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B&O PLAY「H2」レビュー:上質なボディ、上質なサウンド。老舗の技術が活きた新ヘッドホン

公開日 2015/03/09 10:00 山本 敦
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「H2」のサウンドをチェック


H2をPonoPlayerで試聴した
本機のサウンドはPonoPlayerをリファレンスに、ハイレゾの楽曲を中心に試聴した。宇多田ヒカルの「First Love」から『Automatic』では、宇多田の初々しいボーカルが持つ煌めき感と、陽のエネルギーがぐんと前面に押し出される。ボーカルとの距離感が近く、口元の細かな動きの描写力にも長ける。息づかいやビブラートの躍動感も生々しく再現され、そのフレッシュさに思わず気分が高揚するリスニング体験だった。

ボーカルを中心としたバックバンドの演奏はタイトに引き締められている。むやみに音場を広く取らず、敢えてタイトに絞ることでエネルギー感を前面に強調する音づくりであるように感じた。シンセサイザーやエレキギターの音色もインパクトが力強く、小音量で聴いても音像はくっきりとして鮮やか。低域はリズムが正確に再現され、余韻もすっきりとして爽快だ。ベースラインのグルーブをスムーズに描きながら、空気の力強い押し出しとともに量感もたっぷりとある。ロック、ポップス、ダンスミュージックなどビートの効いた楽曲にとても相性の良いヘッドホンだと思う。

ビル・エヴァンス・トリオの「Waltz for Debby」から、タイトル曲の『Waltz for Debby(Take2)』も、本機で聴き込むほどにワクワクさせられたタイトルだ。ピアノのメロディラインは余分な脚色がないが、音の鮮度が高くエネルギーを引き出す力に長けているので、リアルな演奏にぐいぐいと引き込まれてしまう。天然ものの食材を、味付けは控えめにして素材の素朴な味を楽しむような贅沢さに例えれば、少しニュアンスが伝わるだろうか。ウッドベースの音はぷりっとした弾力感に満ちている。ドラムスの演奏は、ハイハットやスネアなどブラシがヒットする打面の素材感までが生々しくイメージできる。アタックは力強くスピード感もあり、タイトで小気味の良いリズムが刻まれる。

ボーカルの鮮度はノラ・ジョーンズの「Come away with me」から『The Nearness of You』を聴きながらもう少しチェックしてみた。ボーカルが耳から体の隅々へすうっと染み渡っていくような清涼感。夏の暑い日に冷たい飲み物で喉を潤した時のような心地よさだ。やはり息づかいやビブラートのディティールが自然に再現され、色づけのない素直な声が伝わってくる。アコースティックピアノの伴奏はボーカルとの距離感が近いものの、一体感あふれる演奏としてこれはこれで楽しめる。

ミロシュ・カルダグリッチのアルバム「Latino Gold」から『Barrios Mangore: Un Sueno en la Floresta』を聴いて、アコースティック楽器の再現性も確かめた。アタックが素直で自然なので、指の動く様もストレートにイメージとして伝わってくる。サスティーンは歪みがなく、消え入り際まできれいに伸びる。低域のアタックはタイトで、余韻はすうっと静寂に溶け込んでいくような潔さがある。弦が爪弾かれて音が生まれる瞬間をリアルに思い浮かべることができる演奏だ。

最後に「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 アレクシス・ワイセンベルク/ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリンフィル」のピアノコンチェルトから『第1楽章:モデラート』を聴いた。冒頭からピアノのアタックが力強く描かれ、弦楽器の和音が力強いメロディラインを伝えてくる。金管楽器は少し派手めで煌びやかな音色。ピアノの旋律は粒立ちが鮮やかで、強弱のタッチを巧みに描き分ける。タイトな弦楽器や打楽器の低域が演奏の緊張感を高める。フォルテッシモのパートは音が飽和せずに、全ての楽器の音色が濃く鮮やかに表れる。音像の明瞭度が失われることなくキリっとしたハーモニーを再現する。

B&O PLAYのオフィシャルサイトには「あなたの個性を引き立たせるためにデザインされた」ヘッドホンであると紹介されていたので、よほどキャラクターの濃いヘッドホンなのかと思っていたが、それは筆者の完全な誤解だった。「H2」はヘッドホンが個性を主張するのではなく、好きな音楽やリスニングスタイルに寄り添いながら「ユーザーの個性」を引き立たせる最良のパートナーだった。音楽リスニングによる感動と新たな発見、エモーションを喚起させられるヘッドホンだ。

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