は特注。もちろん、いずれの仕様にも着脱自在な真空管保護カバーと出力管KT120(1球)が付属する。

簡単に聴こえに触れるが、3種類の初段管の差し換えによるDFやSN感の違いは微妙な差異でドラスティックな変化はない。人によってはその微妙な変化に価値を見出すこともあるだろう。いずれにせよ、今までほとんど無視されていた項目を掘り起こしたという意味で敬意を表したい。一層に深く真空管アンプを知りたい人にとって参考になるだろう。


真空管カバーを装着したところ
もちろん、真空管アンプで厄介な残留ハム・ノイズは極少だから安心されたい。また、繰り返すが前述したOPアンプの排除は本機の聴こえを確実に向上させ、高域方向に雑味がないし繊細感は確実にアップ。空間再現性もナチュラル。とにかくトータルで高純度だ。

従来からの出力管のバイアス調整に加え、3種類の初段管の差し換えによるDFやSN比の聴感上の違いの検出によって、愛用のスピーカーシステムがこれまで以上に素晴らしい音質・音調になるかも知れない。このように本機は、微妙なシステムアップの可能性を秘めた真空管アンプである。

操作上で難しいことは何もない。付属の操作マニュアル(取扱説明書)に従えばそれでいい。また、本稿以上の詳細は輸入元の(有)フューレンコーディネートのサイトやカタログ等を参考にされたい。

最後に、別売の「BLACK BOX」(¥163,000・税別)、あるいは「SUPER BLACK BOX」(¥430,000・税別)という強化電源ユニットを組合せると、画期的にダイナミックレンジが拡大する。その変化は、初段管の差し換えの比ではないから、資金に余裕がある方には強くお薦めしたい。

(藤岡誠)

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