KRP-600A/500Aは、パイオニア最後の自社生産パネルとなる第9世代(9G)パネルを使ったプラズマテレビである。すでに60V型モニターのKRP-600Mが先行して発売されているが、総決算のような9Gパネルを搭載した2008年モデルのテレビへの期待と注視は、初夏から熱いものがあった。昨年の“KURO”PDP-6010HD/5010HDは、プラズマ/液晶という方式の枠を超えた薄型テレビの技術目標を作った。この一年、多かれ少なかれ薄型テレビは“KURO”を追いかけたのである。
昨年あれだけの性能のテレビを作ったのだから、もう一年8Gを引っ張ってもいいんじゃないの、と思ったのは筆者だけでないだろう。しかし、結論を先に言おう。低輝度階調のきめ細やかさとニュアンス、明るさ、そして色彩表現力……私たちの前に登場したKRP-600A/500Aは、PDP-6010HD/5010HDを全ての面で確実に凌駕した。“KURO”は“KURO”を超えてしまったのである。
■オールラウンドなモニターとしての力を持つディスプレイ部
KRP-600A/500Aは、「映像の圧倒的表現力」「音質」「リビングモード」のトータルで最高峰の薄型テレビを目指した製品だ。モニターディスプレイのKRP-600M/500Mと、テレビタイプのKRP-600A/500Aとの間にパネル性能上の差はない。モニターディスプレイはよりきめ細かく画質の調整ができることが主なアドバンテージである。
KRP-600Mまで含めた9G製品に共通の新技術の中でまず特筆大書すべきは、さらに進化/深化したその黒輝度だ。昨年の8Gモデル(PDP-5010HD/6010HD)は、「高純度クリスタル層」を改良し、新材料の電子発生源を配置した新たなセル構造を採用。9Gパネルは、駆動回路の改良により黒輝度を8Gのさらに1/5にまで低減したのである。それだけではない。同時に、8Gから受け継がれた課題だった、低輝度領域の階調ステップをさらに細かくしていくことをこの駆動法の改良で達成したのだ。
|
第8世代パネルと第9世代パネルのセル図解。9Gパネルは予備放電をさらに抑え、より深く滑らかな黒を実現する |
KRP-600Mから搭載の「ディレクターモード」は、もちろんKRP-600A/500Aにも搭載される。このモードを使用して得られるのは、現行の家庭用ディスプレイの中で最も素直で正確な特性の映像である。6500k、ガンマカーブ2.2乗、正確なEBU色域という条件下で、ホワイトバランスと輝度がリニアリティを最高度に発揮し、出力の上下によってホワイトバランスが狂ったりすることがなく、あくまで正確なバランスを保持し続けることが特徴。優秀なパネルだからできる「素肌の美」が常にある。
言い換えれば、KRP-600A/500Aのディレクターモードを選択した場合、そのディスプレイはオールラウンドな映像モニターとして使えるグレードにあるのだ。BDの近作優秀盤に見るモニター的解像感とナチュラルさを両立させた映像は、息を飲んで見つめずにはいられない見事さである。
■いっそうきめ細やかな視聴環境を分析・提供する“リビングモード”
さらに、9G製品に搭載された「リビングモード」は、環境の分析と最適化をいっそう進めており、これがなかなか凄い。とりわけKRP-600A/500Aは、筐体右下に備えられた照度センサーと、別売のカラーセンサー「KRP-SE01」を合わせて使用することにより、室内環境をきめ細やかに自動判定。人の色順応特性に応じて最適な画質を提供してくれるのだ。これはユーザーが入力する方式を採っている他メーカーよりも一歩先んじた印象だ。
|
|
時間帯や部屋ごと異なる“灯り”の色を、照度センサーとカラーセンサーを併用することでよりきめ細かく分析。視聴環境に適した画質の提供を実現する |
|
|
カラーセンサー「KRP-SE01」(税込17,000円)。奥の銀色の部分が磁石になっており、テレビの金属部であればどこにでも設置できる |
リビングモードで調整された画質項目は「リビングモードモニター」で確認できる。ごく自然に緩やかに変化していく映像をイメージで捉えやすくした |
なお、リビングモードは照度連動して音質も最適化することができるようになった。人間の聴覚特性に注目して、細かな音も同等に聞き取りやすくなるよう、高域の一定の周波数のゲインを調整するという。これは、テレビにとどまらず、リビングオーディオなど家庭内の視聴覚に応用してほしい機能だ。
■単品コンポのエッセンスがそっくり入ったスピーカー部
もうひとつ、「テレビの高音質」にも真剣に取り組んでいるのが、今年のKRP-600A/500Aである。薄型テレビのデザインの流れとして、スピーカーの存在を「隠す」方向にあるが、薄く小さいスピーカーから迫力のある音を再生するのは難しい。他社製品は「いい音」をDSPで演出する場合が多いが、パイオニアは音の地力をよくしたいと考えたという。
|
|
新開発の高音質スピーカーユニットや"KURO"ロゴ入り低歪率コイル、低インピーダンス電解コンデンサーなど高音質化にもぬかりはない |
(左)PDP-5010HD(右)KRP-500A。高音質とスリム化を実現したスピーカーにより、横幅の広さからくる圧迫感を軽減した |
まず、「EXシリーズ」や「TADドライバー」でも採用しているコルゲーションエッジ構造の新開発ユニットを搭載。アンプ基板は薄型化に併せて高さを抑えたコイル、コンデンサーを新開発。これらにより、高音質を実現しつつ、スピーカーは横幅85mm(前モデル105mm)、エンクロージャーの容積2.0リットル(前モデル2.4リットル)とコンパクト化を果たしたのである。電源配線ケーブルもOFCの極太18番線を使ったツイスト線仕様という凝りよう。KRP-500A/600Aには、パイオニア製コンポのアンプとスピーカーのエッセンスがそっくり入っていると言えるだろう。ここまでやって音がよくならないはずはない。新リビングモードと合わせて家庭の視聴覚へのパイオニアなりの一つの集大成を見る思いだ。
■映像・音全てから、妥協を許さぬパイオニアの理想が感じられる
さて、パイオニア川崎事業所の視聴ルームと音元出版視聴室の両方、ホーム&アウェイでKRP-600A/500Aを視聴できたので、その印象を報告しよう。
ブルーレイディスクの新作から『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、『ゴーン・ベイビー・ゴーン』、『ゾディアック』、『アクロス・ザ・ユニバース』などを視聴した。昨年の“KURO”以来、コントラストの数字競争が始まったが、今年のパイオニアはコントラスト数値は非公表、一足先にそこから抜け出してしまった。全ての映像で表現が深くなっているのが一目瞭然で分かる。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』冒頭のダニエル・デイ=ルイス扮する採掘師プレインビューが、金鉱を試掘する竪穴内で重傷を負うシーンは、この男の「業」を提示する重要なシーンだが、上からの自然光と蝋燭の光の微妙な明るさの中での演技である。薄明かりと影のバランスが難しいのだが、KRP-600A/500Aの場合、シャドーをしっかり付けながら黒く潰さず、光線の描写と巧みに両立させ、希望と絶望の境界線上をさまよう男の波乱の生涯を冒頭、くっきりと見る者に焼き付ける。液晶方式が進境著しいといっても、この絵画的な階調感まではまだ表現できていない。
KRP-600A/500A(KRP-600M)は、色域のチューニングをEBUに合わせたことで、黒輝度の低下と相対的に色の鮮やかさが増しているのも印象的だ。ジュリー・テイモア監督の『アクロス・ザ・ユニバース』は、エヴァン・レイチェル・ウッド演じる、恋人をベトナムで失った娘がリヴァプールからやって来た若者と恋に落ちるシーンを見た。彼女の輝く金髪と恋のときめきで紅潮した白い肌の対比が、作為的にならない範囲で生き生きと描写され思わず息を止めてしまった。KRP-600A/500Aの開発に当たって映画、環境映像、コンサート記録まで膨大なソフトを検証したという、開発陣の画質を見る目の的確さを伝える好例だ。
さて、ついに登場したKRP-600A/500Aは、期待と注視に違わぬ充実した内容を備えている。技術とは日進月歩進化するものだが、筆者はKRP-500A/600Aを「ここにしかない」魅力が横溢している製品だと捉えている。それは、映像とサウンド、視聴環境との一致のすべてに妥協を許さず取り組んできたパイオニアの理想主義の輝きなのだ。
そしてKRP-600A/500Aは、その輝きを所有することにこれ以上ない喜びを感じさせる、稀有な製品なのである。

|
大橋伸太郎 Shintaro
Ohashi
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV
REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。 |
|