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【特別企画】1万字インタビュー+徹底試聴レポート

B&W新600シリーズはCMを超えたのか? D&M澤田氏インタビュー&試聴レポート

2014/05/22 レビュー:山之内正 インタビュー:ファイル・ウェブ編集部 小澤貴信
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■45周年モデル「PM1」のエネルギー吸収型防振プラグをウーファーに採用

「685S2」や「686S2」などの2ウェイ・モデルに採用されたケブラーコーン・ウーファーにも改良が加えられた。最大の改良ポイントは、「エネルギー吸収型防振プラグ」の採用だ。旧600シリーズでは、ウーファーのセンター部に「フェイジングプラグ」という砲弾型プラグを採用していた。磁気回路の上にフェイジングプラグを固定するため、振動するのは周辺のコーンだけで、中央部は動かない仕様となっていた。

エネルギー吸収型防振プラグを採用したケブラーコーン・ウーファーを搭載する「686S2」

「スピーカー・コーンのネック側(中央側)から出る音は指向性が強いので、砲弾型プラグで反射させて音を拡散させていたのです。」と澤田氏は旧600シリーズで採用されたプラグの効果を述べる。

このフェイジングプラグの欠点は、プラグ部分がユニットと一緒に動かないことだという。小口径ウーファーだと、空気を動かす面積がわずかでも減るのはマイナス要素なのだ。そこで一般的にはセンターキャップをユニット中央に張るのだが、これにも問題がある。素材に柔らかいセンターキャップを使うと形状保持が難しく、固いものを使うと固有の音が出てしまう。大きなキャップを張れば、多くの情報を担うネック部分をマスクしてしまう。

「ネックをマスクしない。変形もしない。なおかつユニットと一緒に動いてくれる。それが今回採用したエネルギー吸収型防振プラグなのです」と澤田氏は語る。「発泡性素材のプラグをボイスコイルボビンの先端にはめ込んでいます。この方法だとスピーカー・コーンのネックは開放されているので、マスクされません。ウーファーの高域特性は保持しつつ、同時に空気を圧する面積を確保し、なおかつプラグは変形もせず固有音も持たない。まさに理想的なプラグなのです」。

ケブラーコーン・ウーファーの中心部に装着されたのが、エネルギー吸収型防振プラグだ

このエネルギー吸収型防振プラグは、B&Wの研究所の中でも最古参のピーター・フライヤー氏が40年も前に考案した技術なのだという。フライヤー氏はスピーカー技術者として著名な存在で、1970年代には英国のスピーカーブランドWharfedaleに在籍していた。このメーカーは、スピーカーの解析において最初にコンピューターを使い始めたことでも知られている。彼は当時から名の知れたエンジニアだったが、このWharfedale在籍時にこのプラグを思いついた。

しかし、この防振プラグは実際に量産されたモデルに採用された例もあったものの、長続きしなかった。当時はこのプラグの素材にエーテル系ウレタンしか使えなかったために、耐久性に問題があったためだ。

「彼自身、この防振プラグを考え出して40年も経ってから、再び採用されるなんて夢にも思わなかったと言っています。この方式をB&Wが最初に使ったのが、45周年モデル「PM1」(関連ニュース)です」と澤田氏。発案当時に問題になった素材についても、現在ではEVAを採用することで解決した。EVAは水分にも紫外線にも強く非常に安定した材料だ。ビーチサンダルとかお風呂場の発泡マットに用いる素材だという。

新旧600シリーズのミッドレンジ・ドライバーの特性を比較するグラフ

エネルギー吸収型防振プラグを採用したウーファーには、その名の通りの長所がある。「先ほど説明した通り、フェイジングプラグ方式のウーファーは磁気ギャップがオープンになっています。センターキャップがなく、ボビンの内側がそのまま見えます。こうした形状だと、ボイスコイルからの音がストレートに放射される反面、ボビン周辺の微細な振動や、コーンが前後した時に発生するエアーノイズなどもそのまま出してしまいます。通常のセンターキャップでは、マスクされてしまうような微細な振動まで全て放射されてしまうのです」(澤田氏)。

「ところが今回のウーファーは、ボビンに防振プラグが装着されていることで、エアーノイズの発生を防ぎ、細かな振動を防振プラグが吸収してくれるのです。よって、ウーファーの高域をシャープにカットする必要がなくなり、最低限のネットワークで済むのです」(澤田氏)。

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