長年の愛用者がその魅力を探る

ウィーン・アコースティクス「Beethoven Concert Grand Symphony Edition」の進化を探る

貝山知弘

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2015年12月16日

音質本意にデザインされた本機の奥深さ

音元出版の試聴室に持ち込まれた本機と再会した時、懐かしい記憶が蘇ったのは言うまでもない。この最新作は3ウェイ5ユニットのバスレフ機で、キャビネットの幅は前作と同じである。

最初のディスク、ヒラリー・ハーンの『モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第5番』が流れ出した時、進化を遂げたサウンドの見事さに驚いた。これについては後ほど述べることにする。

ニューモデル「シンフォニー・エディション」の進化点は随所にあるが、大きな効果を上げているのは、ネオジウム・マグネット+シルクコーンを採用した新しいトゥイーターユニットである。これは上級機「リスト」を作った際の技術を応用したものだというが、最高域まですっきりと伸び、付帯音のない低歪みの高音再生が可能になった。演奏細部の微細な変化を表出できるようになったのもこのトゥイーターのおかげだ。

本機に採用されたシルクドームトゥイーターは、新たにネオジウム・マグネットを採用し大幅に強化。さらに磁気回路には磁性流体を注入し、より繊細なチューニングを施している


重低音のエネルギーが高くなり力感と締まりを両立


TPXをベースに3種類のポリプロピレンを配合した独自の高性能樹脂〈X3P〉を使ったミッドウーファー&ウーファーのコーンは軽くて強い理想的な素材の見本。そのコーンを蜘蛛の巣状のリブで補強しているのは以前から採用している独自の発想だ。低音部で変わったのは、ウーファーのクロスオーバー・ボイントを50Hz引き下げ100Hzに設定したことだ。これは振れの大きいウーファーコーンの変形を特定の周波数内に止めることで、低音域の歪みを低減するのに効果的だ。

ウーファーも独自の高性能樹脂X3Pを新たに採用。クモの巣状のリブで振動板を補強する「スパイダーコーン」を継承しつつ、より剛性の優れたユニットへと進化

完全リニューアルされたクロスオーバーネットワーク。ミッドレンジが受け持つ帯域は50Hzほどローエンドへ拡大させている

大きく進化したのは再生スピードが早くなった点と28Hzまで延びた重低音のエネルギーが高くなり、力感と締まりが両立した低音再生が可能になったことだ。音の解像度についてはトゥイーターでの改善が大きいが、他の音域でも改善が感じられる。このあたりは、コーンの剛性を強くするための塗料の塗り方によって微妙に変わる。これは手作業の効果が現れやすい部分だ。


●「シンフォニー・エディション」の音質
弦楽器の再現力が進化し、ニュアンスを克明に再現


ニューモデルの音質について詳述することにしよう。試聴に用いたディスクの大半はクラシック曲だ。前記ヒラリー・ハーンのディスクで分かったことは、弦楽器の再現能力が非常に高いこと。基本的な表現の傾向は以前と似ているが、その度合いが大きく進化していた。

このことは第一楽章のカデンツァを聴くとよく分かる。ヴァイオリン・ソロの演奏なので、曲の隅々までくまなく聴きとれたが、好ましいと思えたのは、張りのある音でもしなやかな感触が維持され、テンションの強い部分でも高音域で音が突っ張ることがなく違和感がうまれないことだった。一般的にヴァイオリンの高音では音が突っ張りやすいが、ハーンほどの腕になると、テンションが張った部分でも、決して刺激的な音は出さないのだ。

ヴァイオリンの再生では、このあたりの微妙なニュアンスは、克明に再生して欲しいが、このニューモデルでは、これらの事象がはっきりと分かる。低音域に関しては、音の締まりと力感がきちっと表出できるうえ、ハイスピードを維持できることだ。ここでいうスピードとは音が立ち上がるまでの早さと、立ち上がった音が静まるまでの早さだ。音が立ち上がれば、コーンは大なり小なり瞬間的に変形するが、その変形はできるだけ早く原型に戻る必要があるのだ。変形が続くと、たちまち付帯音や歪みが現れるからだ。


3基のユニットを等間隔配置。定位が乱れる心配も解消


以前の「T3」では、ウーファーをエンクロージャー下辺の近くにセットしていた。その時の配置では、ボトム・ウーファーとミッドレンジ・ウーファー間の距離が離れ、上下方向の音像定位に隙間があると感じられる傾向があった。一方で新しい「シンフォニー・エディション」では、3基のウーファーが等距離で取り付けられており、定位が乱れる心配はなくなっている。脚の部分も高さの微調整が可能となり、スパイク自体と取り付け金具の強度が増している。

スピーカーベースはアルミダイキャスト製を新規に採用。このスパイクの高さを設置環境に合わせて微調整することで、低域をコントロールすることが可能

「T3」と同じなのは、入力端子がシングル式なこと。これはクロスオーバーネットワークの特性に自信がある証左だ。理に適うところは残し、理に適わぬところを修正していく同社のポリシーが伺える一点だ。しかしネットワークのコンデンサーや抵抗器、そしてターミナルはぐっと上質なものに換えている。ここからは、よきものは進んで取り入れるという姿勢がはっきり分かる。

スピーカーターミナルはシングルワイヤリング方式。これはクロスオーバーネットワークの特性に自信があることの表れともいえる

本機にはエンクロージャーの色が異なる4モデルが用意されている。色はローズウッド、チェリー、ピアノブラック、ピアノホワイトの中から選択する。基本的に実質を重視した製品だが、縦長で奥行きが深いすっきりとしたルックスからは、虚飾なく音質本意にデザインされた本機の奥深さが感じ取れる。

1台60万円と言う価格は非常にリーズナブルである。ディスクソースにしろ、ハイレゾソースにしろ、本格的再生に取り組もうとする人には必ず聴いてほしいニューモデルだ。私は本年度の「オーディオ銘機賞」でも金賞にふさわしいスピーカーだと思っている。



VIENNA ACOUSTICS
スピーカーシステム

Beethoven Concert Grand Symphony Edition
¥600,000(1台/税抜)

Specification
●型式:3ウェイ5スピーカー●ユニット:2.8cmスキャンスピーク製ハンドコーデット・ネオジウムシルクドームトゥイーター、15.2cm X3Pミッドウーファー、17.8cmX3Pスパイダーコーンウーファー×3●周波数特性:28Hz〜22kHz●クロスオーバー:100Hz/2.6kHz(6dB/oct)●感度:91.0dB●インピーダンス:4Ω●推奨アンプ出力:50〜300W●サイズ:300W×1140H×400Dmm(スパイクスタンド含む)●質量:32.5kg(1台)●取り扱い:(株)ナスペック

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