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イタリアの名匠エルマンノ・オルミ監督の最終劇映画作品「ポー川のひかり」連日、盛況上映中

公開日 2009/08/17 20:40 山之内優子
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イタリアの名匠エルマンノ・オルミ監督が、北イタリアのポー川を背景に、滋味あふれる映画を作り上げた。

映画の冒頭は最古の大学都市、ボローニャ。その知の殿堂である大学図書館でショッキングな事件が起きる。サスペンスタッチのストーリーに引き込まれていると、ストーリーは急流が大河になるようにゆるやかに展開し、カメラは諧調の暗い都市の室内から輝かしいポー川の光をとらえ始める。

「ポー川のひかり」(c) COPYRIGHT 2006 cinema11undici-Rai Cinema

主人公は優れた知性の持ち主として周囲の期待を集める都会人。だが人類の知性の結集した書物をを否定するかのような行動をとる。始めにあらわれるインパクトある画面は、さすがにベネチア・ビエンナーレが開催される美術の国ならではと思わせられる。アーティスティックで印象的な場面だが、書物という今や貴重なアナログ文化を攻撃してどうするのかという気にもなる。だが、そんな理屈を越えて、やがて登場するポー川の流れ、草の動き、廃屋小屋を訪れる田舎の人々のかいま見せる、ちょっとした表情や言葉などがとても魅力的だ。都会からやってきた男と、河のほとりで暮らす人々との交流の生活は、どこにでもありそうな何気ない日常のようでいて、魅力的な細部に満ちている。失うと戻ってこない時間が過ぎる中で、都市と田園、書物と労働、事件と日常、失望と期待、男と女などの対比的な要素が、最小限の要素でさりげなく組み込まれている。人々の感情のゆらぎが水の波紋のように繊細に描かれ、ポー川の風が心に吹いてくる。

(c) COPYRIGHT 2006 cinema11undici-Rai Cinema

(c) COPYRIGHT 2006 cinema11undici-Rai Cinema

監督のエルマンノ・オルミ ( ELMANNO OLMI )は、1931年に北イタリアのベルガモに生まれた。名作「木靴の樹」でイタリアの農民の生活を描き、1978年度カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。都会を離れて一家で田園に住み、イタリアの農民や庶民の姿を描いた映画が多い。敬虔なクリスチャンで、自身が台本を書いたこの映画も、主人公は“キリスト”さんと呼ばれる設定だが、台詞には形骸化した既成の宗教や、知性のありかたへの大胆な批判も出てくる。現在79歳。本作が自身の最後の劇映画であるという。

撮影監督は監督の子息であるファビアンノ・オルミ( FABIANNO OLMI )。ヨーロッパの重厚な建築の陰影と、大河のきらめきの両方を美しく撮影し、監督のメッセージを映像によって的確に表現している。
 
ポー川のひかり
監督・脚本 エルマンノ・オルミ/2006年/94分 原題 Cento Ciodi  
現在、東京の岩波ホールで上映中。秋から全国の映画館に巡回。
盛況が続き、21日までは16時40分の上映会を特別に設定している。

映画の詳細と上映スケジュール等は以下まで。

「ポー川のひかり」公式HP
http://po-gawa.net/

岩波ホール
東京都千代田区神田神保町2-1 岩波神保町ビル10F 
TEL/03-3262-5252
http://www.iwanami-hall.com/

(文:山之内優子)

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