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開発者へのインタビューも収録

Bricasti Design「M1 SE」を聴く ー 現代のリファレンスたる音質を備えたDAC

2016/12/30 岩井 喬
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レキシコンやマドリガルの血脈も受け継ぐ

やや話が本線から逸れてしまったが、ここで軌道を戻そう。M7発表から5年余り経った2011年。次なるプロダクトとして発表されたのはプロ機ではなく、民生機として開発されたハイエンドDAC「M1」であった。ブライアン氏は民生機市場参入の理由について、以下のように語っている。

ブライアン氏は、民生オーディオとプロオーディオは両輪であるべきと語る

「私も以前からオーディオの世界が好きでしたし、民生オーディオとプロ機の世界は両輪であるべきだと考えています。70年代にはスタジオ・エンジニアとして勤務していましたが、レキシコンに就職した80年代以降は業務が忙しく、なかなかオーディオでじっくりと音楽を楽しむことはできませんでした。

おかげさまでM7は世界的な標準機として成功を収めましたし、ハードウェア型リヴァーブとしてこれ以上のものはないと自負しています。しかし、これは言い換えれば自分たちの市場が日々狭くなっていくことと同義であり、新たな一手を考える必要があったのです。そこで改めてコンシューマーの世界への回帰を実践しようと考え、M7で評価の高かったDAC及びアナログセクションをもっとよい音にしてハイエンドDACにまとめることにしたのです」(ブライアン氏)。

M7の特徴となっていたのが2dBステップのインプットレベル・コントローラーであり、この精度の高さはリヴァーブとしてはオーバースペックで、プリアンプとしても使えるほどのクオリティを持つ。多くのハードウェア型デジタル・リヴァーブはアナログ入出力を用意しており、既存のアナログコンソールとの親和性を高めている。ゆえに内部にはA/D・D/Aコンバーターが内蔵されているのであるが、M1はこのM7におけるDAC部のクオリティアップに着目したというわけだ。

レキシコン在籍時代には、近年のマーク・レビンソン黄金期を支えたマドリガル・ラボとも密接に関わっていたそうで、その技術や思想を継承するエービー・ラボとも協業し、ブリキャスティ・デザインの製品はできあがっているという。

ちなみに共同設立者であるケーシー氏も元はマドリガル・ラボのメンバーであり、ソフトウェア設計を担当していたそうだ。M1 SEのどことなく“マーク・レビンソンらしい”フロントフェイスのデザインはブライアン氏によるものだそうだが、そうした背景を知るに触れ、連綿と受け継がれてきた血統がこのDACにも流れているのだと感慨深く思う次第だ。

完全なる左右独立モノコンストラクションを採用

M1のポイントのひとつに、完全な左右独立モノコンストラクションの採用がある。DACやアナログ段、電源部に加えて、DDS(ダイレクト・デジタル・シンセシス)を利用して低ジッターを実現したクロック部までを左右独立構成としている。

DACチップはM7でも使っていたアナログデバイセズ社製「AD1955」を2基積み、モノラルモードで駆動。USB入力は384kHz/24bit PCM、および5.6MHz DSDに対応した。

なおAD1955はモジュレーションのみに用い、PCM用には独自開発のリコンストラクション・アンチエイリアス・フィルターを、さらにDSD用には2コアDSPを使ったポストフィルターによるリコンストラクション処理を行っている。なおこのDSPは左右に配した超低ジッターなフェムトクロックの同期制御も担っているという。またDAC基板には高周波領域の低損失基板用素材であるARLON社製ガラス・セラミック含有熱硬化性樹脂「Arlon 25N」を導入した。

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