フルHDテレビ、BDプレーヤー/レコーダー、そしてBDコンテンツが揃う中、AVアンプはBD環境への本格対応が遅れていた。しかしついに、最新規格を盛り込みBD環境にフル対応するAVアンプが登場する。そのトップを切る製品のひとつがパイオニア「VSA-AX1AH」だ。
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VSA-AX1AH |
VSA-AX1AHのフロントパネル |
VSA-AX1AHの背面部 |
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次世代サラウンドフォーマットのロゴが並ぶ |
VSA-AX1AHのリモコン |
VSA-AX1AHを「BD環境フル対応アンプ」としている決定的な要素は「HDMI 1.3a対応」と「ドルビー TrueHD/DTS-HDデコード対応」である。
BDのオプション規格であるロスレス音声をフルデコード、完全にロスレス復元して再生できるBD機器は限られており(BDP-LX70とPS3がドルビーTrueHDに対応)、従来の環境では、ロスレス音声のコア部分のみの再生や、ロスレス音声と同時収録のロッシー音声の再生で妥協せざるを得ない場合もあった。
しかし、ドルビーTrueHD/DTS-HDダイレクト伝送に対応するHDMI 1.3aを搭載し、ドルビーTrueHD/DTS-HDデコーダーも搭載するVSA-AX1AHでは、何の妥協も必要ない。HDMI接続のみで常に、ディスクに収録された最高の音声を再生できるのだ。もっとも、現時点でドルビーTrueHD/DTS-HDダイレクト伝送に対応しているソース機器は皆無。今度は逆にアンプ側がプレーヤーの進歩を待つ立場となったわけだが、いずれ解消されることであろう。
■パイオニアの高音質化技術をふんだんに投入する
さてしかし、HDMI 1.3aとロスレス音声デコードに対応しただけではBD対応AVアンプとは言えない。ハイクオリティな音声データを再生ことができても、それを正確に増幅してスピーカーをドライブする力がなくては、最終的な音質はBD環境に値するものにならないのだ。
VSA-AX1AHはパワーアンプ部に新開発の「ダイレクトエナジーパワーエンジン」を採用。徹底的なローインピーダンス・ハイカレント化による信号ロス低減や、完全左右対称の回路配置による音場表現の精密化、温度変化による変動を排除する温度補償システムなどが特徴だ。クリーングランド思想に基づきグランドレイアウトも徹底検証されており、ノイズの影響や相互干渉も最小限に止められている。
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パワーブロックには「シンメトリカル・パワートレイン」構造を採用。パワー素子配列を左右対称にし、ステレオフォニック再生の誤差を最小化している |
これらは従来モデルから引き継がれている技術・思想であり、特段の目新しさはない。それはつまり、アンプとしての基礎的な部分に関しては、相手がDVDだろうがBDだろうが、やるべきことは変わらないということなのである。地道に完成度を高めるしかなく、VSA-AX1AHはそれをやったということだ。
自動音場補正「Advanced MCACC」や、マルチチャンネル再生時の低音のズレを解消する「フェイズコントロール」も、当然引き継がれている。BDでは音質の向上に伴い、より一層精密な音場描写が求められることになるだろうから、定評あるこれらの機能もさらに力を発揮することになるはずだ。なお、フロント2chのみで自然なサラウンド感を実現する「フロントサラウンド・アドバンス」機能も搭載されている。
AVコントロールセンターとしての機能についても見ておこう。まずデジタル・ビデオ・コンバーター機能が搭載され、アナログビデオ入力もデジタル変換して本機のHDMI端子から出力できるようになった。接続をHDMIにまとめてシンプルにできるわけだ。iPodとの連携、USB入力装備、圧縮オーディオ補正機能「サウンドレトリバー」といったところも従来機種から引き継ぐ。
■定位の良さや空間性の高さは刮目に値する
では、実際の音を聴いてみての印象をレポートしよう。始めに今回の試聴環境をお知らせしておく。
スピーカーはTADの思想を受け継ぎ同軸ユニットを搭載する「S-A77」シリーズによる5.1chシステム。フロントのトールボーイはリボン型スーパートゥイーターも搭載。BDプレーヤーはドルビーTrueHD対応の「BDP-LX70」。ドルビーTrueHDをデコードしてHDMIからPCM出力できる。VSA-AX1AHとはもちろんHDMIで接続した。
まず音楽CDから聴いてみたが、Jacintha「Lush Life [XRCD2]」の冒頭からその定位の確かさに驚かされた。それぞれの音が正確に揺るぎなくそこにある。ボーカルとドラムスの各パーツは同じく中央付近に配置されているが、微妙な配置が正確に再現されており、妙に重なることがなく、濁りやマスキングがない。特に各シンバルの配置が明瞭であることで、ドラマーの動き、優しいタッチが見えるかのようなリアリティが感じられる。
この定位感のよさ、空間性の高さは、Advanced MCACCによる調整の効果や左右対称回路構成などの積み重ねによるものなのだろう。5.1ch再生への期待が膨らむ。
個々の音の質にしても、シンバルはその金属板の薄さを感じさせる繊細な響きとなっているし、ウッドベースの量感の絶妙な抑え方もよい。量感を欲張らず、芯と輪郭の強さを引き出したベースラインだ。
Earth Wind & Fire「That's The Way Of The World」はMobile Fidelity
Sound Labによるリマスター盤。弾けるスネアや躍動するベースなどによるダイナミックなリズムにもしっかり追従する。S-1EXとの組み合わせで聴く機会もあったが、そのときもS-1EXをしっかり制していた。スピーカー駆動力も高いレベルにある。
さて、DVD「DEMONSTRATION DVD SURROUND.9 DTS」の5.1ch再生では期待通りのサラウンド空間を生み出してくれた。
「HERO」の大軍の気配が圧倒的なのは、音数の多さや低域の厚みもあるだろうが、それらの配置(方向と距離)が適切で空間が広いことが大きいように思える。空間が広いからこそ、そこに大軍が存在できるのだ。
「イノセンス」の食料品店の場面とは特に相性が良い。電脳ハックされた世界の異質さが存分に伝わってくるのは、空間のクリアさ、S/Nの高さといった素養の良さのおかげだ。今回試聴できなかったが、PCM収録のBD盤ではさらなる超ハイファイ空間を描き出してくれるだろう。
そして5.1ch ドルビーTrueHD収録のBD「LEGENDS OF JAZZ」である。ジョン・ピザレリとジェ−ン・モンハイトの「They
Can't Take That Away From Me」での、後方から客席の気配を伝えることで視聴者を最前列に座らせてくれるリアチャンネルの自然な響き、空気感が印象的だった。個々の音を聴いても、フルアコースティックギターの胴の響きなどから情報量の余裕を感じられた。
BDで実現される超高音質マルチチャンネルの真髄は、こういった空気感や気配といった領域の再現性が飛躍的に向上することにあるのではないだろうか。ディスクにはそこまでの情報が含まれている。そしてVSA-AX1AHにはそれを引き出せるだけの力がある。ウッドベースの引き締まった描写、別トラックのマーカス・ミラーのスラップ奏法への追従など、低域の制動もやはり確かだ。
BD再生時のインパクトはもちろん大きい。加えて、BDの高音質に対応する力を得たことで、CDやDVDの再生音質も一皮むけた印象だ。音の傾向自体は従来の同社AVアンプから変わることなく、ぶれのない正常進化を遂げたと言える。
BD移行を進めている、進めようとしている方にとっては、まさに待ち望んでいた製品のはずだ。 また、BD対応を特に意識しない場合でも、AVアンプとしての機能は完成の域に達しており、BDをターゲットとしたことで音質はさらに磨かれている。
HDMI 1.3a対応だからといってBDユーザーだけに向いた製品ということではない。先進的なユーザーから入門ユーザーまで幅広い層を満足させられる、現時点でのスタンダードを提示するアンプである。
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