(インタビュアー:貝山知弘/構成:Phile-web編集部)
パイオニア最後の自社開発パネルとなる第9世代パネルを搭載した超弩級モニタープラズマディスプレイ「KRP-600M」。 本機の企画に携わった野口氏と、技術を担当した碓井氏にインタビューを敢行。製品開発にかけた意気込みや、画質へのこだわりなどを伺った。
■「帝王」PDP-5000EXを超えるモニターディスプレイを作りたい 野口 KRP-600Mのプロジェクトは、「第7世代パネル搭載機よりも更に優れたモニターディスプレイ」を目指し検討を開始しました。当初は8Gパネルでモニターモデルを商品化する考えもありましたが、形状としての新しい切り口である「薄型化」と、8Gパネルで実現した20,000対1というコントラスト比の両面を併せ持ったモニターを作ろうということになり、最終的には9Gパネルを搭載したプラズマモニターディスプレイとしての企画・開発に至りました。 |
|
|||||||||
貝山 昨年“KURO”が出てから、他社のディスプレイも盛んに黒を深める方向に向かいました。しかし私は、パイオニアのレベルまで実現できているところはまだないと感じます。
碓井 昨年来、技術、企画部門含めて、ディスプレイにとって何が大事だという議論をしたときに、「黒を追求する」という1つの流れができました。製品企画・開発だけでなく、プロモーションなど全ての部門に於いて「黒」を表現するために一丸となったのです。
![]() |
| パイオニア(株) ホームエンタテインメントビジネスグループ 事業企画部 ディスプレイ企画部 PDP企画課 野口嘉弘氏 |
野口 9Gのモニターモデルをどういうふうに開発していこうかというのは、実はずいぶん悩みました。既にPDP-5000EXという「帝王」がいたものですから。PDP-5000EXを超える“KURO”をどういうふうに作るのかということが今回の大きな課題でした。
碓井 社内的にも、8Gで一度構築されたシステムを、何故わざわざ同じ機能を別のところでやるんだと言われたことがあります。しかし、この9Gパネルだからこそ何かやってやろう、薄い肌色や中間色をしっかりとしたリニアリティで出そう、という開発陣の思いがこもっている製品なのです。
貝山 9Gパネルは8Gパネルと比較して技術的な面で刷新された点はどこにあるのでしょう。例えばコントラスト比が約5倍に向上していますが、それはどういう技術で実現されたものなのですか。
碓井 8Gパネルは、深い黒を表現する手法として、その放電の空間を安定させるためにデバイスを改良しましたが、昨年の“KURO”で謳った「20,000対1」という数字以上のポテンシャルを持っているものでした。つまり、駆動方法を改善することで、パネルの性能をさらに引き出せると考えたのです。
9Gパネルを使用した本機も、青や緑の蛍光体を微修正したほか、残光特性などを調整したくらいで、基本的なデバイスの構造は変わっていませんが、駆動回路は、8Gの“KURO”とは違うものを使っています。また、画質のチューニングですが、まず同じ色域のカラースペースでも、もともとのマスターモニターの色域にぴったり合わせようということになりました。表示可能色域が拡大方向に行っている昨今の流れの中で、あえて範囲内で綺麗に収めようという試みをしているメーカーは、他にはないと思います。
貝山 色域はただ広げればいいわけではなく、バランスこそが大切だと思います。僕は画を判断するときは、まずトータルで判断します。ある部分に目が行ったり考えが及ぶというのは、何か違和感を覚えたときなんです。KRP-600Mはもちろん、パイオニアのプラズマディスプレイで僕が最も感心するのは肌色なんです。色表現のバランスがとれていないと、顔色はたちまち不自然になります。肌色がここまで自然に出せるモデルは、他にはなかなかないのが現実です。本機はこのことだけでも「モニター」と呼ぶにふさわしい製品だと思います。
![]() |
| パイオニア(株) ホームエンタテインメントビジネスグループ 技術統括部 ディスプレイ設計部 設計部3課 碓井純一氏 |
碓井 確かに、白に対してのRGBのバランスが大切なのだと思います。白の表現がぶれれば、RGBの三角形がいくら綺麗に広がっていても、恐らく違和感が生まれてしまうのではないでしょうか。
エンジニアとしては、色域を広げることで色表現の可能性を追求したいという思いはあるのですが、やはり人間は、色を必ずバランスで見るんですね。単純な三次元的なポイントの位置ではなく、ある基準に対して色のバランスがどう整っているかを感覚的に捉えるのではないでしょうか。例えば白ポイントに対して赤がどこにいるのかというのを、必ず頭の中で補完をしている。ですから、例えば鮮やかな赤いバラの映像だったら、色の座標値的には低いものであっても、それぞれの色が綺麗なバランスを持っているディスプレイのほうが、見た人に強い印象を残すのではないかなと思います。
■映画の持つトーンに合わせた映像の表現を目指す
碓井 我々は画づくりを行うときに、フルHDだからと言ってハッキリクッキリした表現を目指すだけでなく、映画でも寂しい映画、悲しい映画、怖い映画など、それぞれの画づくりのトーンを読み取って、それをどういう画で表現するのが一番いいんだろうかと考えているんです。
貝山 コントラストや階調も、そのドラマにふさわしい階調があるんですよね。
野口 映像にあった画質で見ていただくために、センサーによって自動的にその環境に適した画質へ調整してくれる“リビングモード”も設けたんです。KRP-600Mではお客様が思い思いの画にしていただくための「ディレクターモード」を特長の一つとしていますが、やはりコンテンツをディスプレイ側がある程度判断して適した画質を提供する「オート」とディレクターモードのような「マニュアル」の2つの側面をもっています。これは、お客様にとっても選択肢が広がり、メリットとなるのではないかと思います。
碓井 技術陣がいろいろなコンテンツを見ながら試行錯誤して作っているモードですから、パイオニアの画づくりの良さをユーザーに知っていただけることにもつながると思うのです。そういう点から言っても、リビングモードは非常に大きな意味を持つ機能だと思います。
野口 出荷設定になりますが、8Gテレビは「リビング」モード、KRP-600Mは「標準」にしています。「ディレクター」ではありませんが、このモードもモニターの忠実再現をコンセプトにしたモードです。テレビは「自動」をまず前提にしていますが、モニターはお客様のお好みで画質調整してもらおうというようなつくり分けをしているのです。そういう設定の違いがあるところも含めて皆様に知っていたただければと思います。
■KRP-600Mは更なる発展のための「基準」となる製品
![]() |
貝山 パイオニア社内で、KRP-600Mはどのように位置付けられているのでしょうか。
野口 企画的に見ても、KRP-600Mはテレビとは少し違うトンガリ方ができたのかな、と考えています。余談ですが、プロトタイプの画を見たときにはイメージ通りで、「やった」と思いました。「狙い通り」というのが率直な第一印象でした。
とはいえ、本機で得られた数々の技術や思想はこのモデルだけにとどめるのではなく、テレビにも上手く生かしていけたらと考えています。また“KURO”のブランドを確固たる位置を持ったものにするためにも、“KURO”モニターに求め、実現できた部分を他の製品にも結び付けていきたいと考えています。
碓井 KRP-600Mで、パイオニアプラズマディスプレイの第1章が終わったという感じでしょうか。私はプラズマの創成期から技術開発に携わっていますが、最初はもう、今で言う灰色を「これが黒です」と言い切っていたんですからね。それから10年間で、よくぞこの到達点まで来たなと感じています。
KRP-600Mは、デバイスと駆動、信号のプロセスなどに携わるメンバーが力を合わせ、パネルの能力を最大限に引き出せたという意味で、ひとつの完成形だと考えています。KRP-600Mは私たちのなかで新たなひとつの「基準」になりました。この映像に基準を置き、ここからまた新たな章へと発展していきます。
| ■インタビュアー | |
![]() |
貝山 知弘 Tomohiro
Kaiyama 鎌倉原住民。早稲田大学卒業後、東宝に入社。東宝とプロデュース契約を結び、13本の劇映画をプロデュースした。代表作は『狙撃』(1968)、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970)、『化石の森』(1973)、『雨のアムステルダム』(1975)、『はつ恋』(1975)。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサー。この時の飛行距離は地球を6周半。音楽監督を依頼したヴァンゲリスとの親交が深く、同映画のサウンドトラック『Antarctica』は全世界的なヒットとなった。94年にはシドニーで開催したアジア映画祭の審査委員をつとめる。『ボーン・コレクター』のフィリップ・ノリス監督、『ハムナプトラ』の女優レイチェル・ワイズとの親交を深める。カナダとの合作映画『Hiroshima』でのアソシエート・プロデューサー。アンプの自作から始まったオーディオ歴は50年以上。映画製作の経験を活かしたビデオの論評は、家庭における映画鑑賞の独自の視点を確立した。自称・美文家。ナイーヴな語り口をモットーとしている。 |