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スペシャルレポート

独自技術が切り開いた新たなイヤホン・サウンド − JVC「FXD/FRD」シリーズ徹底試聴

公開日 2012/06/28 11:00 レポート/岩井喬
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JVCブランドから、カナル型イヤホンの新製品「FXD/FRD」シリーズが今夏新たに登場した。各製品に投入されている、ビクター時代からJVCが継承する高音質サウンドの技術に迫りながら、評論家の岩井喬氏が全機種を徹底試聴した。


写真右上「HA-FXD80」、左「HA-FXD70」、右下「HA-FXD60」
独自のサウンドチューニングによるリアリティに満ちたサウンド

HA-FXD80
¥OPEN(予想実売価格7,000円前後)

“FXD/FRDシリーズ”のトップモデルである「HA-FXD80」は『ダイレクトトップマウント構造』、及びブラスリングを用いた『デュアルシリンダー構造』とステンレス切削エンクロージャーによって、解像感の高さと豊かな低域の量感を兼ね備えている。

HA-FXD80

ケーブルのタッチノイズを回避するため「制振フィットブッシング」を採用した


専用設計のエンクロージャー先端にドライバーユニットを直接固定した「ダイレクトトップマウント構造」を採用

左側「マイクロHDドライバーユニット」をツインで搭載するFXT90との比較


左からFXD80/FXD70はメタルエンクロージャーを、右のFXD60はモールドのエンクロージャーを採用する

左側がFXT90、右側がFXD80のイヤーピース。形状も独自のものを採用している


L字型ステレオミニプラグを採用

FXD80の付属アクセサリー。キャリングポーチも付いてくる
さらに本モデルだけのチューニングとなるマイクログラス吸音材や、マルチポートによって音抜けの良さを確保。個々の音像分離に優れ、ボーカルの輪郭もきりっと引き立つ。特にサウンドのリアリティという点でも『デュアルシリンダー構造』や、マルチポートなどの技術が効果的に働いている。倍音成分を程良く抑制し、過度な装飾感を控え大人びた描写能力を獲得しているようだ。

FXD80はエンクロージャーにマルチポートやメッシュを設け、密閉型インナーイヤーモデルにありがちな音の曇りを解消している

FXD70のエンクロージャーとの比較



カーボンナノチューブ振動板マイクロHDドライバーならではの特色ともいえるのが、中低域の階調表現のリアルさである。押し出しの密度を持たせつつ、輪郭は引き締め、ベースとキックドラム帯域を的確に描き分ける様は、コンサートPAでいうところの“ラインアレイシステム”(指向性の鋭い中高域ドライバーを天井から吊り降ろし、サブウーファーをフロアに設置して分離良いサウンドを提供する現在のライブ音響において主流のスピーカーシステム)を彷彿とさせる、歯切れの良さを持っているといえよう。

FXD80のイヤホン部の構成パーツ

こうした低域はダイナミック型やBA型モデルでは出しにくい密度とキレの絶妙なバランスを持っており、他に代え難い充実感がある。

普段から用いているクラシック音源『ホルスト:惑星・木星/レヴァイン指揮・シカゴ交響楽団』では、管弦楽器のタッチが素直で分解能も高く、ティンパニの打感も芯があり、定位感を的確に感じられた。いわゆるモニター機のようなリアリティとは違うものの、妙な音の濁りが一切ない、バランス良いホールトーンを聴かせてくれる。もちろん上を求めればきりはないが、1万円以下で実現できるサウンドとしては非常にクオリティが高い。

ロックサウンドではその録音状態の善し悪しも素直に表現するものの、破たんしたバランスにはならず、聴きやすいまとめ方をしてくれる。先日お届けしたレビューでも取り上げた伝統的様式美のHM/HR『ライオット/ライオット』では、理想的ともいえるツーバスの連打とベースの描き分けと、キレの良いアタックの粒立ちを味わえたが、ハイスピードなギターのピッキングもレスポールならではのディストーションの甘い響きも、小気味よく響かせてくれる。ハイトーンボーカルも詰まりなく伸び、バンドアンサンブルと絶妙なコントラストを描き出す。


イヤホンを試聴する岩井氏
対照的に透明感ある女性ボーカル『Kalafina/光の旋律』では録音の良さもしっかりと反映され、リズム隊の密度とキレ、S/N良い音場の空間性、声の流麗なタッチを堪能できる。分離良くどこまでもすっきりと伸びてゆく高域の響きも涼やかで、自然に楽曲の世界に引き込まれる。

“FXD/FRDシリーズ”通して再生ジャンルを選ばないという希少な特色を持っている中、「HA-FXD80」はどの帯域でも過不足なく絶妙なバランスで音の密度を表現できるオールラウンダー的な存在であるといえよう。


高い解像感を持った煌びやかなサウンド

HA-FXD70
¥OPEN(予想実売価格5,000円前後)


HA-FXD70
「HA-FXD70」はステンレス筺体による『ダイレクトトップマウント構造』を採用したことで、不要な振動を抑え低域のタイト感も一層高まり、「HA-FXD60」と比べて圧倒的に解像度が向上している。

『ホルスト:惑星・木星/レヴァイン指揮・シカゴ交響楽団』ではホーンセクションが一層際立ち、弦の擦れもにぎやかだ。「HA-FXD80」よりも一際音像の至近距離で聴いているようなクローズアップ感が得られる。

低域の伸びも十分に深くスムーズで、レンジ感バランスも良い。いわゆる派手なサウンド傾向であるが、その分ゴージャスなロックサウンドには最適でもある。


FXD70のイヤホン部の構成パーツ
80年代の世界的ヒット曲『ヨーロッパ/ファイナルカウントダウン』の印象的なイントロのシンセサイザーもすっきりと切れ込み、リズムインのきっかけとなるスネアの鋭さも気持ち良い。ジョーイ・テンペストのどこまでも透明なボーカルも艶やかにパリッとしたハリを見せ、若々しく際立つ。リズム隊のアタックはタイトに響き、透明感の後押しとなる。ジョン・ノーラムのギターソロもシングルピックアップならではの滑らかな音色とともに、アンプトーンの厚みを感じさせながら、全体をソリッドに引き締め鮮やかな粘りを見せてくれた。

様々な音が混然となっている印象が強いアニソンの一つである『劇場版けいおん!』主題歌、『放課後ティータイム/Unmei♪wa♪Endless!』では派手なビートとフラッシーなギタープレイ、オルガン調のシンセも一つ一つ粒立ち良くキレある際立ちで、爽快な解像感が得られる。

本モデルでこの曲を聴いている限りは(非圧縮のWAVでリッピング収録)気持ち良いまでにスピードのキレと鮮烈なロックサウンドを提供してくれる。音の分離感も見事であった。「HA-FXD70」はシリーズの中では尖がった、メリハリ重視のサウンド傾向を持つモデルであり、様々な音楽ジャンルに対応しながら、特に80’sロックの煌びやかさにはベストフィットすると感じた。


優しく暖かみのあるサウンド。スマホ対応の操作性も良好

HA-FXD60
¥OPEN(予想実売価格4,000円前後)

HA-FRD60
¥OPEN(予想実売価格4,500円前後)


HA-FXD60

スマートフォン対応のマイク付コントローラーを搭載する「HA-FRD60」
もっともリーズナブルな価格帯で登場する「HA-FXD60/FRD60」は、樹脂モールド製エンクロージャーの性質もあり、穏やかな中低域の広がりを持っているので、比較的バラードソングと相性が良い印象だ。

中高域にかけてはハリの良い倍音感が豊かに感じられるが、音源本来の意図を変えてしまうほどのものではなく、耳当たりの良い煌めき感として表現している。

FXD60のイヤホン部の構成パーツ

80年代のビッグヒット・ロックバラード『ボストン/アマンダ』では、温かみあるアナログらしいふっくらとしたエッジでまとめ上げられ、ドラムやベースの弾力ある押し出しが耳馴染み良い。タムの胴鳴り感も豊かに響き、エレキやクリーントーンギターも滑らかな爪弾きを楽しめた。特徴的な爽やかで落ち着いた太さを持つボーカルは分離良く描写される。そしてボストンの定番といえるギターとコーラスの多重ダビングも包み込む深みがあり、終始穏やかなサウンドだ。

対して近代的な打ち込みのリズムを用いたスローテンポの楽曲として『やなぎなぎ/ビードロ模様』を聴いてみたが、シンセベースのリリースがゆったりと、そしてふくよかに伸び、せつなげなメロディを優しく包み込む。クリーントーンギターとエレピ、そして儚いボーカルをハリ良く艶やかに浮き上がらせ、楽曲への没入感は非常に高い。

この楽曲を「HA-FXD70」で聴くとリズムがタイトにビートを刻みクールな方向に印象がシフトする。優しさや温かみを優先するならば「HA-FXD60/FRD60」をチョイスした方が良いだろう。

FXD60のホワイトモデルはケーブルの色もホワイト。iPhoneのホワイトモデルともカラーマッチが図られている


「HA-FXT90」とキャラクターを比較。JVCイヤホンに魅力あふれるラインナップが揃った

最後にJVCのカナル型イヤホンの人気モデルである「HA-FXT90」も試聴して、FXD/FRDシリーズと比べながらそれぞれの特徴を探ってみた。


写真左下の「HA-FXT90」も加えて試聴を行った
同じカーボンナノチューブ振動板マイクロHDドライバー方式のユニットを持つ「HA-FXT90」では、これをダブルで駆動していることもあり、おおらかさとパワー感が魅力となっている。音像の厚みがリッチでボーカルも存在感に満ちる。シャープさというベクトルでは“FXD/FRDシリーズ”が優位に感じる。ギターは倍音成分が豊かに伸び、シンセベースは力強く押し出し、全体的にゴージャスなサウンド傾向だ。

低域の響き方としては「HA-FXD60」が近い方向性といえるだろうが、音色の素直さという点でシングルユニットとダブルユニットの差は大きく表れる。むしろ「HA-FXT90」はコンパクトなハウジングからこぼれんばかりの低域と、繊細な高域をバランス良く楽しみたいというユーザーにとって、逆に“オンリーワン”といえる存在なのかもしれない。


【SPEC】
■HA-FXD80 ー ●型式:ダイナミック型 ●再生周波数帯域:8〜25,000Hz ●インピーダンス:20Ω ●音圧レベル:102dB/1mW ●ケーブルの長さ:約1.2m Y型 ●質量:約8.5g(ケーブル含まず) ●付属品:イヤーピース(S/M/L 各2)、コードキーパー、クリップ、キャリングケース

■HA-FXD70 ー ●型式:ダイナミック型 ●再生周波数帯域:10〜25,000Hz ●インピーダンス:20Ω ●音圧レベル:102dB/1mW ●ケーブルの長さ:約1.2m Y型 ●質量:約10g(ケーブル含まず) ●付属品:イヤーピース(S/M/L 各2)、コードキーパー、クリップ、キャリングケース

■HA-FXD60 ー ●型式:ダイナミック型 ●再生周波数帯域:10〜24,000Hz ●インピーダンス:20Ω ●音圧レベル:102dB/1mW ●ケーブルの長さ:約1.2m Y型 ●質量:約5.3g(ケーブル含まず) ●付属品:イヤーピース(S/M/L 各2)、コードキーパー、クリップ、キャリングケース

■HA-FRD60 − ●型式:ダイナミック型 ●再生周波数帯域:10〜24,000Hz ●インピーダンス:20Ω ●音圧レベル:102dB/1mW ●ケーブルの長さ:約1.2m Y型 ●質量:約5.3g(ケーブル含まず) ●付属品:イヤーピース(S/M/L 各2)、コードキーパー、クリップ、キャリングケース


【製品に関する問い合わせ先】
JVCケンウッド カスタマーサポートセンター
TEL/0120-2727-87

岩井 喬 プロフィール
プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。

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