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<後編>画質の見方を教えてくれたパイオニア製品

文/大橋伸太郎

前編から続く)

一エンドユーザーとしてのパイオニア製品への接点はオーディオ製品だったが、1987年に新聞社系の仕事からオーディオビジュアル業界に転職してからというもの「私と映像のパイオニア」にそれが変わっていく。

1980年のウィーン国立歌劇場の初引越し公演を聴いて以来、私のオペラへの傾倒が始まった。現代のように、音楽を聴きに海外にまで出掛けていく時代でなかった。ミラノスカラ座、英・コベントガーデン(ロイヤルオペラ)、ベルリン国立歌劇場などの来日公演や、二期会、藤原歌劇団の定期演奏会にこまめに出掛け、熱中の度を深めていった。しかし、生の上演に接するのには限度がある。時あたかもオーディオビジュアル時代が到来し、ビデオディスクが普及期に入った時期、しかし、私が最初に買ったレーザーディスクプレーヤーはパイオニア製品でなく、ヤマハのデジタル音声付プレーヤー一号機だった。

1987年、オーディオ専門出版社に入社し、頻繁に各社の新製品視聴会に招かれるようになる。そこに決まってパイオニアのLD-S1があるではないか。リファレンスとして使われるプレーヤーは例外なくLD-S1だった。映像の安定感、発色の美しさ、そして音質の素晴らしさ。LDプレーヤーというごく新しい製品ジャンルにあって、これだけ品格と実力の備わったモニターグレードの製品があることを知り、これを買おうと決めた。しかし、「今、次の大作を仕込み中だから」というパイオニアのご担当者のアドバイスを一年間守りじっと我慢を続け、1989年に手にしたのがLD-X1だった。

パイオニア「LD-X1」

LD-S1の濃密な油絵的な画から一転、その映像は端正で緻密、大ナタを振るうようなダイナミックなS1と対照的にカミソリのような切れ味のプレーヤーである。発色については誤解を恐れずにいえば禁欲的といっていいほど。重厚な筐体の存在感とあいまって、オーディオビジュアルの世界にピュリティというものが存在するのだということを声高に主張する画期的な製品だった。このLD-X1とS社の2種のディスプレイ、直視型モニターとCRT3管式プロジェクターのコンビネーションでいったいどれだけの枚数のレーザーディスクを見たことだろう。いま、こうして職業筆者として仕事をしているのも、この時期養った視聴覚の感性と知識あってのことである。

1990年代後半、アナログ映像デジタル音声のレーザーディスクは、フルデジタルのDVDに取って代わられる。パイオニアが最初に発売したDVDプレーヤーは、LDとのコンパチブル機だったので買わなかった。私が手にしたパイオニアのDVDプレーヤーはdtsに対応したDV-S9である。筐体設計をMUSEハイビジョンLDプレーヤー・HLD-X0のチームが担当し、ドロワーの動作にX0をほうふつさせる力作だった。当時私が担当だった筆者のI.Y.氏が新製品に買い換えるというので譲ってもらったのである。1998年のことだ。

パイオニア「DV-S9」

DV-S9で思い出深いのは、早速自宅の3管式に接続して映画を見ていたら、たまたま家内が帰宅してその映像を見るなり、「あっ、画質が全然違う!」と声を上げたことだ。DVD最初のリファレンスグレードとして話題を呼んだDV-S9だけのことはある。専門家やマニアでなくとも一瞬にして何かを感じさせる、伝えられる力を持っていた製品だった。現在、私のリファレンスは他社の専用機に交代しているが、このDV-S9、母が薄型テレビとのコンビネーションで愛用中、いまも現役を続けている。

さて、パイオニアと私のつながりはといえば、現在も二機種にわたって実働中のアナログプレーヤー、前回にエピソードを披露した10cmのフルレンジユニットといったオーディオ全盛時代に足元を担ったベーシックなアイテムで音を貪った「青春のパイオニア」がまずあり、オーディオビジュアル時代に移ってからはリファレンスグレードのLDプレーヤー、DVDプレーヤーという時代の寵児にしてAVのシステムの支柱であるコンポーネンツを導き手に、視聴覚の理想郷を探した職業人としての日々が続く。

一つ残念だったのは、パイオニアの投射型ホームシアタープロジェクターが発売されなかったこと。現在、画質の評価の高い反射型液晶プロジェクターをビジネス用に世界最初に製品化したのは、ほかならぬパイオニアであることをご存知か。リアプロジェクションを盛んに手掛けていた時期に、ご担当者の方に投射型は? とお訊ねしたところ、「研究所内では色々やっていますけれどね」とニヤニヤ笑っておられたことが今も記憶にある。

後年も同様の質問をしたのだが、すでにプラズマディスプレイに力を入れているせいか、「部屋を暗くしないと見られないような不完全なものは作りませんよ」と返答されて内心ガッカリした。明るい環境で見るのも、真っ暗にしてみるのもエンドユーザーの自由だし、ホームプロジェクターの市場は現に立派に存在しているのだから、どうしてチャレンジしてくれなかったのかと今でも残念でならない。パイオニアならきっとすごくいいプロジェクターが作れたろうに。

パイオニアはブルーレイROMの国内発売に慎重な構えだが、ソース機器のトップメーカーとしてLD、DVDのノウハウを存分に盛り込んだ力作を一刻も早くリリースしていただきたい。フォーマット策定の一社であるばかりでなく、ブルーレイ録画機のメカ製造でパイオニアはリーディングメーカーである。この熱い期待感、きっと筆者一人のことではないだろう。

 

大橋伸太郎
Shintaro Ohashi

1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして、Infocom Japan、9坪ハウス、富士通ゼネラル、カリモク家具販売、ルートロンアスカ、東京建築士会、インハウス平和などでの講演多数。2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。