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高橋敦が実力に迫る

【レビュー】ラックスマンの高級ヘッドホンアンプ「P-700u」を聴く

公開日 2012/12/28 17:05 高橋敦
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ブリッジ接続によるバランス出力を実現した、ラックスマンのハイエンドヘッドホンアンプ「P-700u」(関連ニュース)が満を持して登場。トップエンドのダイレクトリスニング環境を一台で可能にする本機の実力に高橋敦氏が迫る。

■どの音量ポジションでも劣化の少ない音量調節を実現

ラックスマンのハイエンドヘッドホンアンプ「P-1u」を単なるクオリティアップではなく全く新しい角度で進化させたという、新フラッグシップモデル、それが本機「P-700u」だ。近年のヘッドホンアンプとしては珍しいフルサイズのその筐体には、あらゆる面から音質を引き上げる様々な要素が詰め込まれている。

P-700u

最大のポイントはバランス駆動への対応。立ち上がりの速さや歪みの少なさが特長のラックスマン独自の高音質増幅帰還回路「ODNF」の最新バージョン3.0Aによるアンプ回路を、完全な同一規模・同一構成で4チャンネル分搭載。それをブリッジ接続することでヘッドホンのバランス駆動を実現する。

バランス駆動時には左右のCOLD信号が分離され、接続機器のアースの影響を受けることがなくなるため、左右のセパレーションが大幅に向上する。また信号がアースに流れることなく伝わるため駆動力が向上するなどのメリットを得られる。

また通常のアンバランス駆動時には、左右に各2チャンネルのアンプ回路を割り当ててのパラレル駆動で出力電流の供給能力を倍に増強。4チャンネルのアンプ回路をフル活用して音質を引き上げる。

もうひとつのポイントは、ソリッドステート方式の電子制御アッテネーター「LECUA」による音量調整システムを、ヘッドホンアンプとして初搭載したこと。電子制御によって固定抵抗を切り替えることで音量を調整するこのシステムによって、左右の音量のズレの極小化や、どの音量ポジションでも音質劣化の少ない音量調節を実現している。

またボリュームコントロールの面においては、ヘッドホンの感度に合わせたLOW/MID/HIGHの3段階の感度切替も搭載。例えばヘッドホンの感度が高い場合は感度切替をLOWにすると、ボリュームノブの反応が緩やかになって細かな音量調整がしやすい。そういった細かなところまで充実した内容だ。

背面端子部

まずはSHUREの「SRH1840」を組み合わせて聴いてみると、全ての音が実にビシッと揃っていてスピード感があることに感心。シンバルからバスドラムまであらゆる帯域の楽器の立ち上がりが素早い。おかげでリズムが正確で迫力も増している。

ベースの制動の確かさは特に際立ち、スパッと決まるスタッカートや音程が大きく動いても安定した音像など秀逸だ。バスドラムやフロアタムなど大太鼓の大容量感というか、空気の響きの豊富さもよい。

もちろん繊細な描写も優秀。ハイハットシンバルをソフトッタッチで優しく鳴らす場面での、弱音の抜けの良さといった部分もしっかりとしている。静かな場面でのピアノの響きも実にクリアで広がりも良い。ボーカルはシャープな成分も生かしつつ、嫌な刺さり方をするシャープさにはしない。

続いてはゼンハイザー「HD650」をアンバランス接続で聴いた後にバランス接続に変更してその変化を確認。なおバランス接続には別途、それぞれのヘッドホンに対応する専用のケーブルが必要だ。

明らかに高まるのはその空間性。静かな場面でのピアノやシンバルの余韻の響きの広がり方が素晴らしく綺麗である。響きの成分を豊かに感じられることで空間の広がりも増し、スペースが広がることで余白も生かされ、音場の見通しもすっとする。おかげで細かな音も埋もれることが少なくなり、全体の解像感も向上する印象。ひとつひとつの音の定位も左右をより広く使いつつより明確。例えばエフェクター(ディレイとコーラス)を使ったギタープレイの浮遊感もより強く感じられる。

また低音側の制動もさらに確かになり、ベースはブリブリとした肉厚な音色とスパッとキレの良いスタッカートを両立。総じて言うと、HD650の基本的な音調を変えることなく、空間性と解像感、音の明確さを高めてくれる。バランス駆動の威力は明らかだ。

ヘッドホンアンプとしては最高級の価格帯であるが、それを納得させるだけの説得力を持った製品だ。また現時点でこれだけ突出した力を持っているアンプであれば、今後長らく不満を覚えることなく使い込んでいけるだろう。思い切って導入すれば5年や10年後には「長年の愛用品」になってくれていそうな、そんなヘッドホンアンプだ。

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