昨年創立10周年を迎えたトライオードは、管球ファンだけでなく広くオーディオ・ファンに親しまれてきたわが国有数の独立系専業メーカーである。埼玉県越谷市に本拠を置き、元国鉄マンだったという山崎順一氏が創立した。
1997年のオーディオ銘機賞を受賞した「VP-300BD」。2003年にニューバージョンに変更され、いまだ発売を継続している

いわゆるバックヤード・メーカーからのスタートだったと思われるが、それだけに管球式の製品が多い。ことに直熱三極管として自作派にも人気高い300Bを使用したパワーアンプが注目を集め、ラインアップも拡充されて現在のような存在となった。

300Bというと普通はシンプルなシングルエンドで使用されることが多いが、トライオードではシングル2本を並列したパラシングル回路を採用している。出力の小さな300Bのパワーを補いながら、シングル構成とすることでその純度も保つ発想といえる。

管球式だけでなくトランジスター・アンプも手がけているが、やはり中心は真空管だ。その真空管を出力段に使ったユニークなDAコンバーターも人気を呼んだ。また管球アンプといっても自作レベルのガレージ製品とは違って、堅牢なアルミパネルの採用や入念な仕上げによるトランス・ケースなどいかにも工業製品らしい安定感を備えているのも特徴といっていい。なお同社の製品は、完成品と同時にキットで販売されることも多い。腕に自信があれば割安になるわけで、それも人気の原因のひとつかもしれない。

同社は英国のスピーカー、スペンドールの輸入代理店でもある。伝統のスペンドール・サウンドと最新の管球アンプという組み合わせも楽しいものだ。

そのほか真空管や高精度な抵抗、コンデンサーなどクラフト製品のインターネット部品販売も行っている。こうした高品質パーツを扱っていることによる製品へのフィードバックも、当然見逃せないところである。

プリアンプ「TRV-4SE」
トライオードの創立10周年を記念して作られた特別モデルが、プリメイン・アンプTRV-34SEである。記念モデルということもあって価格も抑えられ大変人気を集めたが、これをパワーアンプとして使うために開発されたプリアンプが本機TRV-4SEである。従ってデザインも共通。一段と高度な再現を可能にする魅力的な一台だ。

このためプリアウト端子を3系統装備し、バイアンプ、トライアンプといった使い方をすることができる。最初はプリメインで、次いで本機を加えてセパレートとし、さらに単体パワーアンプを追加してバイアンプにといった具合である。

増幅用真空管は、一般的によく使われる双三極管12AX7が6本。CR型A級動作で搭載している。ほかに整流管5AR4を2本使用。またライン入力のほか、MM用のフォノ・イコライザーを装備しているのもユニークだ。管球ファンにはまたアナログ・ファンも多いから、この装備はいっそう興味深い。

プリメイン・アンプTRV-35SEに接続して聴くと、35SE本来の音のよさがいっそう拡大されて出てくる印象だ。レンジが広く、なにより鮮度が高い。ディテールまでくっきりとしていながら弾力があって、音のリアリティがなおさらじかに感じられるのだ。

ジャズでは深く沈んだウッドベースやピアノの低音部が、光を当てたように明確に浮かび上がり、弾むようにエネルギーの乗った再現を展開する。生き生きとした鳴り方が、35SE単体とは一次元違うのだ。

ボーイソプラノやピアノ・ソロの明晰でニュアンスに溢れた再現も秀逸である。広いレンジにわたって均一なレスポンスを持ち、瑞々しい艶を備えながら過度の潤いは排して現代的。オーケストラの分解能と壮麗な響きも豊かな感触に満ちている。最強の組み合わせといっていいような音である。

背面端子部。MM入力を1系統、LINE入力を3系統備える 前面にもLINE入力を持つ。ボリュームと入力切り替えのノブはアルミ削り出しで質感が非常に高い
出力管は増幅段が12AX7(ECC83)×6、整流段が5AR4×2 本機を横から見たところ。サイドウッド仕様は5,250円のオプション

プリメインアンプ「TRV-35SE」
本機の前身TRV-34SEは、同社の創立10周年記念として500台限定で発売されたもの。好評のため型番を変えて継続販売することにしたのである。この限定解除に伴って価格も多少変更されたが、TRV-34SEとは同じものと考えていい。

トライオードはわが国管球アンプの定番といっていいが、リーズナブルな価格を保ちつつ真空管の味わいを残した正統的な設計で定評がある。本機は価格も抑えられたハイC/Pモデル。出力段はEL34のAB級動作によるプッシュプル構成。各45Wを備え、低能率なスピーカーでもそれほど駆動に困ることはないはずだ。また10Hzから100kHzという広大なレスポンスも異例に属する。初段に12AX7、ドライバーに12AU7を2本というオーソドックスな設計。録音用端子とヘッドフォン端子も備える。

十分なパワーと広いレンジを備えているが、それを強調した音調ではない。EL34の性能を無理なく引き出した印象で、落ち着いたバランスと純度の高い質感が特に快い。ジャズはやや小振りでウッドベースの低音を押し出すような力感ではないが、ピチカートを繊細に捉えて表現がきれいだ。ピアノもやや丸みを帯びながら、曇りのない質感を描く。出力に不満はなく、音量を上げてもクリップはしない。

ボーイソプラノは余韻を豊かに乗せてハーモニーがふくよかだ。薄絹をかけたような高域の音調が、独特の柔らかさを巧まずして演出している。シルキーなタッチの声の質感に洗練度の高さを感じる。

オーケストラでは低域の重厚な音調が安定感を高め、分離のいいディテールのきめ細かな再現が共感を呼ぶ。バランスが落ち着いて純度の高い出方である。

現代的な性能と管球式らしい瑞々しさ、柔らかさを備えた本機は、管球アンプの最大公約数といってもいいように思う。フレキシブルな対応力に富んだコストバリューの高いモデルである。

背面端子部。スピーカー端子は当然金メッキ仕様だ TRV-4SEと同様、LINE入力を前面にも備える。さらにヘッドホン端子も装備する EL34をAB級プッシュプルで駆動
サイドウッドは4SEと同様、オプション仕様となる。追加料金は5,250円 底面にはがっしりしたインシュレーターを備える

【TRV-4SE】
基本回路形式:CR型A級増幅
フォノ回路形式:NF型MMカートリッジ対応
周波数特性:-1、-3dB(10Hz〜100kHz)
SN比:96dB
出力インピーダンス:7kΩ
KOA高精度抵抗器使用
入力端子:4系統(前部1系統、後部3系統、テープアウト録音1系統)
出力端子:3系統
出力管:増幅段12AX7(ECC83)×6本、整流段:5AR4×2
外形寸法:330W×150H×280Dmm
質量:8kg

【TRV-35SE】
最大出力:45W+45W(8Ω)
出力管:EL34 AB級プッシュプル
入出力端子:入力RCA4系統(前部1系統、後部2系統、プリアンプ入力1系統、テープアウト録音1系統)
出力:6,8Ω出力
外形寸法:330W×150H×280Dmm
質量:15kg
ヘッドフォン端子装備
KOA高精度抵抗器使用
USA高品質スピーカーターミナル使用

トライオード:http://www.triode.co.jp/