HOME > レビュー > ライブをオーディオで同時再生。「Live Magic」の取り組みをオーディオ女子が潜入レポ

ピーター・バラカン氏による音楽フェス

ライブをオーディオで同時再生。「Live Magic」の取り組みをオーディオ女子が潜入レポ

公開日 2014/11/07 19:13 小川嘉奈子
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
さる10月25日、26日の二日間、音楽の伝道師ピーター・バラカン氏がオーガナイズする音楽フェスティバル「Peter Barakan's LIVE MAGIC!」 が恵比寿ザ・ガーデンホールにて行われた。海外からは、ジェリー・ダグラスやジョン・クリアリーなどの大物アーティスト、国内からは細野晴臣、高橋幸宏の大物に加えて、現在話題沸騰の孤高のブルースギタリスト濱口祐自や、ガレージブルースバンドのMONSTER大陸など、ピーター・バラカン氏選りすぐりの総勢15組ものアーティストが出演。そのライブを二日間の長時間に渡って堪能出来る、音楽業界今年最大の話題のイベントといえるだろう。

2014年10月25日、26日に開催された「Peter Barakan's LIVE MAGIC!」の様子。同会場で音楽業界にとって画期的な試みが行われた(Photo by Hiroki Nishioka)

主催者は「音楽の伝道師」ピーター・バラカン氏。自身もステージに上りトークでイベントを盛り上げた(Photo by Moto Uehara)

今回、このPeter Barakan's LIVE MAGIC! で、オーディオ界にとって画期的な試みが行われた。それはライヴ演奏をオーディオ装置で同時に再生するというものだ。おそらく世界初となるこの試みを実現させたのは、アコースティック・リヴァイブ、ナスペック、シンタックスジャパンの3社である。

イベントで行われるライヴを同時に2chのオーディオシステムで再生するという試みを実施。スピーカーにはウィーン アコースティクスの「Mozart Grand Symphony Edition」が使用された

今回、同時再生用の機器としてエントランスで使用されたのは、ナスペックが扱うウィーン アコースティクスのスピーカー「Mozart Grand Symphony Edition」とプライマーのプリメインアンプ「I22 with DAC」。さらにヘッドホン再生も実施し、ヘッドホンアンプにはプロジェクトの「Head Box DS」、ヘッドホンにはシュア「SRH1840」が使用された。

ヘッドフォンでの再生環境も用意。ヘッドフォンアンプにはプロジェクトの「HeadBox DS」、ヘッドフォンにはシュアの「SRH1840」を使用

ルームチューン、電源環境、ノイズ対策等はアコースティック・リヴァイブの製品を活用した

また、これらをつなぐオーディオケーブルやヘッドホンケーブル、各種アクセサリーにはアコースティック・リヴァイブの製品が使用され、 ルームチューン、電源環境、セッティング、ノイズ対策など完璧な環境が整えられた上でこの画期的な試みが行われた。また、ROOMステージで行われた6chサラウンド再生は会場の都合もあり、PAスピーカーを流用して行われた。

今回のライヴ同時再生が可能となった背景には、最低限の機器での運用を可能としたRMEの製品の存在がある

ROOMステージでは、PAスピーカーを流用した6chでのサラウンド環境でライヴを同時再生した

単純にライヴ演奏を同時再生、といっても簡単なことではない。この極めて困難な作業をクリアしたのはシンタックスジャパンのチーム。ヴォーカルや楽器などの音はPAから分配し、ステージ上左右に4mの高さで細かい音を収録するためのマイクが設置され、会場中央付近の天井には、会場全体の空気感や雰囲気を収録するためのマイクを十字状に4本設置。さらに会場後方の天井には、観客の拍手やざわめきを収録するためのマイクが2本設置された。

細かな音をピックアップするために4mの高さステージ上左右に設置されたマイク

こちらは会場後方に設置された観客の拍手や歓声を収録すべく用意されたマイク。この他、会場中央の天井には、会場全体のアンビエンスを収音するためのマイクが設置されている

これらのマイクからピックアップした音は、天井裏通路に設置されたRMEのマイクプリアンプ「DMC-842M」(デジタルマイク用)およびRME「OctaMic XTC」(アナログマイク用)にてデジタル化して光MADI信号へと変換し、100m以上離れた別部屋へMADI伝送が行われ、そこで6chサラウンドミックスと2chステレオミックスを行っている。

天井裏にはRMEのマイクプリ「DMC-842M」(デジタルマイク用)と「OctaMic XTC」(アナログマイク用)で光MADI信号に変換され、コントロールブースへ送られる

廊下を通るMADIケーブル。MADIシステムだからこそ、多チャンネルでの長距離伝送を少ないケーブルで行うことが可能となった

6chサラウンドはPAシステムに接続し再生、エントランスに設置された2chステレオには、そこからさらにMADI光ケーブルで送られ、RME「ADI-642」にてMADIからAES/EBUへと変換。アコースティック・リヴァイブのAES(XLR)-S/PDIF(RCA)変換デジタルケーブルを使用し、プリメインアンプとヘッドホンアンプ内蔵のDAコンバーターへ送り込まれるという、とてつもなく大掛かりな構成となっている。

コントロールブースからさらにMADIケーブルを使用してRMEのフォーマットコンバーターADI-642でAES/EBUに変換され、DACへ送られる

ADI-642からの信号はDACボードを内蔵したプライマーのプリメイン「I32」+「MM30」へと送り込んで再生

ミックスを担当した入交氏によれば、本来クラシック演奏などに利用されることが多い恵比寿ザ・ガーデンホールでのミックス作業は、残響成分過多でマイクセッティングによる残響コントロールが非常に難しく苦労したとのことだ。しかし、同時再生された6chサラウンドミックス、そして前述のオーディオ機器で同時再生された2chミックス共に大変素晴らしい仕上がりで、そのハイクオリティなサウンドは来場した音楽ファンの度肝を抜くこととなった。

ミックスを担当したのは毎日放送の入交英雄氏。残響の多いホールの特性をコントロールし、ハイクオリティなサウンドを生み出していた

特に印象的だったのは、普段はオーディオに接することの少ないであろう音楽ファンや女性ファンが、ロビーのオーディオシステムが奏でる、ハイクオリティなサウンドに足を止め、聴き入っていたこと。徹底的に追い込まれた2chオーディオシステムのLIVE同時再生のサウンドを聴いた来場者からは、「まるでヴォーカリストがそこで歌ってるみたい」「ステージがそこに見えるよう、空気まで感じる凄いリアリズム」「音圧重視のPAの音よりもずっと心地良い。音はこっちの方が好きだし、ずっと聴いていたい」など、驚嘆の声が上がっていた。

ライヴ再生を行っているオーディオの音を聴く来場者達。良質な音楽リスナーへ良質な音で音楽を聴くことの重要性をアピールした

そもそもPeter Barakan's LIVE MAGIC! は「大人のための音楽フェス」をコンセプトに、長年にわたって国内外の良質な音楽を各メディアにて紹介しつづけているピーター・バラカン氏の、都会の中でゆったりとした雰囲気を楽しんでもらいたい、という願いから実現した企画だ。

そんな音楽好きの大人が集うフェスにおいて、今回のライヴ演奏をオーディオ装置で同時再生するという試みは、良質なオーディオ再生の重要性を、良質な音楽リスナーに強く印象づけることになったのではないだろうか。

アコースティック・リヴァイブ、ナスペック、シンタックスジャパンによれば、音楽とオーディオを融合させるための今回のような試みを続けて行くとのこと。今後も大いに期待したい。


●著者プロフィール
小川嘉奈子
Kanako Ogawa

あらゆる音楽ジャンルに精通し、オーディオも音楽的リアリティを追求するリアルオーディオ女子。音楽業界との人脈を活かしてさまざまな音楽制作活動をレポートし、オーディオと音楽の融合を目指している。本業はWEBデザイナー、趣味はオーディオの他にピアノ演奏、カメラ、料理など。好きなアーティストはトム・ウエイツ、ジョン・リー・フッカー、チャーリー・パーカーなど。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE