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【特別企画】4K配信コンテンツの実力は?

連載第2回:「ひかりTV 4K」の画質に貝山知弘&山之内正が迫る

2014/09/09 貝山知弘・山之内正
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NTTぷららが運営するIPTVサービス「ひかりTV」が日本で初めて商用サービスを開始する予定の4K VOD配信。同サービスや同社の概要および特徴を紹介した前回(関連記事)に続き、いよいよ今回は4Kコンテンツの画質をチェックする。

オーディオビジュアルのアワード「VGP」審査委員長である貝山知弘氏、同じくVGPの副審査委員長を務める山之内 正氏の2名の評論家が、ひかりTVの4Kを体験した。

貝山知弘氏

山之内正氏



「ひかりTV」はNTTぷららとアイキャストが運営している映像配信サービスである。ひかりTVでは今年の4月8日から光回線を通じて4K映像によるVODのトライアル配信を、6月27日より4K映像のIP放送のトライアルを始めている。ひかりTVが予定しているスケジュールではVOD配信の商用化は今年の10月開始を目指し、商用IP放送については今後検討することになっている。現在は、次世代放送推進フォーラムが運営しているNexTV-Fの「Channel 4K」と、ひかりTVの自主放送「ひかりTV 4K(仮)」を放送している。


今回の4K VOD商用サービスでは、「フレッツ光ネクスト(商用網)」上で4K映像を配信し、4Kチューナー内蔵テレビもしくは今後開発される4K対応STB(セットトップボックス)を通して視聴できるようになる。動画のデータ圧縮方式規格はH.265/HEVC。現在使われているH.264/MPEG-4 AVCと比較すると約2倍の圧縮率を持っており、それだけ高解像度の映像を送ることができる。

今回の視聴にはトライアル配信で用いている試作STBを使用。実際のサービスイン時にはもっと小型化されるなどの改良が加えられる予定だという

動画圧縮では画像を複数のブロックに分けてから圧縮している。これを再び一つの画像に纏める段階でブロック間の境界部分でノイズが発生しすいが、H.265/HEVCではそれを除去する仕組みが強化されているので安心できる。NTTぷららでは、NTT研究所の協力を得て、H.265/HEVCエンコード技術の評価、画質調整を行ってきた。

視聴前には同社スタッフへの取材も

■「4K映像の長所が強調感のないごく自然な映像の中で得られている」


過日、わたしは池袋サンシャイン60にあるNTTぷららに出掛けた。ひかりTVの4K VODトライアルで提供されているコンテンツの実力をチェックするためである。AVの評論に携わる者としては、配信や放送で送られるコンテンツの内容と映像のクォリティを知ることも重要な課題となるからだ。わたし個人で考えても自宅に4Kプロジェクター(ソニーVPL-VW1100ES)を導入したばかり、新作のBDと手元にあるBDを再生して楽しんでいるが、ネイティブ4Kの映像が見られるようになるのは、なによりの喜びだ。

当日案内された部屋には、4K対応STBの試作機が接続されたシャープの4K液晶テレビ「UD20ライン」が用意されていた。まずひかりTVが意図する4K配信の説明と、現在用意されているコンテンツの概要を聞いた後に視試を開始した。

シャープ“AQUOS”「UD20ライン」で視聴を行った

現在、トライアル配信で流されている4K-VOD作品は、NHKエンタープライズが製作したひかりTV独占配信の作品『高度8000mからの日本列島』『微速度映像の新世界』『神々の住むバリ島』『和食の小宇宙』などがあり、ひかりTV製作のオリジナル作品では『相撲 4K』『宮里美香 shot in 4K』(ゴルフ)、『Nine stiries about Hands』『下町ボブスレー(完全版/ショート版)』『BEHIND THE SCENES OF STAR*DOME』などがある。

情景を撮影した作品で見応えがあったのはNHKエンタープライズが製作した作品である。特に『高度8000mからの日本列島』は、日常的には見る機会がない視点で撮影した空からの大俯瞰映像だ。超ロングショットと言うべき映像の鮮明さが4K映像の解像度の高さを表している。食べ物の映像はすでに見慣れたものだが、4K映像(「和食の小宇宙」)では、細部までが克明に表出されたことが欲を誘う。これは4KマスターのBD『アラビアのロレンス』の熱砂の砂漠の映像を見た時、喉の渇きが襲うのと同じ〈体感〉である。現実感の高い鮮明な映像は人間の生理現象にも繋がるのだ。

視聴中のようす

この日、わたしが特に興味を抱いたのは、ひかりTV製作のオリジナル作品だった。この中にはスポーツを収録した作品が多かったが、相撲やゴルフ、ボブスレーなどを見ると、4K映像の特長が端的に活きる被写体であることを再確認できた。いずれも動きの速い映像なので、いわゆる動解像度の向上がどれだけ映像に反映されているかを判断するにはもってこいの被写体である。

また、これらの作品の4K映像では、力士や選手たちの動きの活き活きとした動きの感触が確認できた。動きの激しい4K映像を見た時の高揚感は、通常のハイビジョン放送では味わえぬリアリティがある。

ひかりTVの4K配信は、VOD配信でもIP放送でも、フレームレートは60/30/24フレームに対応可能である。60pへも対応しているため、上記のような動きの速いスポーツの映像でも画面が大きく乱れることはない。

わたしは被写体の動きが激しい映像やカメラの動きが速い映像を観る時には、フォーカスが合った部分を凝視して解像度の高さを見ようとするのではなく、動き全体を通しての雰囲気が視覚的にどう感じられたかということに注意を払うべきだと思っている。どんなスポーツでも「静から動」「動から静へ」という動きの変化があるが、そのリアリティが鮮明に感知できるかどうかを画面全体を見つつチェックするのだ。もちろん感覚は全開していなければいけない。

4K映像では画面を見ながら、自分もその場に居あわせるような感覚が襲うことがある。4Kのスポーツ映像では、被写体と背景との間の距離感がリアルに表出されると、そこで3D的な立体感が生まれることがあるが、今回の試聴では、その機会がいつもより多いと感じた。

ゴルフのグリーン上でのパットなどでは、グリーン上の微細な凹凸が見えることがある。パットに長けた人なら選手のような「読み」を楽しむこともできそうだ。これは私事だが、4Kプロジェクターを導入してから、家で競馬中継を観る機会が増えている。馬の体調を読む上で有益な体毛の状態がかなり克明に判るようになったからだ。

ゴルフの4K映像ではグリーンの微細な凹凸なども確認できた

ブラジルで行われたW杯の試合を撮った映像と、女性2人のボーカルの映像とをミックスしたソニー製作の4K映像『中島美嘉x加藤ミリヤ ミュージックビデオ』は、その斬新な感覚が印象的だった。

『下町ボブスレー』は、中小企業の面々が独自の技術で競技に使うソリの製作に挑戦したこだわりと強い意志を伝えるドキュメンタリーだ。わたしはこれを見ながら以前観たジャマイカ映画『クール・ランニング』を思い出していた。雪を観たこともなかった南国ジャマイカの男たちがオリンピックでボブスレーに挑んだ実話を映画化した作品である。『クール・ランニング』はコメディで、『下町ボブスレー』はドキュメンタリーだから当然作品のルックが違う。しかしそれ以上に違ったのはソリの質感や競技場の氷の走路の現実感だった。記憶の中にあるこの映画の映像は高画質とはとても言えないレベルだったが、4Kカメラでデジタル収録した『下町ボブスレー』の映像ではソリの質感が克明に表出され、氷の走路の現実感が強い。

今回、ひかりTVの4Kコンテンツを見て改めて感じたのは、『ネイティブ4K映像の魅力』であった。

煎じ詰めれば高解像度がもたらす精密感と、広い色域表現が表出される濃密なカラー表現の魅力と言うことになるが、こうした長所が強調感のないごく自然な映像の中で得られていることも見逃せない。一言で言えば映像の佇まいが魅力的なのだ。

これからの課題は、これだけ優れた技術に相応しい作品のあり方の探求にある。「美しさは色にあるのではなく色の調和の中にある」というプルースト流の感覚で言えば、精細さも色の美しさも優れた感性と結ばれてこそ真に活かされるのだ。

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