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 TADの技術を投入しつつ独自の存在感を持ったスピーカー「S-3EX」
文/井上千岳
 

パイオニアが一昨年発売したトールボーイスピーカー「S-1EX」は、久々の上級モデルとして各所で高い評価を受けた。その後ブックシェルフタイプの「S-2EX」やセンター用の「S-7EX」などによってEXシリーズが形成されている。一方で今年は伝統の技術を駆使したTAD Reference Oneも発売され、フラグシップとしての存在感を示したことはまだ記憶に新しい。

これと前後して発売になったのが、本機「S-3EX」である。S-1EXと同じトールボーイタイプ。しかしそれより一回りサイズが縮小され、ユニットも小振りになっている。S-1EXよりもおそらく部屋に置きやすく、空間の容積にも対しても手頃な大きさといっていい。その意味でいっそう汎用性を高めた本格派のスピーカーとして注目される。

PIONEER スピーカーシステム S-3EX
TADスピーカーの技術を投入し開発されたスピーカーシステム。セラミックグラファイト振動板を採用したCSTユニットを搭載し、点音源化を実現。曲面バッフル板と、スラントレイアウトエンクロージャーの採用により、タイムアラインメントの精度を向上させている。
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ここではこのS-3EXを中心に、パイオニアのオーディオに対する取り組みを検証しながら、その音を楽しんでみたい。

セラミックグラファイト振動板を採用したCST(Coherent Source Transducer)ユニットを搭載している

EXシリーズの嚆矢となるS-1EXで特に耳目を集めたのが、新開発の同軸ユニット「CST」である。ベリリウム・トゥイーターにマグネシウム・ミッドレンジを組み合わせ、広帯域な点音源化を図ったことで、明快なフォーカスとつながりのいいレスポンスを実現した高度な技術の産物だ。S-3EXでも勿論それは踏襲されているが、ユニットの素材は別に開発された。本機ではベリリウムに代わってセラミックグラファイト振動板によるトゥイーターを搭載。ミッドレンジにはマグネシウムを継承し、S-1EXと同様の特性を獲得している。

ウーファーは16cmで、一回り小さくなった。これは全体のサイズに合わせたものといってよく、これによっていっそうS-1EXの相似形という位置付けがはっきりしている。振動板はアラミド不織布とカーボン不織布を積層構造にした独自の構造である。これに加えて新開発のLDMC磁気回路を搭載し、駆動力を向上させている。ボイスコイルが動作する磁気回路内の隙間を磁気ギャップと呼ぶが、この部分での磁束分布を均一な前後対称のものとする構造をLDMCと名づけたものである。

相似形と呼べるほどそっくりなS-1EXと本機だが、このようにユニットは全く新規といっていい。それがサイズにぴったりと適合して、本機に独自の存在感を与えている。

聴いてみて多分誰もが最初に思うのは、つながりの滑らかさであるに違いない。シームレスとよくいわれるが、まさしく継ぎ目を感じさせないスムーズなレスポンスが音調を支配している。全体がひとつのユニットでできているかのように一体感が高く、その点ではS-1EXをもしのぐほどの性能を感じる。

S-3EXの正面図
バッフルを曲面とする「パーフェクト・タイムアラインメント・デザイン」に加え、スラントレイアウトを採用している

人の声やピアノなどで、特にその印象が強い。日頃愛聴する女声アカペラのAuraでは、一人ひとりが目の前に立っているような感触が呼び起こされる。それはフォーカスがぴったり合っていることによるものでもあって、フロントバッフルをわずかに円周状とし、ある一点で音波が揃うことによってタイムアラインメントを実現するからである。またユニットやバスレフダクトの位置を最適化するABDや音響管を内部に配して定在波を解消する特許AFAST技術によるところも大きい。レスポンスに余計な凹凸が加わらないため、いっそうピントが明確になるわけである。そしてキャビネット自体の剛性が不要振動を排除する。これらの技術によって研ぎ澄まされた再現力が、ナチュラルな音楽性と融合している。

ボーイソプラノのリベラは高域の突き抜けるような伸びが生命線だが、それを歪みなく楽々と描き出すのが新開発のトゥイーターだ。さすがに100kHzの余裕というべきか、息苦しくなるような詰まった感触がなく、なんの引っかかりもなく高域の端まで伸び上がっている。それに伴ってハーモニーの重なり方に濁りがなく、余韻が透き通るような透明感で空間にしみ渡る。デリケートで豊かな音楽的瞬間である。

さて今回ではリファレンスシステムとしてオーディオ銘機賞2008で銅賞を受賞したPD-D9、アンプにA-A9を使用した。価格帯から言えば普及クラスの上端という両機だが、S-3EXの音調と無理なく適合していることに注目したい。特にPD-D9はこれまでこのクラスに製品がなかっただけに、A9と併せて待望のラインアップが完成したことになる。ツインRコアトランス、クイックレスポンス電源回路、ツインクロックシステムを搭載し、サンプリングレート・コンバーター、ウォルフソン製ツインDAコンバーターなど最良のパーツと技術をフル装備した極めて水準の高いプレーヤーである。

SACD/CDプレーヤー「PD-D9」(製品データベース)。電源回路には無帰還型電源と低ESRコンデンサーを使用。サンプリングレートコンバーターも搭載し、ジッター低減を実現する。

A-A9(製品データベース)。“ワイドレンジリニアサーキット”をパワーアンプ部の電圧増幅段に採用し、広帯域に渡り安定したドライブ能力を実現している。

一方のプリメインアンプA-A9は昨年の発売。PD-D9より一足先にデビューしているが、大出力素子LAPTをパワーデバイスに採用し、クイックレスポンス電源回路やワイドレンジリニアサーキットでこれを支える。左右対称ツインモノラル構造のレイアウトやリジッドアンダーベースによる高剛性筐体など、クラス以上の装備が際立つハイC/Pモデルである。

これら2機のソースとアンプで駆動することによって、S-3EXはいっそうその純度を発揮しているように思われる。ピアノのタッチや響きの質感がちょうどよい感じで、過不足がないという印象だ。芯が詰まってにじみがなく、骨格が豊かで低音部が強靭。広いレンジにわたってレスポンスが均質で不自然な凹凸がない。

同じことはジャズでもいえる。ウッディクリークの「Jubilation」はトロンボーン2本が豪快に吹き抜けるが、その立ち上がりの手触りと粘り強い響きを開放的に鳴らしながら少しも誇張がない。ピアノやドラムのタッチも明快で軽快なスピード感に溢れているが、上滑りになることがなくいつでも密度の高い質感を備えている。ウッドベースの重さと動きの軽さもごく自然だ。

試聴を行う井上氏

SACDでオーケストラや声楽を聴くと、いっそう空間的な実体感がきめ細かく感じられる。ジャン・フルネ=都響の「ボレロ」は奥行が深く、空間の中に浮かび上がる木管や小太鼓の存在感が大変印象的だ。大音量のフィナーレにいたるまで破綻がどこにもなく、じっくりと音楽が描かれてゆく様子が、手に取るようなリアリティで迫ってくる。CDよりも一段彫りが深い。

声楽でも同じ印象で、声そのものとその周囲に広がる余韻がくっきりと浮き上がって聴こえる。CDではさすがにここまでの再現は得られない。それがさりげなくさらりと出てくるところに、性能の高さを感じるのである。

S-3EXはペアで70万円クラス。決して安価とはいえないが、少し頑張れば手が届く。中級の上の方といっていい。だからできればもう少し背伸びしてセパレート・アンプで鳴らしてみたいという誘惑に駆られるとしても無理とはいえない。もちろんA-A9などの実力を十分に認めたうえでの話ではあるが、やはり上には上を望みたくなるのがオーディオファンの人情というものである。というのもこの10月にTADラボラトリーズが発足したからで、TAD Reference Oneの発売といいパイオニア・オーディオの全開を宣言したようなものである。もし往年のハイエンド・ブランドEXCLUSIVEが復活するようなら、S-3EXにとってこれほど嬉しいことはない。今のパイオニアにはそれを期待させるだけの活気がみなぎっている。そのときにこのスピーカーがどんな顔を見せるのか、いっそう楽しみは尽きない。

 

 


井上千岳 Chitake Inoue
東京都大田区出身。慶應大学法学部・大学院修了。有名オーディオメーカーの勤務を経て、翻訳(英語)・オーディオ評論をはじめる。神奈川県葉山に構える自宅視聴室でのシビアな評論活動を展開、ハイエンドオーディオはもちろん高級オーディオケーブルなどの評価も定評がある。主な著書は『デジタルオーディオのすべて:DA変換技術をわかりやすく解説』(電波新聞社刊)。翻訳では、海外オーディオブランドの国内向けカタログを多数手がける。趣味は5歳より始めたピアノで、本格的な演奏を楽しむ。ほかに、登山をたしなみ、鮮魚料理(いわし)、日本酒にも目がない。