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平均1.3回。これが何の数字かおわかりだろうか? 日本人の大人が一年に映画館で映画を見る平均回数である(ちなみに映画産業のメッカであるアメリカは平均5回)。「私は毎月映画館に行っています。そんな統計、信じられません!」とお思いになる方もいらっしゃるかもしれないが、現に私の友人に「最後に見たのがトップガン」(1986年公開)という剛の者もいる。その一方で、007の新作はどこでロケしたとか、やれ、ブラッド・ピットの新しい恋人が出ていた映画はあれで、とか、日本人はけっこう映画に詳しい。これって考えてみると矛盾していないだろうか。 そう、日本人は家で映画を見ているのである。 国民の大半が公共機関を乗り継いで大都市に通勤し、乗換駅や自宅周辺に必ず深夜まで営業するレンタルショップがある。新作映画を手軽にレンタルして自宅で見る環境が完備されている。それが日本だ。しかも、最新の薄型テレビやDVDプレーヤーを誰もが持っている。しかし、家で映画を観る「ホームシネマ大国」であっても、家で映画館並のクオリティを楽しむ「ホームシアター大国」になっていないのが現状だ。その理由についてはこれまで様々なリサーチが試みられたが、機器の操作やシステムの煩雑さなどが挙げられるだろう。さらに、映画の醍醐味のひとつというべきマルチチャンネルサラウンドも、スピーカーを何台も設置できないという住宅事情のハードルがある。 これは残念なことだ。なぜなら、映画の魅力と楽しさの多くが「音」にあるからである。映像の密度がテレビとは桁違いに高いのと同様に、映画のサウンドは手作業の積み重ねで入念に作り上げられていく。人間の五感の中でもっとも鋭敏なのが聴覚であり、映画は音でドラマの「その先」を描いているのである。単にテレビのスピーカーで聞いているとしたら、それは映画の「美味しい」ところをみすみす捨てているようなものである。 「そういったって、スピーカーを何本も買って並べるのは鬱陶しくてイヤです!」と言われるかもしれない。そういう方の日常の映画視聴を変えてしまう存在が、これから紹介するNIROの「Spherical Surround System」(SSS:スヘリカル サラウンド システム)である。
最小限のスピーカーとプロセッサーを追加するだけでサラウンド音場を生むシステムを「バーチャルサラウンド」、スピーカーを前方のみに置く場合を「フロントサラウンド」と呼び、内外の各社が競って提案しているが、NIROは「本気度」が他社とは違う。NIRO(正式な社名は、niro1.com)は、カーオーディオやカセットデッキで有名なオーディオブランド「ナカミチ」の代表取締役社長だった中道仁郎氏が、1998年に設立したオーディオメーカーで、高価格のオーディオアンプの少量生産から出発したが、創業4年後の2002年に部屋の前後に2基のスピーカーを置くサラウンドシステム「NIRO TWO 6.1」を発売、それ以来、サラウンドシステムを自社商品の中心に置いて研究開発と製品化を続けている。総合音響メーカーの「こんなこともできますよ」といった位置付けの商品とは違うのである。 NIROはつづけてワンボックス構成のスピーカーをテレビ直前に置くだけの「NIRO 1.1」を2003年に発売、フロントサラウンドの愛用者を拡大したが、今年、第三世代と言える新システムを発売した。それが、「Spherical Surround System」である。今回のシステムは、5つのスピーカーユニットを収めた一つの筐体をテレビ前に置く方式から、テレビをサンドウィッチするようにスピーカーシステムを上下に置く方式に変わった。それにコンパクトなウーファーとプロセッサーが加わる。
NIRO1.1でせっかく究極のシンプリティを実現したのにどうして、ここでまたユニットを増やしたのか。それは、薄型テレビの普及が進み、スピーカーシステムの設置アレンジの可能性が広がったことと、大画面化、フルハイビジョン化が進み、それに見合ったサラウンドのスケール感とダイナミズムが一層求められているからである。 このSSSがファイルウェブ視聴室にやって来た。50V型のプラズマテレビと組み合わせて、NIROの第三世代サラウンドの実力を徹底検証してみよう。
スヘリカル(Spherical)とは球体の意味で、音源を上下方向に配置しNIRO独自の立体音場がより高度な三次元性を得たことを意味している。SSSは、スヘリカル サラウンド トップスピーカー(6cmフルレンジコーン×2)、スヘリカル サラウンド ベーススピーカー(9cmフルレンジコーン×3)、サブウーファー(20cmコーン)、スヘリカルサラウンドアンプ(フルデジタルアンプ、RMS 30W×5、サブウーファー用RMS 50W)の4つのコンポーネントから成り、サラウンド トップスピーカーをテレビの上に、サラウンドベーススピーカーをテレビ真下に置く。梱包から取り出すと、両者を設置するための各種のマウントと設置角度の調整のできるスタンド、金具や工具が同梱されている。
それではセッティングを始めよう。トップスピーカーは、まずアダプターを一度テレビに合わせてみてからネジで固定する。アダプターはテレビに乗せるような感じになり、固定されるわけではないが、スピーカーが軽量であることから落下する不安はない。また、アダプターは開く間隔を調整できるので、最新の超薄型モデルから初期の厚みのある製品まで幅広い薄型テレビに対応する。ベーススピーカーは設置角度調整金具を利用して、テレビの脚で段差ができる場合もスピーカーを水平に設置できる。トップスピーカーとベーススピーカー、サブウーファーは一般のスピーカーケーブルを使わず、コネクター式の専用ケーブルで接続する。
サラウンドアンプは、デジタル光入力3系統(リア2系統、フロント1系統)、デジタル同軸入力1系統(リア)、アナログ入力2系統(リア1系統、フロント1系統)を持つ。デジタル入力はDVD、ブルーレイディスク、テレビのデジタル出力、CATV、ゲーム機からの入力を、アナログはビデオデッキからの入力を想定している。HDMIの搭載は今回は見送られた。次の世代の商品からになるだろう。ファイルウェブ編集部の女性担当者といっしょに梱包を解いて約20分でセッティングは完了した。
さあ、視聴というところだが、その前にSSSの原理をおさらいしておこう。
前方に置いたスピーカーだけで5.1chのサラウンド音場が得られるバーチャルサラウンドには様々な方式があるが、最大主流派のドルビーバーチャルと同様に、SSSも、前方の複数の音源から発せられた音が人間の左右の聴覚器官を通じて脳に到達する時間差と位相差を電気的にコントロールして、前後左右から聞こえる立体的な音場を生み出す頭部伝達関数(HRTF)をベースにした方式だ。 NIROの場合、前世代の1.1では、ドルビーバーチャルとは異なるパラメーターを発見し5個のドライバー(スピーカーユニット)の位置と角度による放射パターンを最適化することで、前方配置だけで音が左右後方まで回り込む効果を得た。画面センターとスピーカーのセンターを一致させるNIROの一貫したやり方は、映画の主要な情報がセンターチャンネルから出ることを考えれば、理に適っている。今回のSSSではそこから発展して上下分割配置を選択したが、これは薄型テレビの普及が順調で大画面化が進んだことに対応したのがひとつの理由にあると筆者は考えている。
上下に音源を持つことによって映像とサウンドの一体感が増すのは言うまでもなく、画面の高さが増した分、創成できる音場にも必然的に高さが加わる。テレビの大画面化がセッティング上の不利を生むという一般論を逆手にとり、NIROは迫力あるサラウンド音場を作り出した。そして、現代の映画音響で重きが置かれるようになった「高さ方向の情報」の表現力を強化したのである。 まず、ミュージカル映画の2本、『シカゴ』と『魔法にかけられて』を聴いてみよう。ミュージカルは、サウンドの要であるセンター音声の力強さ、明解さと音楽の広がりが問われる難しいソフトである。『シカゴ』には24ビット(48kHz)のリニアPCMサラウンド、『魔法…』にはドルビーTrueHDがあるが、今回は両作品ともドルビーデジタル5.1chでの視聴となる。 サラウンド表現は力強く、左右へ広がる効果も大きい。テレビの中心軸を結ぶ2つのユニットから音が放射されているためだ。視聴室一杯に広がる豊かな音である。リア音場へと回り込む表現力は、数あるフロントサラウンドシステムの中でも最も優れている。最近のミュージカル映画のソロ歌唱は例外なくセンターチャンネルから再生されるが、5.1ch再生の場合、左右LRから格落ちのセンタースピーカーを使うと、歌の伸びが詰まって歌唱のスケールが小さくなり、せっかくのミュージカルが台無しになる。しかしSSSは、ベーススピーカーに内蔵されたL、C、Rのドライバーは共通で、センター専用のドライバーを中心に3チャンネルが最適調整されているために、センターの歌唱とL,Rの音楽演奏のつながりとの対照がいい。ただし、デフォルト(工場出荷設定)では、サラウンドをやや高めにセットしているように聴こえる。SSSは各チャンネルの音量を上下できる。センターチャンネルを+2くらいにすると、セリフ、歌唱が最良バランスになる。 『魔法…』のセントラルパークでの群舞に続く、池に浮かんだボートのジゼルが鳩を呼ぶシーンでは、羽ばたきが4時くらいの方向から中央へやってくる。その音の鮮明さはフロントサラウンドとして驚異的。描写にモヤモヤした曖昧さがなく、広がり感に加え、力強さを感じる。SSSには、ナチュラル1、2、エンハンスドの三つのサラウンドモードがあり、エンハンスドはリアへ回す効果が大きくなる。サラウンドの音が太く強くなり効果が大きいので、移動表現を重視したいソフト、例えばアクション新作はこのポジションで見るといい。しかし、ダビングされた音の要素の多く重層的な厚みのあるサウンドデザイン、例えば『魔法…』のミュージカルシーンは、やや歪を感じる瞬間もある。その場合は、ナチュラル1を選ぶと良いだろう。 映画では力強く広がり豊かな再生音を聞かせるSSSだが、音楽ソフトはどうだろう。『ブルース・スプリングスティーン・ライブ・イン・ダブリン』(ブルーレイディスク)は、リニアPCMのステレオ、同5.1chサラウンド、ドルビーデジタル 5.1chが収録されている。スヘリカル サラウンドの場合、HDMIには未対応なので、ドルビーデジタル 5.1chを選択する。 スプリングスティーンのボーカルのクリアさ、バンドサウンドの立体感、音場の腰の据わった落ち着きが素晴らしい。サラウンドモードは、ナチュラル2で広がりが出る。ボーカルのすっきり通る感じは1がいい。ワイドレンジ、高音質で定評のある『レジェンド・オブ・ジャズ』の「パンサー」(マーカス・ミラー)は、視聴室レベルで音圧を上げていくとさすがに小口径ドライバーだけにエレキベースの再生で苦しくなる。この場合、ディスク側で2chPCMステレオを選択すると歪が消える。それから、スヘリカル サラウンドのモード設定でPL IIのミュージックを選択すると歪みのない美しい音のサラウンドになる。 Spherical Surround Systemは、システムのコンパクトさ、設置の容易さに比較しての効果の大きさで最も優れたフロントサラウンドである。家族が出かけて留守の間にこっそりセッティングしておき、帰ってきたら映画を見せてあげたらどうだろう。テレビの上下に小さなボックスがちょこんと付いただけの小さなボディから再生される音が、いつも見ているお気に入りの映画を新鮮に彩り、家族もきっと驚くはずだ。 Spherical Surround Systemは、秋葉原に構えられた同社の視聴ルーム「NIRO SOUNDSTATION」はもちろんのこと、ビックカメラを始めとする量販店で実際に見て、聴くことができる。是非ご自分の耳で、このNIROサウンドを体験してみて欲しい。 |
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