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低音調整機能でどこでも快適サウンド

ゼンハイザー「HD 630VB」レビュー。同社初の密閉型ハイエンドヘッドホンの実力とは?

公開日 2016/05/10 10:23 山本 敦
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■ハイレゾ対応ポータブルプレーヤー「Pono Player」と組み合わせてみる

PonoPlayerでハイレゾを聴く

最初にハイレゾ対応のポータブルオーディオプレーヤー「Pono Player」との組み合わせから聴いた。上原ひろみのアルバム「SPARK」から『Wonderland』では、低音の量感をMAXに近づけるほどベースのしなやかさに磨きがかかり、軽やかにステップを踏み始めた。ドラムの低域も重厚ながら、音像がシャープで定位にブレがない。余韻もふくよかに広がり、残響も清々しい。ドラムセットのハイハットやライドもきめ細やかな音の粒子をふわっと空間に広げる。その余韻の切れ味も爽やかだ。低域を少し強めると、トリオの演奏全体の音のつながりがよりスムーズになって、ピアノの主旋律がますます朗々と歌い始めた。ピアノの低音のエネルギーが無駄なく引き出せる満足感が心地良い。

上原ひろみ『SPARK』

ダフト・パンク『Get Lucky』では、室内で聴くぶんには低域のバランスは中くらいの位置がベスト。アウトドアではもう少し多めに乗せても良いと思う。鮮度の高いボーカルやピアノの濃厚な和音、ハンドクラップやギターのコードカッティングの切れ味はそのままに、低域の厚みだけが歪まずにシフトしていくので、EDM系の音楽にとって大事なビートの切れ味やスピード感がもたつくことはない。

トロンハイム・ソロイスツ楽団とニーダロス大聖堂少女合唱団による「MAGNIFICAT/Et misericordia」(キム・アンドレ・アルネセン作曲)では、室内で聴く場合は低音の量はMIN(ミニマム)でもよかった。ダイアルを少し低域アップの方向に回すと、オルガンに弦楽器、コーラスの音色が包みこんでくるようなサラウンド感が高まってくるので、好みで少し足ししてもいいと思う。主旋律のソプラノは声質がまさに絹のように滑らかで、背筋がゾクっとするような生々しさと親密な距離感が真に迫ってくる。合唱団のハーモニーはディテールがはっきりと目にも見えるほど情報量が豊富だ。主旋律に負けないほど芯の力強さも持っている。高域は伸びやかで、余韻の消え入り際まで澄み切っている。

渡辺美里の「eyes -30th Anniversary Edition-」から、アルバムタイトル曲の『eyes』では、エネルギッシュなボーカルがガツンとぶつかってくるような衝撃を味わった。ダイアルをMINの側に回すとボーカルの音像がキリッと引き締まり、反対にMAXの側に回すとバンドサウンドの一体感がグッとせり上がって全体の底力が飛躍する。エレキベースやドラムスが刻むリズムも躍動感が前に押し出されてきた。どの位置に合わせても全体のバランスが破綻することがなく、あとはリスニング環境に合わせて調節すればいい。

渡辺美里『eyes -30th Anniversary Edition-』

それにしても、HD 630VBの基本的なパフォーマンスがいかに高いか、楽曲を聴き込むほどに思い知らされた。並のヘッドホンでこの曲を聴くと、コーラスやシンセサイザーの分厚い和音が固まったままほぐれないことに苛立ちを感じることもあるが、HD 630VBではすっと解ける爽やかなハーモニーに包まれた。

エレキギターのサスティーンもありふれたヘッドホンで聴くとうるさいだけに感じられてしまうが、HD 630VBでは同じエレキのサウンドがとても立体的で色も鮮やかに聴こえた。このギターのフレーズが、曲に空間的な広がりと奥行き感をつくり出す重要なパートを担っていることを改めて思い知らされた。レコーディングから30年以上の時が経っていることを、まったく感じさせないほどの生々しさにすっかり酔いしれてしまい、1曲ずつ最適な低音の位置を微調整しながら、気が付けば夢中になり、何度もアルバムを繰り返し聴いていた。

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