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連載企画「パイオニア・アナリーゼ」

AVアンプの新世界を創造する「SC-LX90」

文/斎藤宏嗣

フルハイビジョン映像とHDサウンドの登場により、今期のオーディオビジュアル機器は大きな革新期を迎え、新しいエキップメントが次々と誕生している。最も注目されているのがHDサウンドの再生だ。ドルビーTrueHD、DTS-HD Master Audioなどのデコーダーを搭載し、それらのビットストリーム入力に対応したAVアンプが各社から続々と登場してきており、従来の概念を超えた雄大なスケールの新しいスタイルのアンプが求められる。

構想からプロジェクト・チームの結成、そして、企画・開発に4年の歳月を費やしたパイオニアのSC-LX90は“リファレンス・マルチチャンネル・プリメインアンプ”と呼ばれる超弩級の新フラグシップであり、今期、最大の注目モデルとして各方面から大いに期待されている。

SC-LX90
SC-LX90の背面端子部(※実際の製品とは異なる可能性があります)

440W×247H×479Dmmで35.5Kg、コンポーネント機器を2段重ねた2階建てづくりのような巨大な体躯は、初対面のマニアを視覚的にも圧倒することだろう。SC-LX90は同社の従来のAVアンプの流れから離れた革新的なものを、という構想で生まれ、モデル・ナンバーは、従来の“VSA”ではなく“SC”とされた。“SC”は「サウンド・クリエーター」「サウンド・コントローラー」などを意味するが、それと同時に同社の初期のプリメインアンプが使用していた由緒ある名称でもある。つまりSC-LX90の型番には、「新しいAVアンプ」であると同時に「原点回帰」である、というパイオニアの思いが表現されているのだ。

SC-LX90の前面パネルを開いたところ。
dts-HDやドルビーTrueHD、PlaysForSureなどのロゴが並ぶ

SC-LX90構想の根底には“AVアンプの概念を超えた新しい価値の創造”、“次世代AVアンプのリファレンスの構築”がある。具体的なコンセプトには、フルHDの世界を創造する“サウンドの品位”、“ビデオの品位”、“新しいデザイン”、“多様性・発展性”、“操作性”の5つの要素が据えられている。“サウンド”は今までに存在しないHD世界の創造、“ビデオの品位”はBDフォーマットに相応しいHDMI系の対応と処理能力、“新しいデザイン”は内部の構造や性能を外観で表現する、“多様性・発展性”はAVのみならず未来のホーム・ネットワークへの対応、“操作性”は簡単操作をそれぞれ表している。

新しいHDオーディオのマルチ・チャンネル音声に対応するアンプには、“音質”と“効率”が不可欠となる。このテーマを実現するため、従来型のアンプを超越した新開発のアンプの導入、更に、アンプの構成面を支える機械的な構造、新しいサウンド・チューニングの確立などが重視されて、10.2ch/1400Wの画期的なハイパワー・アンプが構築された。新型アンプの名称は「ダイレクトエナジーHDアンプ」。THX Ultra2 plusに準拠した新時代に相応しいアンプの誕生である。

ICEPowerモジュールを使用した“アナログクラスDアンプ”の原理
同社独自の「フルバンド・フェイズコントロール」のイメージ図

ダイレクトエナジーHDアンプは、デジタルアンプの名門で、デンマークのB&O社の子会社であるICEPower社との2年にも及ぶ共同開発で確立されたもので、従来のICEPowerのモジュールとは根本的に異なる圧倒的な品位を備えている。素子や回路に存在する固有音の束縛を受けないクラスDアンプ構成を採用し、これをアナログ・クラスDアンプと呼称している。多重帰還による歪み・高周波雑音の抑圧と安定動作、高域応答特性・歪率特性の重視、電源・筐体構造などのバックアップ環境の充実がポイント。アナログ・クラスDアンプの特徴は、デジタル及びアナログ系の多重帰還構成で、これらの帰還を返す初段のアナログ/PWM変換部に秘密がある。基本的にはPWM(パルス幅変調)の搬送波500KHz構成。通常のデジタル・クラスDアンプでは10KHz以上の高域情報が出力フィルターなどの影響で希薄だが、新アンプでは超高域まで情報密度の厚い理想的な電気特性及び聴感特性を実現する。

上で本機のデザインを“2階建て”と紹介したが、これは“ウルトラ・リジッド・セパレーテッド・コンストラクション”と呼ぶ独特の構成で、セパレート・アンプを重ねて結束した形態とも言えるものだ。

SC-LX90の構造図。プリ部とパワー部を上下2段に完全にセパレートした「ウルトラ・リジッド・セパレーテッド・コンストラクション」を採用している

底部はパワーアンプ・ブロックで、スイッチング電源と10chのダイレクトエナジーHDアンプ、上部のプリアンプ・ブロックにはアナログとデジタル系を分離したアナログ電源とプリアンプ部を内蔵する。プリ部とパワー部はインシュレーター(絶縁材)を介し結合する独自の“インシュレーテッド・デュアル・シャーシ”で、脚部には定評あるハイカーボン鋳鉄のTAOC社製インシュレーターが用いられている。

パイオニアは業界初の自動音場調整システムMCACC(マルチチャンネル・アコースティック・キャリブレーション・システム)を開発、マルチチャンネルでのルーム・アコースティックの整合を早期に実現したメーカー。新しいHDサウンドを迎えてMCACC機能の更なる精度向上をテーマに、スピーカー・システムとの距離補正の最小単位を現行の5cmから1cm単位に向上、LRシンメトリカル・アコースティックEQの採用も行った。また、使いこなし向上のために初期設定時のフルオートMCACCモードではマイクをつなぐだけでMCACCの開始画面になり、スピーカー数とサイズを確認後は測定とメモリー処理で全て自動で行うなど、簡便化が図られている。

今回、MCACCに加わった新技術が“フルバンド・フェイズコントロール”である。マルチウェイのスピーカー・システムは、クロスオーバー周波数付近で位相が大きく転移して、ステレオ及びマルチチャンネル再生の音像定位や音場再現性を大きく乱す。この現象を一気に解決する画期的なチューニング・システムがフルバンド・フェイズコントロールである。最初に各スピーカーから特殊なスイープ信号を輻射しマイクで音波を拾い、DSPで各スピーカーのインパルス応答を測定する。インパルス応答から位相特性を算出、保持してある膨大な位相特性データに照らし適合例を選び、選択された位相特性モデルの逆フィルター係数を算出し補正する仕組み。ステレオ再生では、マルチウェイの広帯域性を保ちながらフルレンジのように素直なパターン。マルチチャンネル再生では、各スピーカーの位相・群遅延特性が一様に整い音像定位及び音場空間が均一になる。ルーム・アコースティックを含めた完璧な補正が実現した。

HDシステムではHDMIリンクでビデオ/オーディオ情報を同時に伝送するためビデオ信号管理も重要。本機ではHDMI Ver.1.3a準拠、DeepColorやxvYCCにも対応する。フルHD環境対応のMARVELL社製ハイエンドスケーラーを搭載した6入力/2出力の構成。デジタル・ビデオ・コンバーターは、コンポーネント/S−VIDEO/コンポジットのアナログ・ビデオ信号を全てHDMI・1080pに変換する。AVアンプに以前より求められていた待望の5.1インチVGAのワイド液晶モニターが搭載され、外部ディスプレイの助けを借りずに設定可能で、操作性を飛躍的に向上させている。また、選択中のビデオソースのモニターも可能である。

視聴はパイオニアの視聴室で実施。S-1EXをはじめ、同社のフラグシップモデルを使用した。
視聴を行う斎藤氏


SC-LX90の聴感上の興味は、新たに構築したダイレクトエナジーHDアンプの再生音、画期的なフルバンド・フェイズコントロールの効果にあろう。再生音の総合的な印象は、聴感的なFレンジやDレンジ、音場空間の拡がりなどの制限限界を感じない余裕と開放感に溢れている。帯域内に濃やかな音の粒子が高密度に詰め込まれているが、意識的な引き締めがなく全てに伸びやかである。プロジェクトが重視した低域方向の反応のよさ、高域方向の情報量の豊かかさなど、確かに従来のアンプでは得られない新鮮な世界が展開する。全く固有のカラリゼーションを感じないプレーンな味わいだが、プログラム・ソースに含まれる艶やかさ、細部の微妙な情報、雰囲気などを鮮明に映しだす。純粋ステレオ再生にあっても、現行モデルには類をみないフレッシュで魅力的なサウンドであった。

BDのHDサラウンドでは、ドルビーTrueHDに相応しい広大な空間に明瞭にフォーカスされた音像が点在する豊かな立体感・臨場感が新次元をもたらし、聴感に誇張のない、自然だが生々しい新しいサラウンドの世界が提示される。無限の奥行きを感じる音場空間、立体感に満ちた瑞々しい音像の表情、自然な遠近感、スムーズな移動などパーフェクトと言っていいだろう。

注目のフルバンド・フェイズコントロールの効果、それは、予想を遥かに超えたものであった。ステレオ再生では、スピーカーシステムとルーム・アコースティックが融合したお馴染みのサウンド。しかし、フルバンド・フェイズコントロールをオンにすると、ルーム・アコースティックを含めパーフェクトなフラット・バランスに変化。理想的なリスニングルームで試聴するような新鮮な空間が出現し、一切の淀みが拭われクリーンな音が表れた。

サラウンドの再生では、更に劇的な効果が確認できた。空間がリスナーを中心に真円にスムーズに拡がり無限の空間が創造され、再生ソースに忠実なパターンが映される。ルームアコースティックとスピーカー・システムの位相関係がフルバンド・フェイズコントロールでパーフェクトな状態に整合された結果であろう。試みにDVD-Videoを試聴したが、ノイズや解像限界に埋もれていた濃やかな音や気配が見事に再生された。

SC-LX90の開発コード名は“スサノオ”。日本創世記の神話に登場する荒ぶる神・素戔鳴尊(スサノオノミコト)にちなんでいるという。この尊は荒ぶる逸話が多く知られるが、視点を変えると既成概念を根底から覆し、新しい時代を創造する神であったとも言える。開発コードにその名を冠したSC-LX90は、まさしくスサノオのようにAVアンプの新時代を創造する製品となるだろう。

斎藤宏嗣 HIrotsugu Saito
武蔵工業大学電気通信科卒。電機メーカーのエンジニアとして高周波回路とVTRの開発を担当ののち、オーディオ専門誌に執筆を開始する。エンジニアとしての経験を生かした管球アンプの製作で注目を集める。『季刊・オーディオアクセサリー』誌では、テープオーディオの録再テストをはじめとする各種組み合わせ試聴(スクランブルテスト)の綿密なレポートで活躍。デジタルオーディオには実験段階から深く関わり、現在でも「デジタルオーディオの第一人者」の呼び声が高い。ソフトの録音評でも高い評価を得ており、実際に録音のアドバイザーとして関係した作品はアナログ録音時代から現在に至るまで数多い。スキー、柔道、フライフィッシング、料理、ラジコン、アマチュア無線、フラウトトラベルソやリコーダーの演奏など多くの趣味を持ち、そのどれもが趣味の範疇を超えた腕前を持っているという評判である。

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